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ゲノムデータ活用で『MYCODE』は新たな段階へ。DeNAヘルスケアの事業化を見据えたR&D

2019.01.10

病気にかかってから治す「Sickケア」から、病気になる前に健康を管理する「Healthケア」へ。

健康長寿社会の実現を目指しているDeNAのヘルスケア事業

その一翼を担うのが、遺伝子検査サービス『MYCODE(マイコード)』事業を核とするDeNAライフサイエンスのR&Dグループです。

研究開発(R&D)とビジネスが分断されている企業も多い中、DeNAではどのように研究結果を事業化しているのでしょうか?

株式会社DeNAライフサイエンスのR&Dグループ研究員、石田 幸子(いしだ さちこ)とグループリーダー、座間 慶彦(ざま よしひこ)に話を聞き、解き明かします!

株式会社DeNAライフサイエンス R&Dグループ 研究員

石田 幸子

大学・大学院で生命科学を専攻。大学と公的研究機関で研究を続け、細胞のシグナル伝達に関する基礎研究に従事。アカデミアと組んでサイエンスを社会還元するDeNAの方針に賛同し、2014年7月入社。『MYCODE』の立ち上げから携わる。現在はそのデータを用い、企業やアカデミアとの共同研究に基づいた新規事業・サービス開発に、研究者として従事している。

株式会社DeNAライフサイエンス R&Dグループ グループリーダー

座間 慶彦

2016年新卒入社。学生時代は経済学部で開発経済学を研究。NGOを組織し、発展途上国を持続的に発展させるための施策をフィールドワークを通して提案する活動を行なう。「事業をつくる力をつけ、多様な人材をマネジメントできるようになり、発展途上国で事業をつくりたい」とDeNAに入社。『MYCODE』のセールス・マーケティングを経て、現在はグループリーダー。企業との協業として、事業開発・研究開発を推進している。

研究成果を事業化する3つのポイント

――一般的には、事業化されない「研究のための研究」を行っている研究開発部門も多いと聞きます。DeNAではなぜ、研究成果の事業化を実現できているのでしょうか?


▲株式会社DeNAライフサイエンス R&Dグループ グループリーダー 座間 慶彦

座間 慶彦(以下、座間):ポイントは3点あるかと思います。

1点目は、遺伝子検査サービス『MYCODE』会員さまのゲノムデータを同意の上で活用でき、会員さまとのタッチポイントを自社で持っている点。

2点目は「事業化力」と「サイエンスの力」を持ち合わせている点。

3点目は研究者もビジネス系人材も「事業化を見据えた研究開発」という同じ目的に向かい、同一の組織で取り組んでいる点、でしょうか。

――まず、1点目のゲノムデータ活用と会員さまとのタッチポイントの点でいうと?

MYCODE事業の全体像と合わせて、説明しますね。

この事業には大きく2つの柱があります。

1つはB to Cの遺伝子検査サービス『MYCODE』。これは、東京大学医科学研究所との共同研究成果を社会実装しています。

唾液の採取により病気のかかりやすさ、体質などの遺伝的傾向を知ることができる遺伝子検査サービスですね。


▲遺伝子検査『MYCODE(マイコード)』の専用キット。唾液をキットに入れて郵送すると、最大280の検査項目結果や生活改善アドバイスを、PCやスマートフォン、タブレットなどでいつでもどこでも見ることができる(https://dena.com/jp/press/000124)

――『MYCODE』は遺伝子検査サービスの先駆け的な存在だという印象です。

座間:ええ。2014年からサービスを開始しているので、名前をご存知の方や、サービス自体をご利用頂いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

――確かに、一部の方には馴染みがあるかもしれません。もう1つの事業とは、どのようなものでしょうか?

座間:もう1つはB to Bの事業です。MYCODEをスタートさせた当初から『MYCODE Research(マイコード・リサーチ)』というインターネットを活用したゲノム研究プロジェクトを行っているんです。

こちらは、『MYCODE』の遺伝子検査を受けた会員さま以外にはあまり知られていないかもしれませんが、これが会員さまとのタッチポイントの1つとなっています。

『MYCODE』の遺伝子検査サービスを利用されている会員のみなさまのご協力を得て「病気や体質と遺伝子との関わりの解明」「病気の予防法の開発」などを目指しています。

――「会員のみなさまのご協力を得て」というと、具体的にはどのように進めているのでしょうか?


▲株式会社DeNAライフサイエンス R&Dグループ 研究員 石田 幸子

石田 幸子(以下、石田):共同研究の例としては、東京大学医科学研究所と共同で日本人のための疾病リスク予測モデルの構築を目的とした研究を推進しています。

『MYCODE Research』のサイト上に研究テーマ一覧を公開していて、遺伝子検査を受けた会員さまの中で研究同意をいただいた方に「興味があるテーマがあれば任意でご回答いただく」という形式で、研究テーマに対する回答データを集めています。

回答結果が一定数集まれば、その回答とゲノムデータを紐づけ、関連性などを研究します。

その他にも、食品・製薬企業やアカデミアとの共同研究では、研究参加をご希望いただいた会員さまから、ゲノムデータ以外にも、血液や糞便など様々なデータをいただいて研究を実施しています。

研究成果のレポート一覧は、サイト上で、会員のみなさまに公開もしています。

そうしたデータを蓄積し、利活用して、病気の予防や治療に貢献する共同研究、事業開発をしていくことを目的にしているんです。


▲東京大学医科学研究所と推進している日本人のための疾病リスク予測モデルの構築を目的とした『MYCODE Research』共同研究の取り組み概要。『日本人DNA多型データを用いた日本人のための疾病リスク予測モデルの研究』(出典:https://mycode.jp/survey/research/overview )

――一度、遺伝子検査を受けて終わりではなく、会員さまとつながり続けている。さらに事業化や共同研究につながる継続的なサイクルができているのですね。

石田:そうなんです。今まで遺伝子検査を受けてくださった会員さまのおかげで、このような発展的な取り組みができるようになりました。

2014年に『MYCODE』のサービスを開始し、2~3年で蓄積されたデータが十分な量まで収集されたからです。

今まさに、その研究データを利活用し、事業を起こしていくことができる段階になったという感じですね。

モノからコト消費の流れで個人最適化は必然

――2点目の「サイエンス」と「事業化力」を持ち合わせている、という点については?

座間:まず「事業化力」はもともと、DeNAが持っている強みです。「さまざまなサービスをゼロからつくる」「さまざまな協業先と事業をつくる」ということが得意だというアイデンティティがあります。

そこに、石田のような研究者が来たことで、事業化力にサイエンスの力をかけ合わせ、サイエンスドリブンで事業が生み出せるようになったんです。

――なるほど。DeNAライフサイエンスはさまざまな企業や研究機関との事業化や事業化のための実証実験を進めていますが、この「サイエンス」と「事業化力」が活かされていると思いますか?

座間:ええ。メーカーなどの企業からは、DeNAライフサイエンスのこの両輪の力を求められていると感じます。

前提として、人口が減少していく中で、単一的で機能的なモノをより多くの人に届ける「モノ消費」から、個人に最適化された体験を売る「コト消費」にシフトしていっています。

企業は、個人がより満足できるものを届けなければならないという岐路に立っているんです。

石田:マス向けではなく個々に合わせたものが求められているという点で、様々な個人の情報を組み合わせて、研究ベースでサービスをつくりたいという企業は多いですね。

座間:そのような背景から、ゲノムデータを含めた様々なヘルスケア関連データを商品開発や事業開発に活かすニーズが企業に出てくるのは必然です。

そうしたニーズを満たすためには、データ収集を委託して、自社で解析するのが一般的だと思いますが、DeNAライフサイエンスはゲノムデータに加えて、生活習慣等のヘルスケア関連データを活用できるので、企画提案から解析、協業での事業開発までをワンストップでできます。

企業のマーケティングや事業開発まで並走させていただくイメージですね。

ワンストップで事業化検討・商品開発をサポート

――「事業化力」と「サイエンス力」を持っていることが活きている実例はどのようなものがありますか?

座間:食品やサプリメントなどの栄養素に係るソリューションを提供している世界的な栄養素材企業とも、日本でのヘルスケア分野の新規サービス開発に向けて協業を開始しています。

日本での事業化にあたり、先方としてはデータや、顧客とのタッチポイントとなる実際のサービスが必要という課題がありました。

そこで、科学的根拠を尊重する姿勢や、実際に『MYCODE』を立ち上げた事業化力でDeNAライフサイエンスが力になれるということで、パートナーとして共同で事業開発(※)をしています。

現時点ではお話ができないものもあるのですが、協業形態での事業開発についても数社お取り組みをご検討させていただいています。

※……https://dena.com/jp/press/003581

石田:共同研究の例としては、森永乳業株式会社様と腸内細菌と遺伝子の関係を明らかにする研究を行っています。

『MYCODE Research』の一環で、研究に同意いただいた会員さまのご協力を得て研究を進めているのですが、今年、初めての本研究の成果として科学雑誌に、日本人の腸内にビフィズス菌が多い理由を発表しました。


▲森永乳業株式会社と共同で腸内フローラ(腸内細菌)をテーマに、未病(病気に向かっている状態)を可視化するサービスの開発を目的とした実証実験を2016年9月より開始。2018年10月に、研究初めての成果として日本人の腸内にビフィズス菌が多い理由の1つが、小腸での乳糖の分解・吸収機能の弱さである可能性を示し科学雑誌『PLUS ONE』に掲載された。(出典:https://dena.com/jp/press/004396 )

個人からチームへ。研究者の働き方も変わる

――研究者が加わったことで、「事業化」に「サイエンス」をかけあわせられるようになったと。研究者が事業化まで関わるとなると、研究のみを行うより大変なのではないでしょうか?

石田:確かに事業化を目指すという難しさはありますが、逆に「事業化」という出口を見据えてできる研究の方が目標が明確になるかもしれません。

DeNA入社以前は、研究成果を出すまでになかりの時間がかかり、事業化にはほど遠い基礎研究の世界にいたので、もっと早いスパンで社会に与える影響を知りたいという思いもあったんです。

――DeNAでの研究に、以前の働き方とギャップを感じませんでしたか?

石田:違いはありますが、チームで進めることでよりスピーディーでダイナミックな動き方ができる、と感じていますね。

「事業化を見据えた研究開発」という同じ目的に向かってチーム力を出せる。

これが、なぜDeNAライフサイエンスが研究成果を事業化できるのか、という3点目のポイントです。

以前のアカデミックな研究は基本的に1人で、研究計画の立案、実験、データ取り、解析を進めていましたが、DeNAではいろいろなチームを巻き込んで研究を進めます。

会員さまに研究参加の同意を取るためには法務チーム、問い合わせ対応には、CSチーム、研究テーマについてのわかりやすい募集文面をつくるためには、サービスチーム……などの各所に協力してもらっているんです。

――1人で研究を進めるより、スピードやインパクトは出せそうですね。そのような研究者の働き方はまだ少ないのでは?

座間:このような研究者の働き方は、今後よりメジャーになってくると思います。

研究というと今までは「ウェット」と呼ばれる実験動物や細胞を用いた実験科学的な研究を指すことが多かったのですが、今は、ヒトの膨大なデータを用いた「ドライ」解析により新しい発見をしていくかという情報科学的な研究が注目されています。

AI技術の進歩があってビッグデータの世界でブレイクスルーが起きたように、研究の世界でもデータを活用して何かを生み出すことが価値になってきています。

日本には数少ない「生物のビッグデータ解析ができる専門家」バイオインフォマティシャンもDeNAには在籍しています。

より短いタイムラインで研究成果を社会に還元

――ゲノムデータを持ち、それを解析する専門家、翻訳できる研究者、ビジネスに長けた人たちが結びついているのが、DeNAライフサイエンスのR&Dグループなのですね。サイエンスドリブンのビジネスは、ますますおもしろくなりそうです。

座間:そう思います。

今後は、DeNAライフサイエンスという社名を背負っているからには、ライフサイエンス領域で強い会社になっていきたいと思います。

研究は長いタイムラインで世の中に還元されるのが当たり前でしたが、研究と事業を両輪で回すことで、より短いタイムラインで研究成果を社会還元できる「こと」をつくれるプレイヤーになっていきたいです。

石田:「人々を健康にしたい」という思いがこの会社のベースにあるので、そうした価値を心待ちにしている人たちに、正しい科学で価値を提供できるサービスをつくりたいです。

それが、世の中に本当に求められていることだと思います。

――今後もさまざまなサービスが生まれそうですね! どのような方と一緒に働きたいですか?

石田:研究者目線で言うと、研究で自身の専門分野を突き詰めてきた価値観を持ちながら、事業化という視点でも、新しい世界、たとえば、データサイエンスを活かした新規事業開発などに好奇心がある方ですね。

新たな領域に躊躇なく入れる人ならできると思います。

座間:私が一緒に働きたいのは、新しいものをつくることを楽しめる方です!

まだ世の中にないビジネスでも、見えていない世界があっても、それを統合してどう形にするか前向きに考えていける人と、サイエンスドリブンで新しいものを生み出していきたいですね。

今まさに、持っている資産を活用して新しい事業をつくることにも挑戦しているところです!

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※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆: さとう ともこ 編集:榮田 佳織 撮影:小堀 将生

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