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17.11.01
チームSHOWROOMで、狙うは“世界”|CTO 佐々木康伸インタビュー【後編】

アーティストやアイドル、タレントなどの配信が無料で視聴でき、誰でもすぐに生配信が可能な双方向コミュニケーションのライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」。このサービス開発の中核を担ってきた、SHOWROOM株式会社 CTO 佐々木康伸のキャリアに迫るインタビュー。
後編は、彼がDeNAに入社(※)した経緯や、キャリアを形成してきたスキルアップ術、チームビルディングの方法に至るまで、その全貌を徹底解説します。チームSHOWROOMを支えるノウハウ、ぜひご覧ください!
※…SHOWROOM株式会社は、2015年にDeNAから分社化。
DeNAへの入社は、きっと運命だった
――佐々木さんは、どういった経緯を経てエンジニアになりDeNAに入社したんですか?
佐々木:順を追って話すと、もともと大学時代はメディア・アートという芸術の分野を学んでいました。アートやエンタメが好きで。僕はメディア・アートの中でも、インスタレーション(特定の室内や屋外などに装置を置き、作者の意向に沿って空間を構成して変化させることで、空間全体を作品とする芸術手法)を専門としていたんです。
インスタレーションでは制作にテクノロジーが必要な作品を扱っていたので、その過程で少しずつプログラミングに触れるようになりました。とはいえ、もともとはWebデザインなどをやりたいと思っていたので、がっつりエンジニアとしての勉強をしていたわけではなくて。
エンジニアのキャリアを歩み始めたのは、新卒入社した会社でJavaを使った業務システムの開発プロジェクトにアサインされてからですね。そこから、徐々にプログラミングが面白くなってきました。
SHOWROOM株式会社 CTO 佐々木 康伸
ITベンダー企業を経て2008年に株式会社モンスター・ラボに入社し、自社の音楽配信サービスやソーシャルアプリの開発を行う。2010年DeNAに入社後、Mobageの開発・運用や音楽アプリGroovyの開発に携わる。2013年に代表の前田裕二とSHOWROOMのサービス立ち上げ。2015年にDeNAからSHOWROOM株式会社として分社化。
その後、もっとtoCのモノづくり、特にエンタメ系のサービスがやりたくなって、前職のモンスター・ラボに入社。音楽配信サービスやソーシャルアプリの開発に携わりました。
――DeNAへの転職を決めたのはどうして?
佐々木:モンスター・ラボの業務はとてもやりがいのあるものだったんですが、もっと世の中に自分の爪痕を残せるようなプロダクトを作りたいな、という想いが出てきたんです。それで、当時すごく流行していた「OpenSocial × ゲーム」という領域に興味を持ち始めて、Mobageのヒットで急成長していたDeNAにも注目していました。
そんなタイミングで偶然、転職エージェントから「DeNAの面接を受けてみませんか?」というスカウトが来たんです。「おおっ!」って思いました。「これは運命なのかな」って(笑)。そのまま、川の流れに身を任せるようにDeNAを受けたら、めでたく内定をもらったんです。
――入社したからこそわかる、DeNAの良さって何ですか?
佐々木:「変化に強い組織」だなと思います。柱となる事業が徐々に変わってきているから、というのもありますが、毎年大きな出来事があり、毎年良い意味で会社が変化しているなと感じます。
Mobageの運用が、エンジニアとしての成長に繋がった
――DeNAで経験したプロジェクトの中で、自分を大きく成長させてくれたものはありますか?
佐々木:基本的にはすべてのプロジェクトが印象的ですけど、Mobageのアバターを運用しているときに得た経験はすごく大きかったな、と思います。急成長していたサービスだったので、とにかくトラフィックが膨大なんですよ。前職で運用していたサービスとは別次元でした。
アクセス量が多いサービスって、データアクセスの負荷を減らすためにmemcachedという分散型メモリキャッシュシステムを用いることが多いんです。でも、そのmemcachedへのトラフィックすら詰まってしまったことがあって。「そんなことが起きるとは」と驚いた記憶があります。
それ以降、どこからどういった経路でどのくらいのアクセスが流れるのかを、アプリレベルではなくインフラ構成のレベルまで意識した上でコーディングできるようになりました。これは、DeNAにいた“からこそ”経験できたことだな、と思いますね。
――その経験を元に、読者のエンジニアにアドバイスするとしたら、何と伝えますか?
佐々木:これら以外にも、サービスの運用で得られる経験ってもの凄く大きいんですよ。特に、伸びているサービスや、既に大きくなっているサービスの運用を経験した人って、採用面接などで話していてもすぐわかります。
Webサービスって運用が始まってからが本番なので、その経験のある人が携わっているかそうでないかで、サービスの成功確度そのものが全く変わってきます。だから、事業を立ち上げたいエンジニアは、エキサイティングな運用は絶対に経験した方が良いと思います。
――どういう部分に、エンジニアの運用経験の有無が表れるんですか?
佐々木:「設計」ですね。アーキテクチャやミドルウェア、フレームワークの選定方法や使い方、クエリの書き方、そういったものを総合的に考慮して、想定される規模にマッチしたシステム構成にできているか。つまり、設計にエンジニアの思想やロジックが見えるかが大事なんです。
職業・オールラウンダー
――佐々木さんのWantedlyプロフィール(https://www.wantedly.com/users/490633)に(2017年11月時点で)記載されている「基本エンジニアなんですが、溢れるとこ全部拾う感じで働いています」というフレーズがすごく印象的です。「基本、なんでもやる」というスタンスは、どのようにして形成されたんですか?
佐々木:実は僕、自分のキャリアにコンプレックスがあったんです。もともと、この業界に入るまでエンジニアではなかったし、何かビジネスに有利なスキルも持っていなかった。大学卒業直後の自分って、本当に何もなかったと思うんです。
でも僕、負けず嫌いなので、「どうやったらIT業界で他人に負けない価値を出せるだろう」と考えた結果、「何にもないから、何でもやるしかない」っていうとこに行き着きました(笑)。尖っているものがないから、逆にどれをやるのも一緒だ、って。だから、「何でもやります。喜んで!」というスタンスで取り組んできたら、徐々にオールラウンダーになってきた、という感じですね。
――例えば、プログラミングスキルを高めるために、どういったトレーニングをしてきましたか?
佐々木:「本を読む + プログラミングする」ですね。本でインプットしつつ、並行して必ずアウトプットするようにしてきました。読んできた本を具体的に挙げると、オライリージャパン社から出版されている『初めてのPerl』や『JavaScriptリファレンス』、インプレス社から出版されている『Scalaスケーラブルプログラミング』など。世の中的にベーシックなものをまずは読むようにしています。
ビジネススキルやマネジメントスキルを身につける場合にも、インプットとアウトプットをなるべく並行してやることを意識しています。そのスキルが必要になったタイミングで、鬼のように本や有識者の話を聞いてインプットする。1日で本を3冊読むこともあります。本当にそのくり返しで、ずっとスキルを磨いてきましたね。
「思いやり」が、最強のチームを作る
――組織運営において大変だった時期はありますか?
佐々木:ありましたね。2016年にわりと大きな障害が発生して、それをきっかけにエンジニア側とビジネス側に壁ができた時期があったんです。組織全体の雰囲気が良くない方向に傾きかけました。
――それは……。辛かったでしょうね。
佐々木:辛かったです。でも、それをきっかけにチームビルディングの大切さに気付いて、どうすれば良いチームが作れるかを必死に考えるようになりました。
視聴者数や売り上げが伸びないといった、いわゆる「数字」のトラブルって頑張れば何とかなります。むしろ、頑張ることによって成長できるから、組織にプラスの影響がある。でも、ネガティブな意味合いでの「人」のトラブルって、ただ辛いだけになってしまうんですよね。だから、それをいかに解消してポジティブな雰囲気を醸成していくかを、マネジメントを担う人間は考えなければいけないと思っています。
――良いチームを作るために、どういった施策を実施していますか?
佐々木:例えば、「SHOWROOM Values」という、会社のビジョンを作りました。SHOWROOM Valuesが大事にしているのは、一緒に働く人たちへの「思いやり」。新しいメンバーが入社した際には、そのビジョンを僕が必ず説明しています。それに加えて、かつて組織の危機があったこともセットで話しているんです。「こういうことがあったから、絶対にメンバーのことを大切にしなきゃいけない」って。
▲真剣な眼差しで仕事に取り組む、SHOWROOM株式会社のメンバーたち
――他に、チームを活性化させるために実施していることはありますか?
佐々木:入社した人に、自己紹介のプレゼンテ―ション資料を作ってもらって、それを毎週の全体定例で発表してもらっています。また、全メンバーの資料を共有フォルダに置いていて、それを自由に読めるので、メンバーの人となりがすぐに理解できるんです。
さらに最近、入社した人と前田さん(SHOWROOM株式会社 代表取締役社長)のランチ会もスタートしました。これは先ほど説明したように、前田さんとのコミュニケーションを通じて、会社のビジョンや想いをメンバーに伝える目的でやっています。
――良い組織を作るために、社長とメンバーの距離が近いことって大事だと思いますか?
佐々木:すごく大事です。このくらいの規模の組織の場合、メンバーみんなが一体感を持たないと事業を成功させるのは厳しい。そのために何をすべきかというと、社長(前田さん)の考え方や人間性をみんなに理解してもらう必要があると思うんです。だから、遠い存在になってはいけない。社員にとって近いところにいなければならない。
そういう意味でも、「人としての魅力があること」って経営者に必須の要素ですよね。そもそも、好きになれない人についていこうとは思わないじゃないですか。経営者も万能じゃないから、時には間違った判断をすることだってある。すべてが正しいわけじゃない。でも、「それでもこの人についていきたい」って思ってもらえるくらい愛されないと、きっと社長って務まらないですよね。
SHOWROOMの仲間とともに、目指すは“世界”
――最後になりますが、SHOWROOMのメンバーとこれから何を実現していきたいですか?
佐々木:SHOWROOM自体まだまだ始まったばかりなので、やりたいことばかりです。だから、今後も良いプロダクトをどんどんリリースしていきたい。それこそ、1年に1個新しいものを出すくらいのスピード感で。慢心しないで、常にチャレンジしたい。日本だけじゃなくて、世界を見据えて、「世界獲りましょう!」くらいの気持ちでやっていきたいです。
勝てるかどうかはまだわからないけれど、だからこそ、全力で努力する意味がある。SHOWROOMのみんなと一緒なら、きっと頑張れると僕は思っています。
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