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尊敬しているからこそ、子どもには“媚びない”。プログラミングゼミ流・児童向けアプリ開発の心得

2017.12.27

文部科学省が2020年に改定を予定している次期指導要領では、小学校でのプログラミング教育が必修化されます。そんな中、DeNAはCSR活動の一環として約3年半前から小学校低学年にフォーカスしてプログラミング教育に取り組んでおり、佐賀県武雄市や神奈川県横浜市の公立小学校で児童を対象に実証研究授業を実施。そして、その授業で使用したアプリをベースとして、小学校低学年向けプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」を開発。2017年10月より全国に無料配信しました。

▲「プログラミングゼミ」はビジュアルプログラミングを採用した学習アプリ。パズルや既成プログラムの組み替え、ゼロからオリジナル作品を制作するなど、基礎から応用、創作まで小学校低学年の子どもたちでも理解しやすく、楽しみながらプログラミングの概念などを習得できる。
公式HP:https://programmingzemi.com/

デライトドライブ本部 CSR・ブランディング推進室の末廣 章介(すえひろ のりゆき)と樋口 裕子(ひぐち ゆうこ)は、こうした取り組みに“フルスイング”し、プログラミング教育に貢献してきたメンバー達です。今回は「プログラミングゼミ」の開発秘話を中心に、彼らの歩みを振り返ります!

小学校の教育現場で、教材をブラッシュアップし続けた

――DeNA2014年にCSR活動の一環としてプログラミング教育をスタートしたのは、代表取締役会長である南場さんの「子どもたちがプログラミングを使いこなせるようになることで、自分が想像したものを自ら作り出せる機会を与えたい。子どもたちの可能性を広げたい」という考えがきっかけでしたよね。そこから、どういった形で各小学校での教育を実施し、「プログラミングゼミ」のリリースに結びついたんですか?

末廣:南場さんの声を受け、「まずは佐賀県武雄市にある小学校でプログラミング教育をやりましょう」ということになったんです。武雄市の小学校って、Androidのタブレット端末が生徒1人に1台配られているので、こうした取り組みを行うには理想的な環境でした。

ですが、1つ課題がありました。既存のプログラミング教育教材が、小学校低学年の子どもたちに使ってもらうには方向性や難易度が合っていなかったことです。そこで、取締役の川崎(修平)さんが、教育現場で活用しやすいものを、とアプリの開発を始めたのがそもそものスタートでした。

デライトドライブ本部 CSR・ブランディング推進室 末廣章介(写真奥)
2012年に中途でDeNAに入社し、内製ゲームエンジンngCoreの開発、小学生向け通信教育サービス「アプリゼミ」の開発・運用を経て、2014年秋よりプログラミング教育を担当。小学校低学年向けにプログラミング教育の授業内容を考え、同時にアプリとサーバと教材コンテンツを開発し、講師として小学校の現場でも教えている。二児の父(小学3年9歳長男、年中4歳長女)。

その後、私や他のエンジニアが開発を引き継ぎました。私は業務のほぼ100%をプログラミング教育に割いていて、アプリ開発だけではなく小学校での授業も担当しています。

▲小学校でのプログラミング教育の様子(撮影:豊永和明)。

――樋口さんは、CSRではどんな役割を担っていますか?

樋口:私は、CSR活動全体の取りまとめやCSRサイトの編集などを担っています。また、プログラミング教育の取り組みにおいては、主に学校との各種調整といった渉外業務を担当しています。

デライトドライブ本部 CSR・ブランディング推進室 樋口裕子
前職ではインテリア関連会社にて個人顧客を相手にしたコンサルティング営業を経験。2003年にDeNAに入社。ショッピングサイトやMobageのカスタマーサポートを担当。顧客対応や審査業務、サポートセンターの立ち上げに携わり、2015年より現職。私生活では二児の母。

――学校で使っていたプログラミング教育教材は、どのようにして「プログラミングゼミ」に結実していったのでしょうか?

末廣:プログラミング教育教材を使って授業をし、生徒や先生から受けたフィードバックを機能に反映させて、というのを3年ほどくり返していると、カリキュラムがある程度形になってきたんです。そこで、もっと多くの人に使ってもらいたい、という想いから一般公開するためのアプリとして改めて開発をすることになりました。

――それが「プログラミングゼミ」だということですね。一般公開するにあたり、アプリのさらなるアップデートはありましたか?

樋口:すごくありました。それまでは学校のクローズドな環境で使われることを想定していたので、授業で使う最小限の機能だけがあるような状態だったんです。デザインの作りこみも後回しになっていました。

そこで、カスタマージャーニーマップを作成したり、UI・UXの観点でアプリに足りないものを考えたりして、デザインや機能をゼロから見直したんです。

子どもに“媚びない”デザインにする

――どういった観点でUIUXを見直したか、教えてもらえますか?

樋口:まずは、子どもに迎合しすぎないこと。デザインを見直すにあたり、私たちはまずロゴの制作からスタートしました。その際に、「大人が見ても、子どもが見ても、格好良いと思えるものにしたい。児童向けのアプリだけど、子どもに“媚びない”ものにする」というコンセプトをデザイナーと相談しながら決めました。

――それはどうしてですか?

樋口:大人も一緒になって使ってもらいたいという気持ちもありましたし、それ以上に子どもへの“尊敬”の気持ちが大きかったです。子どもって、大人が考えているよりも遥かに賢いですし、大人が彼らを見くびっていると絶対に伝わってしまうんですよ。

そうして完成したのがこのロゴです。子どもたちが砂場で遊ぶようにワクワクしてほしかったのと、子どもたちの能力や好奇心を向上させられるようなものを作りたくて。土に埋まっているような化石を掘り起こすようなカクカクしたデザインになりました。

集中力を持続させるため、動画の尺は短くした

――「プログラミングゼミ」ではアプリの中に解説動画がたくさん出てきますが、どれも“尺が短い”ことが特徴的です。これはなぜでしょうか?

末廣:これは学校の先生からフィードバックを受けて改善したもので、最初は尺の長い動画を使っていたんです。

佐賀県武雄市の小学校では、生徒が自宅で動画を視聴して予習し、教室では課題について教師が個々の生徒に合わせた指導をする「反転学習」という形式をとっていたんです。一般的に反転学習の動画の尺は4~5分ほどなので、そのくらいの尺で作っていたら、どうも上手くいかなくて。

――上手くいかなかった原因はなぜでしょうか?

末廣:低学年は、集中力を持続するのが難しく、長い尺の動画だとダレてしまうそうで、15~30秒くらいがベストらしいんです。

そのため、授業のスタイルも「短尺の動画を流す⇒その内容に沿ってプログラミングを実践する⇒短尺の動画を流す(くり返し)」というステップ・バイ・ステップで進める形に徐々に変えていきました。それがプログラミングゼミに反映されています。

▲「プログラミングゼミ」内で使用されている動画。短尺であるのみならず、「動作も3ステップ程度に収める」など、子どもが内容を覚えやすくするためにさまざまな工夫がなされている。

自分の描いた絵が動くからこそ、子どもの好奇心が持続する

――他に、子どもの好奇心を持続させるために工夫したことはありますか?

末廣:例えば、「プログラミングゼミ」には画用紙などに描いた絵をタブレットのカメラで撮影すると、その絵をアプリ内で動かせる機能があります。それを、「いかに手軽に取り込んで、動かせるようにするか」はすごく工夫してきました。

――自分の描いた絵がプログラミングで動くことって、子どもからの反応は良いですか?

末廣:そうですね。すごく良くて。自分の絵が自分の考えたように動くって、子ども達にとっては感動が大きいみたいです。その「感動体験」を、なるべく簡単に実現してもらえるようにしています。

▲カリキュラムの中で、子ども達が実際に取り込んだ絵。

それから、アプリ開発というよりもプログラミング教育のカリキュラムについて工夫していることですが、なるべく身近な事例と結びつける、ということを大事にしています。

例えば、「アプリのボタンを押すと画面が切り替わるのと同じように、自動販売機やテレビのリモコンもボタンを押すと何かが動くよね。あれもプログラミングでできているんだよ」といった感じに。

そう教えることで、「世の中にある色々なものも、プログラミングを学べば自分で開発できるようになる」というメッセージを散りばめるようにしていますね。

子どもは大人が思うよりも、ずっとすごい

――最後に訊きたいのですが、プログラミング教育のプロジェクトに“フルスイング”してきて、お2人はどんなことを学びましたか?

末廣:子どもは、大きなポテンシャルを秘めていることですね。彼らって本当に、想像以上の吸収力を持っているし、それと同時に大人が考えた通りには絶対動かない(笑)。もちろん、そこが面白いところでもあるんですけど。

先日、ある授業で「留学生向けに、街を紹介するようなアニメーションを作って」と言ったら、子どもたちにちょっと教えただけだったのに、すごい完成度のものを作ってくれたんです。それを見て感動しました。「これほどの素晴らしいものができるんだ!」って。何かを学ぶ“きっかけ”さえ作ってあげれば、子どもっていくらでも成長できるんだなって。

だからこそ、その能力を伸ばしてあげるために、プログラミングに興味を持ってもらえるような仕組みをこれからも作っていきたいです。

樋口:「プログラミングゼミ」は、もちろん学習用のツールとしても使ってほしいですし、子どもと親御さんの「コミュニケーションツール」としても使ってもらいたいなと考えています。

私自身も子を持つ親なんですけど、親ってなるべく子どもとコミュニケーションを取りたいんですよ。でも、「単にゲームで遊ぶだけ」だとなかなか親のモチベーションが上がらないかもしれないですし、子どもとゲームの趣味が合わないかもしれない。でも、「大人も楽しめる教材」であれば、子どもの教育にプラスの影響がありますから、「一緒にやってみようかな」というモチベーションにつながると思うんです。

プログラミング教育って、今は必修化を控え限られた学校で試行錯誤がされている段階で、導入に積極的でない地域もまだまだ多いです。でも、「プログラミングゼミ」をきっかけに、子どもたちが少しでもプログラミングに触れてくれたらいいな、と考えています。

どんな地域に住んでいる子どもでも、タブレットやスマートフォンの端末が1つあれば、プログラミングを学習できる。プログラミングの楽しさに触れられる。そうなれば、その子たちの可能性が広がってくると思いますし、興味を持って自主的に学んでくれる子どもも増えてくれるかもしれません。

そうなれば、良い意味で日本の教育の未来も変わってくるだろうな、とすごく期待しています。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

撮影:小堀将生

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