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クリエイティブを全員で「考えぬく」DeNAのデジタルマーケティングに迫る

2018.07.12

Web広告におけるクリエイティブの重要度が増している中、「効果的なクリエイティブを制作できていない」「クリエイティブの改善サイクルがうまくまわせていない」といった課題を抱えるデジタルマーケティング担当者は少なくないのではないでしょうか。

DeNAのデジタルマーケティングチームでは、こうした課題を解決しクリエイティブの改善に反映していくべく、“クリエイティブ強化プロジェクト”(以下、クリエイティブ強化PJ)を始動しました。

プロジェクトオーナーである坊拓磨(ぼう たくま)に話を聞くと、そこにはチーム一丸となって徹底的に考え抜き、やり抜く姿勢が見えてきました。   

属人化を回避することでチームパフォーマンスを最大化

——昨今のWeb広告における環境をどのように捉えていますか。

坊拓磨(以下、坊):

Web広告で効果をあげるためには「運用」と「クリエイティブ」の2つが重要です。

運用において、媒体ロジックを細部まで理解し、各指標の状況を踏まえた調整や検証を重ねていくことはもちろん重要ですが、昨今の運用自動化の流れとともにクリエイティブの重要度はより増していると感じます。

クリエイティブにおいて、どのクリエイティブが良かったか、なぜ良かったのかについてはゲームアプリ業界でも答えを明確にもつことができておらず、クリエイティブ改善における伸びしろはかなりあると思ってます。

——その状況をふまえ、デジタルマーケティングチームではどんな取り組みを行ってきましたか?

坊:

まず、クリエイティブまわりの課題を考えました。

どのクリエイティブが良かったのかの「評価」と、なぜそのクリエイティブが良かったのかの「示唆だし」の2つにあると考えました。

「評価」の課題は、評価が分析者によってバラけていて属人的になっているということ、「示唆だし」の課題は、示唆が属人的な感覚や仮説で理由付けされ一般化されていないことでした。

そしてこれらの課題はWeb広告だけでなく様々な業界におけるクリエイティブに関しても言えることだと思います。

そこで、これらを解決するために、2017年下期に「クリエイティブ強化プロジェクト」を立ち上げました。

プロジェクトのゴールは、属人化してしまっていたクリエイティブの「評価」「示唆だし」を各メンバーが高い水準で行える状態にし、全員で建設的な議論ができるようになることでした。

ゲーム・エンターテインメント事業本部ゲームサービス事業部宣伝部
デジタルマーケティンググループ 坊拓磨(ぼう たくま)
2014年Web専業代理店に新卒入社し、アプリゲームを中心とした広告代理店営業に従事。2016年、DeNA入社。アプリゲーム全般のデジタル広告出稿を担当し、広告出稿チームのリーダーを務めている。今回「クリエイティブ強化プロジェクト」のプロジェクトオーナーとしてメンバーを牽引。

最重要指標を定めることで本質的な議論に時間が割ける

——クリエイティブの「評価」に関する課題に対してどのような取り組みをされたのですか?

坊:

見るべき最重要指標を定めた上で、誰が評価してもずれないクリエイティブ分析ツールを作成しました。以前からWeb広告にはいくつもの効果指標があり、人によって重要視する指標が異なる状況があったため、「どのクリエイティブが良かったか」の見解が分かれやすい傾向がありました。

——たしかにそれはWeb広告の現場でよく見られる現象ですよね。数ある効果指標の中から、どのように最重要指標を定めたのでしょうか。

坊:

これは日々の運用担当の肌感とずれない最重要指標を定める必要があったため、分析チームのメンバーと一緒に可能性のある指標を洗い出しました。

まず、最重要指標の候補として、よく指標として用いられるCTR(※1)、CVR(※2)、CPI(※3)を検討しました。



CTRは配信ボリューム増加の上で重要な指標ではありますが、CTRは高いがCVRがとても低く、結果としてCPIもボリュームもブレるケースも多いです。フォーマットやターゲティング、長期配信での枯れによってもブレやすいと判断しました。



CVRも重要指標ではありますが、ボリュームの少ないものやターゲティング・フォーマットによってもかなりブレやすいと判断しました。



CPIに関しては、数値がよくても獲得ボリュームが少ない場合はよいとは言い切れないため、最重要指標としては適切ではないと判断しました。

そこで最終的にたどり着いたのが「コンバージョン数(以下CV(※4))」でした。目標とする許容CPIやROAS(※5)に合わせて日々運用を行っている前提であれば、「CV」がクリエイティブを評価する上で最も適していると考えました。

▲たとえば上記表においてはクリエイティブCがよいと評価する。

さらに掲載期間によるブレをなくすため、1日あたりの獲得数を示す「DAY平均コンバージョン数」を最終的に最重要指標としました。 こちらは精度向上のために掲載期間の中でも特定の日だけに絞り込む独自ロジックを採用してます。

※1……Click Through Rate:表示回数に対するクリック数の割合。
※2……Conversion Rate:クリック数に対するコンバージョン数の割合。
※3……Cost Per Install:1インストール当たりの単価。
※4……Conversion:成果数。上記の場合、インストール数。
※5……Return On Advertising Spend:費用対効果。

——「DAY平均コンバージョン数」以外の数値は見ていないのでしょうか。

坊:

もちろん、ほかのサブ指標も参考にしています。特に初速CTRは重要だと思ってます。

この分析ツールはタイトル、期間、メニューなどで絞り込みができ、動画・静止画を含めてそれぞれの指標に合ったものを数値のよい順に出すことができます。訴求軸、広告グループ、キャンペーン、テキストなどの掛け合わせや単体で、いろいろな角度から分析することもできます。

——最重要指標を定め、分析ツールを作ったことでどのような成果が出ていますか。

坊:

最重要指標を定めて全員がその指標を使う形にしたので、誰と議論しても評価がずれないようになりました。

その結果、広告クリエイティブの数値評価をする議論が不要になり、クリエイティブの中身に関する議論に注力できるようになりました。

“示唆出しフレームワーク”で、次のヒントが生まれやすく

——クリエイティブの「示唆だし」に関する課題にはどのように取り組まれたのでしょうか。

坊:

「なぜこのクリエイティブがよいのか」という考え方をサポートするために「示唆出しフレームワーク」をつくりました。

「何がよいか(what)」にとどまらず、「なぜよいか(why)」までを一般化して議論することが、価値ある新しいクリエイティブを生み出し続けるために重要です。

よい効果の理由がwhatで理由付けされるケースが多いですが、whyまで落とし込んで一般化することで次回制作クリエイティブへの改善サイクルが回せると考えています。

▼例
what :キャラA
why  :原作漫画で今活躍しているキャラAが早くもゲームに登場しているから 

クリエイティブが良かった理由が上記例のようなwhat段階にとどまっているケースがとても多いと感じます。
whyまで考えることで、「キャラAだけがよいわけでなく、今活躍している旬なキャラBも使おう」といった次なる制作に活きると考えてます。

——「示唆出しフレームワーク」はどのようなプロセスでつくられましたか。

坊:

クリエイティブは感覚的な面が大きく、捉え方も多岐にわたります。そこで、メンバー全員で自社・他社、業界を問わずよいと思ったクリエイティブを合計100以上集めました。

「なぜこのクリエイティブがよいのか」を徹底的に話し合い、言語化して、リストアップしました。その中から共通項を見つけてグルーピングし、使いやすいフレームワークを作成しました。

制作側の視点で具体的な項目に分けると、次の図にある通りすべてのクリエイティブは4部構成でできていると考えました。

▲示唆出しフレームワーク概要 (実際には4つの各項目には記載しているもの以外に具体的手法が複数あり)

——実際にどのように使われるのでしょうか。

坊:

この示唆出しフレームワークを用いて作成した『逆転オセロニア』の動画広告を例に挙げます。「見続けさせるテクニック」における「カウントダウン手法」を用いて作成しました。

ガチャの神引きの瞬間まで15秒から数えて0になったときに、何かが起こるという期待感や想像力をふくらませます。

▲評価フレームワークを用いて製作された『逆転オセロニア』の広告クリエイティブ

すべての要素を網羅すればよいわけではありません。クリエイティブ全体で何を伝えたいのかという前提のもとに、限られた尺の中で伝えたいことがしっかり伝わる構成のバランスを考えることが大事です。

——示唆出しフレームワークは、どのように運用されていますか。

坊:

毎週、自社・他社問わず、よいと思ったクリエイティブを集約してメンバー全員で話す場があるので、この評価フレームワークに基づいて議論しています。その際、「このクリエイティブは見ようとさせるテクニックがよかった」と同じ言語で話すことができノウハウ集約や新たなアイデア出しが行いやすくなりました。

この評価フレームワークを使えば、例えば「Aは目に留めさせるテクニックはすごくよいけど、見続けさせるテクニックが弱いので、Bのこの手法を取り入れよう」と、互いの共通認識を元に生産的な話ができます。

その議論で出てきたものを、次の制作のアイデアとして活かして、クリエイティブの改善サイクルを回していきたいと考えています。

全員で考え抜けるチームに

——クリエイティブのような答えの見えにくい課題にぶつかったときに、意識していることはありますか?

坊:

視点の異なるメンバーを揃えて議論することはよくやります。

その際に意識していることは、全員が考え抜ける環境をつくることです。

示唆だしフレームワークのようにベースとなる考え方の型を定めておくことで、論点がずれることなく議論を進めることができます。

結果、各自から建設的な意見が生まれ議論が活発になり会議の質が上がります。

全員が考えやすい環境をつくることは、クリエイティブ以外でも言えることですし、強い組織をつくっていく上で非常に重要なことだと考えます。

▲クリエイティブディレクターと広告運用メンバーでクリエイティブ定例会議をしている様子。

——最後にデジタルマーケティンググループの強みをお聞かせください。

坊:

クリエイティブ分析だけでなく、様々な施策において課題を考え抜けるメンバーがそろっていることです。一般的に今実施されている多くのマーケティング施策は、PDCAを回すうえでは不十分な振り返りが多いと感じていますが、ここでは「なんとなくこっちが良かったと思う」という会話は起こりません。「なぜ良かったのか」まで考えぬいて話し合っています。

それぞれの担当領域はありますが、範囲を限定せず、議題に対して熱を持って話し合える仲間が集まっています。

とことん議論したい人には十二分に満足できる環境です。今後も僕は、徹底的に考えぬける方と働きたいと思いますね。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:さとうともこ 編集:下島夏蓮 撮影:杉本晴 本山隼人

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