所信表明。それは自分の考えや、信念、方針などを広く伝えること。
時代を動かしたどんな大きな変革も、最初はたった1人の強い信念からはじまりました。確かなビジョンと哲学に裏打ちされた本気の言葉は、時代を変えるほど大きな力を持つのです。
DeNAで各部を率いるリーダーたちの「所信表明」を公開するこのシリーズ。今回は経営企画本部の法務部部長と経理部部長が対談形式で所信を表明します。
彼らの所信表明は「間接部門としてではなく、志の高い事業を推進する当事者としての法務・経理パーソンが活躍できる環境の構築を推進したい」というもの。
その真意とは?
最新の法的課題に挑戦したい
――お二人は同じ経営企画本部で法務部長と経理部長されている。席も近いそうですね。
法務部長:同じフロアで、部署も隣です。
経理部長:観葉植物を挟んですぐ。だから法務部に気軽に相談に行けて、ラクですね(笑)。
――お二人とも中途入社でDeNAに入られています。それまでの経歴を伺いたいのですが、法務部長の前職はソニーだそうですね。
法務部長:はい。DeNAに転職したのは2009年。それまでは新卒で入ったソニーで、やはり法務・コンプライアンス部門で8年半働いていました。
――法務という職種を選んだ理由は?
法務部長:法学部時代のゼミがきっかけです。私が大学にいた90年代の終わり頃はIT・インターネットが加速度的に普及し、イノベーティブな製品やサービスがたくさん生まれ出た頃。
企業法務の観点でみると「放送と通信の融合」「ビジネスモデル特許」や「音楽配信ビジネス」など、これまでの法律が想定していない問題がどんどん現れていました。それらを題材に企業法務の立場で「新しい環境においてどのように技術や会社を守るか」「どのように法的なロジックをどう組み立てるか」というディスカッションをゼミで繰り返していたんです。
法というフィールドで、新しい仕組みを創り上げる。それが私には大変、楽しかった。そして、当時、最もそれに近い仕事ができるだろう、大手でありながら挑戦を続けているソニーに入った、というわけです。
――なるほど。DeNAに移った経緯は?
法務部長:前職入社直後の2000年代前半は、国内外で大きな企業不祥事が発生し、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスが注目されていた時期だったんですね。グループ全体であらためてガバナンスやコンプライアンスの整備をしていく必要があり、それを担う「法務戦略」の新たな部隊が立ち上げられました。
私もそこに配属され、グループ共通の行動規範や内部通報制度、情報セキュリティ体制、反マネーロンダリング、反贈賄プログラムなどを世界各地の関係部署と連携しながら創り上げる仕事はとても刺激的であり、学びも多かったです。
ただ、ある程度、仕組みができあがったタイミングで「少しひと段落しちゃったな…...」と感じていた。社内外で次の刺激的な仕事を探していたんですが、新卒の時に南場(※1)がソニーに来てしゃべったことが心の奥にずっとあったんですよね。
――まさか直接ヘッドハンティングをされたのですか!?
法務部長:いやいや、まさか(笑)。ソニーの新卒向けの研修として催された講演で、南場が、数百人の新入社員を前に「こんな大手に入ってどうするの? ベンチャーに来て我々を助けて。DeNAで待ってます」みたいな内容の話をしてました。ソニーでがんばろう!って思っている新入社員向けの講演なのに、びっくりですよね(笑)。それが妙に心の奥に残っていたんです。
当時の法務の募集要項にも、「インターネットの力で社会を変え、大きな価値を生み出す」というDeNAのビジョンや「良質な非常識」「最後の砦」などの記載があり、自分の考えと響きあい、面接を重ねるたびに面接官であるDeNAのメンバーがそれを体現していることがひしひしと伝わってきました。
そして「最新の企業法務のフィールドで、さらに新しい法的課題に挑戦したい」「大きな組織で部品になるより、経営により近い場所で事業を全面的にサポートしたい」という気持ちがふつふつとわき、DeNAに飛び込んだのです。
※1……DeNA創業者であり、現代表取締役会長の南場智子。
日本のビジネスを海外へ 経理として携わりたい
――一方、経理部長は営業からキャリアをスタートされたそうですね。
経理部長:はい。2003年、新卒でネットワークインテグレーターで営業職として入社しました。職種というよりも業種で選んだ感じでしたね。IT事業が急成長しているときでしたから。実際、ネットワークの大規模化が進んでいた時期だったので、企業のLANから、金融機関のデータセンターの構築まで、案件によっては億単位の大きな案件も手がけさせてもらった。外資系金融の担当だったので、取引規模が大きかったんです。
――しかし、4年後に会計・経理の世界へキャリアチェンジをされたんですよね。
経理部長:ええ。4年経って一通りの案件を経験させてもらって何か新しいことに挑戦したいなと思ったときに「専門性を身につけてそれをベースに仕事をドライブさせたい」という気持ちが高まった。そこで、これまでの経験の延長線で自分にフィットしていそうな専門スキルはなにかと探ったら会計に行き着いた。経済学部卒で、数字も好きだったので。
そして退社して1年半位、猛勉強。簿記や米国公認会計士試験に合格して、まずは監査法人へ転職しました。
――その後、DeNAですか?
経理部長:はい。当初から実務経験を積んだあとは、事業会社の経理職になるつもりでいました。やはり営業をしていた時から、事業会社で働きたい思いがあった。あとは学生の頃から英語が好きで、「グローバルに働きたい」という思いもあった。そんな自分に適した会社はないかな…...と探していたら、転職エージェントからDeNAを進められたんです。
正直、当時はまったくDeNAのことを知らなかった(笑)。けれど、2010年秋頃、財務諸表をみたら、ものすごい勢いのある会社だとわかった。また直前にアメリカのゲーム開発会社を買収したタイミング。
それから今も覚えていますが、面接に行くと当時の常務取締役だった春田真が「日本の事業を海外に展開させていきたい。そのために力を出してほしい」と言ってくれ、その言葉に強い意思を感じた。それに共感して決めた、という感じですね。
こんなにも広かった、法務や経理のフィールド
――いわゆる間接業務に属しながら、事業により入り込む位置づけを期待してDeNAに入った。それは共通していますね。実際に中で仕事をしてみてどう感じられましたか?
法務部長:仕事の幅がものすごく広いし、新規事業が立ち上がり続けるので飽きることがないんです。
ヘルスケア、オートモーティブ、ライブストリーミング……と、新規事業の幅が広く、そして新しい分野への挑戦も多いので、法務も一緒になってビジネスモデルからつくりあげていくようなものです。
――次々にキャッチアップして理解しリスクを洗い出し、法務の仕事をまわしていくのは大変なのでは?
法務部長:ええ、本当に(笑)。ただ、それはおもしろさにもなっていて。海外法務担当として英米法辞典や英文契約書が積み重なった横に、並行してオートモーティブに関連した国内の道路交通法や道路法などの資料がたまっていく。
道路交通法なんかは司法試験でも法学部でも普通は勉強しない領域ですからね(笑)。更に、アメリカの取引先、フランス・中国の提携企業といった具合にグローバルな関係が広がれば、我々の資料も英語・中国語などと入り乱れる……。
こうした広く、新鮮な知見が、そのまま自分のノウハウになり、新たなビジネスを法務としても一緒に創り上げているライブ感と充実感があって、自分にはとても理想的な場だなと実感していますね。
経理部長:経理もそれは感じますね。売上計上の仕方や、ロイヤリティの計算方法、あるいは課税非課税の判断などは、ビジネスモデルやマネタイズの仕組みが違えば当然変わってくる。
とくにAI領域、オートモーティブやヘルスケアなどのはまっさらの新しい分野で、ゼロからスキームづくりから入るので、大変。だけれど、楽しくもある。ビジネスモデルが固まっている、他の会社では、なかなか味わえない感覚もあると思いますね。
法務部長:あと法務、経理は間接部門だとよく言われると思うですが、DeNAでは「間接部門」というのが法務部・経理部側はもちろん、事業部側も意識してない。法務や経理の人間も事業を一緒につくっている「当事者意識」が強いなというのは感じますね。
経理部長:わかります! それはめちゃくちゃ、ありますね。
――当事者意識、ですか?
法務部長:新規事業って、強烈なビジョンやパッションがないと実現できない。けれど、同時に法的な部分、会計の部分をしっかりクリアして、リスクをつぶすロジックを組み立てないと、実際は立ち上げることすらできない。
ただDeNAにいる以上は「インターネットで世の中にデライトを届ける」というビジョンが共有できている。だから、僕ら法務の人間は「できる前提」であれこれ思案する。
もちろん、難しい場合やどうしてもリスクが高いことは毅然とノーを出しますが、根本的にはビジネスサイド、経営側のビジョン、パッションを実現するために、「解決策をポジティブに見つけていこう」というスタンスが貫かれています。これって、実は他には少ない特徴でDeNAの強みなのかなって感じますね。
経理部長:入社してすぐにでも「多くの仕事を任せてもらえる」ということも当事者意識の醸成を後押ししてくれている気がしますね。
僕自身、海外子会社の管理がメインミッションだったのですが、入社してすぐにサンフランシスコのオフィスに出張して買収案件のPMI(※2)の経理面の担当をしました。会計方針の統一や決算の早期化という、普通はその会社で何年か実務経験がある担当が行う仕事を、入ったばかり&経理未経験の人間に任す。期待されているとも感じますし、当事者意識も自然と高ぶりますよね(笑)。
法務部長:法務部もそうですね。他社の法務部だと「10年選手にならないと上司のチェックなしでは一人で文書を書かせてもらえない」なんていうこともある。けれど、DeNAでは2年目、3年目の人間でもプロフェッショナルとして責任をもって文書作成を手がけています。
あといいなと思うのは、社長賞やMVPなどでチームの社内表彰があるとき、そのチームにビジネスサイドのメンバーだけじゃなく、法務や経理のメンバーが高頻度で入っていて同じチームメンバーとして喜び合っている。その事業やサービスを成功させたメンバーとして法務や経理のメンバーもカウントされ、尊重されているんです。
DeNAには「誰が言ったかではなく、何を言ったか」という個を尊重する文化が根付いているのですが、そのカルチャーの一端がこういうところにもあるし、法務部・経理部の人間が主体的に思いっきり仕事できるベースになっていますね。
※2……ポストマージャーインテグレーション(Post Merger Integration)。 M&A実行後において企業価値を向上させるための統合プロセス全体のこと
存分に力を発揮するためにある「働きやすさ」
経理部長:働きやすさ、という意味ではうちの部署は女性が多く、彼女たちに存分にパワーを発揮してもらえる環境をつくることはとても重要です。今、2人のメンバーが産休中ですがだからこそ「この人じゃないとできない」といった属人的な業務をなるべくつくらないようにしています。そして、互いにフォローでき、仕事を同じ部内で誰しも引き継げるような体制づくりを意識していますね。
もっとも、これは法務もとくに意識が高いですよね?
法務部長:私は法務部だけじゃなく、育児部(※3)の部長も兼務していますからね(笑)。
まずね、根本的な考え方として、僕は「仕事と育児の両立を、両方フルパワー・マックスでやろうとするのは「基本的に無理」だと思っているんですよ。そんなに仕事も子育ても甘くはない。
※3……DeNAの部活動。いかに仕事も育児も充実させるかについてのノウハウシェアリングを行うことを活動の目的にしている。
――育児をするときは仕事はある程度、セーブせざるを得ない。あるいは逆も、ということですか。
法務部長:時間的にどうしても困難が出てきますから。そこに無理させようとすると、子供が生まれた社員に「おめでとう」と言う前に「仕事、どうするの?」と不安顔で聞いてくる上司などが散見されるんだと思います。
もちろん、いろんな考え方はあると思います。
しかしご本人が「仕事をしている時間は最高のパフォーマンスを出すけれど、子どもが中学生くらいになるまではある程度時間をセーブした働き方をしたい」と望むのであれば、それを受け入れられる職場でありたいと思ってるんです。
お子さんが中学生や高校生になって少し手がかからなくなったときはまた違う活躍の仕方をしてくれたらいいじゃないかと思います。
そのためにシステムで部内の仕事の進捗がシェアしやすいようになっていたり、リモートでの仕事も必要に応じて許容していたり、という仕組みも実装しているし、それこそ仕事が属人化しないように意識づくりも徹底しています。
とにかく「子供を生んでまでは続けられない職場」とか「素直におめでとうと上司が言えない」など、いま聞こえてくるこうした問題は“悪質な常識”だと思うんです。
――常識のようだけど、極めて悪質だと。
法務部長:そう。私はむしろDeNAの“良質な非常識”という言葉に惹かれる。
社内には育児世代に限らず介護世代もいますし、外国人なども増えています。とにかく多様な人材の「個」を見て、それぞれが働きやすい環境を実現するような良質な非常識を率先しているのが、僕ら法務や経理だと思ってくれていいかなと、思いますね。
――最後に。それぞれの部署でどのようなチャレンジをしていき、どんな方に仲間になってほしいと思いますか?
法務部長:当事者意識をもった多様なプロフェッショナルですかね。これは僕自身も意識しているのですが、業務について判断するときに「これが自分の家族や親友からの提案だったら、ここで本当に簡単にノーというか?」みたいな規範があったりします。
自分ごとにして考える。法務も経理も同じだと思いますが、杓子定規に法律を当てはめて、業務をドライに「NO!」と言って流そうと思えば、流せるんです。
けれど、本当に親身になるべき親族や親友のような相手だったら、そんな簡単にNOと言えるか? 本当に代替案はないか?法的な解決策に限らずいい案はないか? ということを自問自答する。そんな自分ごとにできる人は、きっと向いていると思います。
先に言ったような「オープンなコミュニケーションを日々取り続ける人間が集まる部署」というのは磨いていきたい。
よく事業立案などに関わる法務を「戦略法務」などといってやたらとカッコいい感じで言ったりしますが、実のところそうした戦略をうまくドライブさせるには、日々のコミュニケーションの一つ一つを大事にしてビジネスサイドとの信頼関係を構築できているかに尽きるわけですよ。
そういう日々の地道なことの大切さをわかったうえで、事業を加速させていけるようなそんな地に足の着いた部署にしていきたいですね。
経理部長:同意ですね。それに加えて、これは経理に不可欠なマインドだと思うのですが「フェア」な人にきてほしいし、部署にしていきたい。
矛盾するようですが、当事者意識をもって事業をみていくことも非常に大事なのですが、経理はナマのお金や、会計というルールを業務として扱い、それは各事業部門の成績にも直接的に影響するもの。
1つの事業やチーム、または個人に肩入れしすぎて判断に偏りが生じたり、全社のルールの適用が不公平になるのは、経理失格なんですね。フェアな精神は絶対に持っていないと、ルールは運用できない。
だから、熱い当事者意識を持ちながら、どこかで冷静で客観的な眼も合わせ持っている。そんな人に来てほしいですね。
法務部長:どこかで聞いたセリフですが……「うちはまだこれからの会社。ぜひDeNAに転職して我々を助けてください!」(笑)。
執筆:箱田高樹 編集:榮田佳織 撮影:小堀将生