

「とにかく、やりたいことにはすぐに足を突っ込んでしまうんですよね」と語る、AIシステム部門で副部長を務める内田 祐介(うちだ ゆうすけ)。
研究開発、プロジェクト推進、イベント主催や学会での講演にマネジメント。多忙な毎日を送っているにもかかわらず、彼の表情は朗らか。日々、充実していることが伺えます。
前職は通信キャリアの研究員。研究成果を出せずに悩んだ新人時代を乗り越え、調子が出てきたところで思わぬ異動で本社勤務に。スマートフォンのアプリ開発で多忙を極めたにも関わらず、博士課程取得、育児休暇と様々な経験を同時に積んできました。
そして今、内田はDeNAに活躍の場を移し、自ら第一線のプレーヤーとして複数のプロジェクトを推進しながら、マネジメント職にも「全力で」楽しんで取り組んでいます。
「どんな状況であっても、新しいチャレンジをすることに情熱を持つ」。様々な機会にチャレンジしてきた内田のキャリアの変遷、モチベーションの源泉に迫ってみると、彼自身の一貫したスタイルが見えてきました。
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研究成果を出せず、アメリカで活路を見出した新人時代

大学では映像伝送における自動再送制御や前方誤り訂正を研究。2007年、大手通信キャリア入社。新人研修を経て研究所に配属、画像検索の基礎研究および画像検索エンジンの実用化に従事。本社企画開発部門に在籍中の2016年、社会人学生として博士号を取得(情報理工学)。2017年にDeNAに入社、AI研究開発エンジニアとして、深層学習(ディープラーニング)を中心としたコンピュータビジョンの研究開発に従事。2018年4月グループマネージャー、同年10月に副部長に就任。学会発表、技術イベントなどの対外的な活動も積極的に行っている。
こんにちは、内田です。
AIシステム部の副部長には今年、2018年10月になったばかりです。私自身は特にマネジメント層になりたかったわけではなく、どちらかというとプレイヤー志向だと思っています。
ただ、やるからには「全部、全力でやってやる!」という性分なので、マネジメントも研究も、それ以外のことも興味の赴くままに取り組んでいます。
前職は新卒で入社した通信キャリアの研究所で研究員をしていました。新卒で入社した当時の私と比べると、今の学生さんはものすごく優秀だと感じますね。新卒採用で学生さんとお会いする機会もありますが、彼らと比べて自分は決して「できがいい」ほうではなかったと思います。
学生の頃の私は、1日中ネットゲームをしていた時期もあり、あまり社会性がありませんでした。入社後の研修や飲み会で真人間に押し上げられて社会人になっていけた、という感じです。
研修後は希望どおり研究所に配属になり、主に動画圧縮技術を研究しているグループに入りました。当時の上司が「新しいことを自由にさせる」という方針だったので、社内ニート的に何の役に立つかも分からないようなものも含めていろんな研究を試していました。
ですが、2~3年は本当に何の成果も出せなくて辛かったです。
既に、ある程度形になっているプロジェクトに参加して成果を出している同期や後輩を羨ましく感じたりもしました。私が成果を出せない間に学会での登壇や、研究論文の発表機会を得ていたからです。
その一方、私は「そもそも何をするか」から見つけ出さないといけませんでした。こうなったら、国際的に認められる成果を目指してやるぞと、研究を続けたんです。
2010年5月から半年間、アメリカのシリコンバレーにあるSRI(※1)インターナショナルに客員研究員として行く機会を得て、現地の研究者と共同で画像検索、映像検索技術の研究を行いました。
※1……SRI=「スタンフォード・リサーチ・インスティテュート」の略称。

そのとき、アメリカ国立標準技術研究所(NIST) が実施している競争型の国際ワークショップに参加しました。タスクとデータセットが与えられ、世界の研究者がそのタスクについての精度を競うものです。
私が参加したのは、映像検索や認識技術を扱うTRECVIDというワークショップで、その中でもビジネスに直結しそうな動画のコピー検出タスクに取り組みました。
これは、当時問題となっていた動画共有サイトへの著作権侵害コンテンツのアップロードを自動検出するような応用を想定したタスクです。
このようなタスクで重要なことは、高精度な検索を実現することはもちろんですが、大規模な動画データセットに対して、いかに高速に処理できるかということも非常に重要です。
この高精度かつ高速という背反する要求をいかに満たすかが検索技術の醍醐味であり、私自身、このタスクへの参加を通して検索技術そのものへの興味を強くしていきました。
そこから画像検索や画像認識など、コンピュータビジョンにかなり近い領域に入っていったんです。
突然の異動、超多忙でも博士号。どんなときも好奇心は勝つ
アメリカから帰国してからは、研究所でユースケースとビジネスを考えて画像検索の研究を進めました。
研究成果をライブラリ化し、他社アプリのエンジンに採用されたり、自社のARサービスのエンジンに組み込まれるなど、実用例も見られるようになりました。
ところが、国際学会でもコンスタントに論文を通せるようになり、研究者としてやっと上り調子になってきたところで、本社へ異動の辞令を受けたのです。
当時の私からすると「研究者としてのキャリアの中断」のように感じられ、非常に葛藤がありました。
実は同時期、社会人博士課程への入学を予定していました。本社に異動し、働くペースや取り組むプロジェクトが変わると、博士課程に通う時間もないかもしれない。そんな不安もありました。

異動してからは目まぐるしかったです。
異動先はスマートフォンやガラケーといった携帯端末の企画開発部門。私はキャリア専用のアプリを3つほど同時に担当していました。初期設定だったり、データバックアップや引き継ぎアプリだったりと根幹となる重要なアプリばかりで、負荷は相当高かった。
しかも、いろんなアプリと連携するので他部署の担当と多くの調整をしなければならなくて、研究畑出身からすると最初はしんどかったです。
幸運だったのは、配属先のグループに相当優秀な同期がいて、その同期から本当に色々なことを学べたことです。折衝能力などのビジネススキルはこの期間に相当伸ばすことができたと思います。
そんなしんどさもあった中ですが、博士課程にも諦めずに通うことにしました。
出席必須の大学院の授業とミーティングが同じ曜日に重なっていたりすることもあるので、先回りして調整をかけ、有休を取りながら受講していました。
さらに、新規事業検討の有志に手を挙げて参画したプロジェクトの企画が通ったりした時期でもあり、やることは益々増えました。全部やりたいことなので、先回りをして調整する力をつけたのもこの時期ですね。

そしてこの時期に、子どもが生まれて4ヶ月間の育児休暇も取得したんです。
博士論文を書く余裕もなく寝不足になりながら育児をしていました。博士論文提出1ヶ月前まで、1ページも書けない状態だったんですが、最後の1ヶ月でなんとか追い上げたという感じです。
これからの研究にはエンジニアリング力が必須
育休取得後は研究所に復帰して、いろいろと携わらせて頂き、東京大学の起業家育成プログラムにも行かせていただきました。
DeNAに転職を決意したのはその後ですね。
動機は、逆説的な事実ですが「研究者よりもエンジニアのほうが最新の技術に精通している」と感じていたからです。優秀なエンジニアは最新の技術をいち早く試したり応用したりできるので、最新技術のキャッチアップや開発がとても早い。
研究における「エンジニアリング」のウェイト高まってきています。少なくとも深層学習の分野ではそうだと思っています。
深層学習では、理論や研究アイデアも当然重要ですが、どちらかというとエンジニアリング領域で自身のアイデアを実際に試した結果を得ながら試行錯誤をすることが研究の発展につながります。「モデルをつくる」「その結果を評価してPDCAをまわす」どちらにもエンジニア能力が必要です。
「エンジニアリングスキルを高めながら、テクノロジーがビジネスに直結する仕事をしたい」という思いもあり、環境を変えて新しいチャレンジをしたいと悩んでいたタイミングで、DeNAと出会いました。
DeNAは「エンジニアを大切にした、モノづくりの会社」というポジティブなイメージがありました。それに、いろいろな事業領域があるので、好奇心旺盛な私でも飽きないだろうなと思いましたね。
2017年に入社してからは、AIシステム部に所属しながら、オートモーティブ事業本部のAIによる交通事故削減を実現するプロジェクトに参画しました。そこでは主にドライバーの行動認識のためのコンピュータビジョン技術の研究開発(※2)を行っています。
最初は3人でスタートしたこのプロジェクトですが、現在、AIシステム部のエンジニアやデータサイエンティストも多数Joinし、大きなプロジェクトとして動いています。
※2……プロジェクト詳細はDeNA×AI(https://dena.ai/work6/)に掲載
「技術がシェアされ、全体の強みになる仕組み」を実現したい
DeNAではいろんなことができるので、喜んで足を突っ込んでいます。前述のプロジェクトでは、コンピュータビジョン技術の研究開発だけではなく、システム設計・開発的なことから、分析業務のようなこともしたりしていました。
また、採用やプレゼンス向上を意識しながら、DeNA主催のイベントを企画運営するという自分としてはこれまで経験のないような取り組みにも携わりました。
プロジェクトの人数が増えるとAIシステム部側のPMみたいな役割をしたりと、いろんなことに手を広げて大変な時期もありました。
ですが、いつでも全力は出します。
「どうやってすべてを全力でやるのか」と疑問に思われるかもしれません。確かに私は超人ではないので、工夫はしています。
できる形にしてほかの人にお願いしたり、事業部から必要だと言われたことに対しても「本当に必要か、なかったらダメなのか、これでできるんじゃないか」と、やらなくても良い可能性のあることを見極め提案したりすることも大事にしています。
後から急に仕事が発生しないように、誰にボールがあるのか分からないような曖昧なタスクは早めに確認を取るようにして乗り切りましたね。その後、システム開発、分析リーダー、PMなど、少しずつ専門家が来てくれて助かっています。

2018年10月に副部長になりましたが、今までの業務や立場にあまり変化は感じません。
ピープルマネジメントを行ったり技術戦略を考えたりと、業務は増えましたが、元来の「何でもやってみよう」という考えで、近くの優秀なマネージャーから学んだり、一般論としてのマネジメントを勉強したりしながら興味深く取り組んでいます。
マネジメントとして意図的に行っているのは「シェアされるべき技術やノウハウがシェアされて全体の強みになる仕組みや風土づくり」。
技術的な情報のシェアという観点では、AIシステム部では、最新の論文や技術記事、ニュース等が毎日Slackでシェアされ、議論が行われる風土ができており、私自身も非常に勉強になっています。
また、オンラインの情報共有ではなく、対面での議論も重要だと考えています。
進捗確認になりがちなチームの定例を、各メンバーが現在参画しているプロジェクトの技術やノウハウのシェアが一番の目的と再定義するなど、常にベストな状態を模索しながら運用しています。AIシステム部では、国際学会への参加報告や技術的なサーベイを持ち回りで行う技術共有会があります。
これも部のメンバーが多くなったため、各専門分野に特化した深い議論が行えないのではという意識もあり、この辺りも何かできないかと検討しています。
「外向けのシェア」にも力を入れています。
外部発信は、私自身がかなり好きでやっていたのですが、徐々にメンバーを巻き込むことで「エンジニアが技術記事を執筆したり、オープンな勉強会などで国際学会の参加報告や最新論文の紹介を行うこと」もAIシステム部の風土として根付いてきました。
「技術のDeNA」をしっかりと伝えて、業界全体の底上げや、想いを同じくする仲間との出会いにつながるといいなと思っています。
執筆: さとう ともこ 構成:下島 夏蓮 編集:榮田 佳織 撮影:小堀 将生