CULTURE
18.12.12
AI人材が集まるDeNAがAIマネジメント層採用を加速する背景

2018年12月現在、DeNAのAIシステム部にはAI人材が約50名在籍。データサイエンティストの世界競技「Kaggle」のトップランカーが複数名在籍するなど、世界有数の人材が集まっていると自負しています。
尖った人材が集まるAIシステム部で、今、圧倒的に求められているのはマネジメント人材。
DeNAがAIマネジメント人材に期待することを、DeNA執行役員システム本部長のnekokakこと、小林 篤(こばやし あつし)、AIシステム部長の山田 憲晋(やまだ けんしん)に聞きました。
なぜDeNAはAIマネジメント人材を熱望するのか
――あらためて、DeNAのAIシステム部とはどのような組織でしょうか?

1995年4月 NECに入社。TCP Offload Engine等の研究開発に従事。2008年7月DeNA入社。Mobageのサービス開発・インフラ運用、ゲーム開発チームのマネージメントを経て、現在は、DeNA全社のディープラーニングを中心としたAI活用事業の研究開発及び分析基盤の構築・運用を行うAIシステム部のマネージメントを行っている。
山田 憲晋(以下、憲晋):AI技術を高いレベルで発揮することでDeNAの各事業を支えるため、多様なAI人材が研究開発に従事している組織です。
2016年10月、AI技術による事業貢献を実現すべく発足したAIシステム部ですが、発足当初は数名のAI研究開発エンジニアしかいませんでした。
ですが、この2年でコンピュータビジョンを中心に優秀なAI人材を積極的に集めたことで、現在はKaggler(※1)などデータサイエンティストを含む約50名の組織に発展しています。
※1……データサイエンティストたちが集い、企業や研究者が投稿したデータに対しての最適モデルを競い合うプラットフォーム「Kaggle」に取り組む人たち
「データサイエンティストの世界競技」Kaggleハイスコア者がこれからのモノづくりに欠かせないワケとは

憲晋:2019年4月には10名の新卒社員が加わる予定です。
――更に大きな組織になるのですね。AIシステム部が従事している、研究開発の目的をお聞かせください。

小林 篤(以下、nekokak):研究開発の目的を一言で言うと「自分たちがつくるもので世の中をどう変えるか、どう事業貢献するか」。
研究開発をして終わりではなくDeNAは事業化、サービスへの貢献といった出口を重要視しています。出口とは「お客様に価値を直接届けること」ですね。
憲晋:一般的な研究開発の組織は事業から遠く離れ、研究すること自体が目的化してしまうことが多々あります。大手企業の研究所出身者で「研究結果を出しても、事業に活かすことができない」といった課題感からDeNAに転職してくる方も多くいます。
DeNAでの研究は、具体的なサービスの成功という大きな目標に対して事業部と同じ方向に向かい研究開発を進めていける点がやりがいであり、特徴です。
ビジネス系人材、エンジニア部隊と一緒に、AI技術をどう事業・サービスに活かすかを本質的に考え、勝つために何をすべきかを追求する。事業部と距離がある研究組織の中では体験できないと思います。
――異なる職種とも、同じ目的に向かって一体感ある動きができるということですね。今、AIマネジメント人材の採用を加速する理由をお聞かせください。
憲晋:AI研究開発エンジニアの数に対して、圧倒的にマネジメント人材が不足しています。
多数多様なAI研究開発エンジニアの能力をフルに活かすためには、マネジメント層を厚くする必要があります。チーム・組織として成果を出すベクトルをしっかりと示さなければならない。
――AIマネジメント人材とはどのような能力が求められるのでしょうか?

nekokak:私たちが考えているAIマネージャーは、AI人材のマネジメントを行いチームビルディングまでを担える人材です。AI領域でトッププレイヤーであることは必須ではありません。
事業部と連携することが多いため、ピープルマネジメント・ケア能力に加え、戦略思考を持ち、両者のハブとなれる折衝力・課題分解能力などに長けた方が適したポジションかもしれません。
AIの戦略を描きながら優秀なメンバーを率いなければならないので、もちろん一定のAI領域への研究の素地はあるといいですね。
――とても難易度が高そうですが、AI領域で未来をつくっていくマネジメントは刺激的ですね。
憲晋:ええ。一般的な大企業で研究職としてできることは「業界の研究動向を把握した上での研究開発」にとどまります。
アカデミック領域での成果に集中することになるため、論文を書くことや特許を出すこと自体が目的化してしまうことも多いです。DeNAでは研究成果を、自分の手でサービスに実装し、具体的に事業貢献していくことを目的としていることが大きな違いです。
今後、DeNAからAIを活用した新規事業がどんどん出てきます。その実現に直結した研究開発グループを率いていく醍醐味は計り知れないと思います。
優秀研究開発に関わるメンバーとのディスカッションは大きな刺激になります。グループとしてどのような研究開発成果を生み出しいくかが重要であり、マネジメントの手腕次第でプロジェクトの成功確率は大きく変わります。
nekokak:DeNAには、自分から「これをやってみよう」と提案ができる環境があります。「DeNAとしてこれからどういうAI技術を研究開発していくか」を、一緒に検討していくことができたら、さらに強い組織になれると思います。
マネジメント人材にこそ多様性が求められる
――AIシステム部のマネジメント人材に適したタイプはありますか?
憲晋:いろいろなタイプを求めています。実際に今、コンピュータビジョン領域には2人のマネージャーがいますが両者違うタイプです(※2)。
1人は研究者としてもトップスターで、自ら手を動かして研究を引っ張り、その背中を見せながらメンバーを指導していくタイプかな。
メンバーとしても優秀な研究者と一緒に研究開発できて、自分の研究を見てくれるのは刺激になり、成長を実感できると思います。
もう1人は、1人1人を輝かせるためにその時々状況を見ながら、そのメンバーが適切に各プロジェクトで活躍できるように、周りを巻き込みながら必要なサポートができるタイプです。
課題が起こりそうなときは放置せずに解決に動いてくれるので、メンバーとしては自分の取り組みが担保されていることに圧倒的な安心感がありますね。
※2……2人のマネージャーのキャリアストーリーは下記記事
・「好奇心」が原動力。研究者だった私がAIエンジニアマネージャーになってもやりたいことすべてに力を注げる理由
・メーカーからDeNAへ。AIプロジェクトマネジメントに全力を注ぐ元研究員

nekokak:こういった2人のタイプが組織に与える影響はすごく大きいですよね。
AIに限ったことではありませんが、社内の事業が拡大する中で人材が多様化し、マネジメントにも多様性が求められると思います。
外で経験を積んでいる方を仲間として迎え入れて、多様性を増やしていくことはとても重要だと思っています。
憲晋:AI研究開発エンジニアはスペシャリスト志向の人材が多く、一般的な組織のように内部からマネージャーが育ちにくい傾向にあります。
DeNA内にはプレイングマネージャータイプが多いですが、他社で研究開発マネジメント経験を積んだ人材に、新しい価値をもたらしてもらいたいと思っています。
研究開発の成果をビジネス化する躍動感
――ゲーム、ヘルスケア、オートモーティブ、スポーツなど、さまざまな事業領域がありますが、AIマネジメント人材の関わり方を教えてください。
憲晋:たとえば、オートモーティブ事業では、事故削減ソリューションにコンピュータビジョンの技術を活用しています(※3)。
長期的な研究を通して自動運転の実現に貢献するというよりも「この数年以内に実現するビジネスをつくること」に事業部と取り組んでいます。
※3…… 事故削減プロジェクトの詳細は『DeNA×AI』https://dena.ai/work6/ に掲載

――研究テーマとしてではなく「ビジネス化を目的とした技術としてのコンピュータービジョン」なのですね。
憲晋:ユニークなところでは、DeNAのスポーツ事業への貢献を狙っています。横浜DeNAベイスターズのチーム強化にコンピュータビジョンやデータサイエンスの技術活用を進めています。
コンピュータビジョンによる映像データ解析の対象としては、ピッチングフォーム、バッティングフォーム、守備、走塁などが挙げられます。
直近、注力しようとしているプロジェクトでは、グラウンド全体をカメラで撮影して、走塁や守備の状況を映像解析してトラッキングすることで、守備走塁のパフォーマンスを定量的に評価可能な仕組みの導入にチャレンジしています。

――事業部と同じ立ち位置で、サービスづくりに直結した研究ができる環境ですね。
nekokak:DeNAは「研究しているものがいかに事業にダイレクトに入っていけるかというプロセス」を大事にしています。自分の研究成果だけで満足しないことが求められますが、研究開発そのものは非常に重要なのでいかにそのバランスを取るかですね。
憲晋:事業と研究のバランスを取ることはすごく難しいので、そこを担えるマネジメント人材は必須ですね。
それから、中長期的な展望を一緒につくっていきたいんです。
今は良くても「3年以上の先を考えたときに、自分たちがどのように強い技術を育てていくか」という中長期的なAI技術戦略の議論を十分にやり尽くせているとは言えません。
マネジメント層を強化して、一緒に深く議論できる余裕をつくっていきたい。
AI技術戦略を策定し、まだない事業の創造に挑戦
――AIマネジメントの具体的なポジションとしては、AIプロジェクトマネージャーとAI研究開発マネージャーを募集していますね。まず、AIプロジェクトマネージャーの役割からお聞かせください。
憲晋:AIプロジェクトマネージャーは、AIシステム部内の各プロジェクトを管理し、事業部に対して期待されるアウトプットに、チームとしてコミットすることが役割です。

nekokak:AIプロジェクトマネージャーは、全体の要件を理解したうえで、それが実際に事業のニーズとして求められるレベルに到達しているのか、進捗を管理しながら開発を進めていく、というイメージですよね。
憲晋:そうですね。不確定性のあるものを開発していくのでどれだけの成果を出せるかは、やってみなければわかりません。
目的への影響を判断したうえで、事業部とすり合わせて計画を柔軟に変更しながら、チームメンバーと話し合って形にしていきます。
事業部の期待感を上げすきず下げすぎず、しっかりと説明してすり合わせをすることが必要です。マネジメントを担う人材が、事業部とAI人材の間に入ってサポートすることで、安心して研究開発に取り組める環境をつくることも大事です。
――もうひとつの職務、AI研究開発マネージャーの役割をお聞かせください。
憲晋:AI研究開発マネージャーは、端的に言うと、エンジニアのキャリアを支援することが大きな役割です。
メンバーが従事している研究開発の技術そのものを理解し、AIプロジェクトマネージャーと連携しながら、プロジェクトへのアサインや研究開発において本人の希望と実際に行なうことのマッチングを図る。それから、業務遂行レベルをどう高めるかを考えて、人材育成にコミットすることで組織の成長に貢献します。
nekokak:戦略策定にも関わってもらいます。
その戦略から新しい事業が生まれてもいいと思っています。早いうちから領域を定めてそこに技術投資をしていけば、2年後、3年後に他よりも先行して事業を立ち上げられる可能性が高くなります。AI人材を取りまとめながら、新しい軸をつくっていく役割と言えますね。
憲晋:事業部側は私たちにビジネス的な視点でAIの可能性を示してくれます。
私たちは技術の潮流を読み、技術をベースとした新規事業のあり方を考えていくことができます。事業部と対になって、今まだないビジネス・サービスづくりにチャレンジしていきたいと考えています。
――すてきな方が仲間になってくださるといいですね! ありがとうございました。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆: さとう ともこ 編集:榮田 佳織 撮影:小堀 将生