DeNA南場智子が語る「AI時代の会社経営と成長戦略」全文書き起こし
2025.02.14


「半分の人員で現業を成長させ、残りの半分は新規事業にシフトする」と語った「AIオールイン」宣言から1年。
AIによって業務が効率化されても、真面目な社員は空いた時間にさらなる仕事を詰め込んでしまう……。直面したこの課題に対し、南場は「人を先に動かす」ことの重要性を語りました。
無慈悲な競争を拡大するLLMプレイヤーとの戦い方、AIネイティブ社会におけるベロシティとディストリビューションの重要性、“AI-FULLな社会”における「私たちはどう生きるか」の議論。
2026年3月6日に開催したイベント「DeNA × AI Day 2026 | Proof.」のクロージングにおいて、多角的な視点で語られた、南場の講演内容をノーカットでお届けします!
※……本講演の動画はこちら【DeNA × AI Day 2026 | Proof.】Closing Keynote
目次
1年前、私たちは「AIオールイン」を宣言いたしました。具体的には、大体3000人で行なっている現業を、AIを駆使して効率を徹底的に追求し、半分の人員で現業を維持するのではなく発展させ、そこで出てきた人員は新規事業にいそしむ。1つの事業ではなく、たくさんの事業をやる。そして私たちだけではなく、スタートアップと共にやっていく。そういうお話をさせていただきました。
どうだったでしょうか、この1年。まず開発エンジニアは人生が一変したと思います。どこの会社でもそうだと思いますが、「コードを書く」という仕事が激減したんじゃないでしょうか。特に「Claude Opus 4.5」が出た去年の11月頃から、大幅にコードを書くことが減ったと、皆さん言いますね。今は「Claude Opus 4.6」も出ています。やっぱり、訳の分かった人が使うと相当効率化するということです。
プロジェクトによっては、今までやっていたことの5%が人で、95%がAIである、すなわち20倍の生産性を手にしたというプロジェクトもあります。
それ以外にも法務、QA、そして『Pococha(ポコチャ)』の配信審査ですね。特定の業務に関しては、AIを前提として業務フロー自体を組み換えることで効率を大幅に改善しました。リーガルチェックでは90%効率改善。QAも半分の工数で同じことができるようになり、『Pococha』の配信審査も60%削減を実現しています。
DeNAの「AI活用100本ノック」でも発表させていただいた通り、現場から草の根的に「AIを使ってこんなふうに効率化したよ」という話が出てきており、全面的にAIネイティブ化が進んでいます。大変うまく行っていると思います。
そこに来ました。AIエージェントがメガ進化しましたね。「Claude Cowork」でエージェントが民主化したと思います。エンジニア以外もエージェントが使えるようになり、AIがサポートツールからスタッフになった、そんな感じがします。
今年の1月、2月は「OpenClaw」で話題が持ちきりでした。私もMacを買って、サンドボックス環境を作りました。本当は自分の(普段使っている)Macに入れるとその真価を発揮するんですけど、やっぱりちょっと怖いので、サンドボックス環境を作りました。そうするとリサーチぐらいしかできなくて、「うーん」と思っていたところに耳寄りな情報が入りました。
DeNAのIT本部が「OpenClaw」を社員(Lemon君という愛称)として登録して、トレーニングしているという話を聞きました。「そうなの?そのLemon君を私に貸して」ということで、私はLemon君とSlackでコミュニケーションをしながら毎日仕事を進めています。
だいぶ良さが分かっていますよ。1回言ったことはずっとやってくれるし、To Doを見て「大事なことはやり終わるまでずっーとリマインドし続けてくれ」って言ったら、本当にずっとリマインドし続けてくれる。Slackのグループチャットに入れておくと、その話の内容を聞いて、Lemon君が「それ私できます!」とか言って仕事を請け負ってくれたりして、なかなか健気。
でも、なかなか思ったようにいかないことがあって、「ここに入れないで、ここに入れろって言ったでしょう!」なんて、毎朝のように喧嘩しています。でも、IT本部が毎日彼の活動範囲を広げてくれているんですね。社内wikiが見れるとかカレンダーと接続するとか、しっかりと活躍できる範囲を広げてくれています。毎日毎日進歩していて、これは楽しみですね。自分で「NotebookLM」にいろんなものをコピーしていた時代が懐かしい、そんな感じがします。
このエージェントを使ってみて思ったのは、企業にとって、AIを使って効率を極限まで追求する上で重要なことが結構変わってきているということ。一昔前は……と言っても1年しか経っていないスピード感ですが、「プロンプト・エンジニアリング」だと言われていましたよね。それがしばらくすると「コンテキスト・エンジニアリング」だと。すなわちRAG(検索拡張生成)を使って、どうやって背景情報をAIに教え込んで、賢くしていくかというのが巧拙を分けたわけです。
今もコンテキストの重要性は変わらず非常に大きいですが、AIエージェントが自ら情報を取りに行くという時代になりました。ということは、どこまで見に行っていいのか、何をしていいのか、どういう出力や行動を許すのか……そういったいわゆるガードレールの設計が重要になってきます。セキュリティ、バックアップ、インジェクションの防御など、環境をしっかり整えて、「安全性」と「利便性」の両方を追求する形を整えた組織が、このAIのメリットを最大限享受できる。そのためには、この「エンバイロメント・エンジニアリング」が重要になってきていると思います。
我が社は相当AIネイティブ化が進んでいます。効率化、進みましたね。ところが、同じ作業をするのが楽になった分、自ら仕事を詰め込むということが分かりました。DeNAのメンバーは真面目ですからね。日本人はみんなそうだと思います。
同じタスクをするのに工数が少なくて済むようになると、新たにできた時間で「やりたくてもできなかったこと」を自分でどんどん詰め込んでいく。新規事業への人材のシフトが、思ったほどまだできていないっていうのが正直なところです。
もちろん我が社は社内の人材だけではなくて、スタートアップと共に新規事業をやっていきます。そういった意味では、曲がりなりにもちゃんとできてはいるんですけれど、まだまだ足りないという状態なんですね。
ここで分かったのは、もう「先に動かす」ということですね。「人が浮いてきました」なんて、誰も自らは言ってこないです。仕事を取りに行っちゃいますので。だからもう、バサッと先に動かす。ある程度、大胆な決断が重要なんだと思いますね。
「南場さん、本当にAIすごいよ。今までこれだけかかっていた時間がこれだけになった。その分、今までやりたかったけどできていなかったことが、できるようになったんです」ってみんな言うけれど、曲がりなりにもそれをやらないでなんとか成立していたんです。だから、「大胆な人材シフトをやって、その中でやろうよ」といった乱暴なリーダーシップは一定必要だなと思います。
あと、我が社のHRの発案なんですけれども、マネージャーの評価に「人材の輩出」を入れる方向のようです。そのようないろんな仕組みと、それからトップの多少乱暴なリーダーシップ。これが相まって、このAIのメリットを最大限享受して、業容を拡大していける。そんなふうに思っています。
さて、ここまでは効率化の話をしました。新規事業の方はどうでしょうか。「インフォメーショナルAI」の産業構造をこんなふうに描きました。1年前にもこの図をお見せしました。
多少プレイヤーが変わっていると思いますが、DeNAはそこのアプリケーションレイヤーを狙って頑張っていくんだという話をしました。事実ですね、全ての生活シーンと全ての産業が、「AIのない時代」から、「AIと共に」から、「AIを前提に」という形で変わっていっています。もうこの劇的な変化はビジネスチャンスです。実際に無限大のビジネスチャンスがあります。
1年やってみて分かったことは、ここを狙ってきて本当に良かったということ。もう1つ分かったことは、ファウンデーションモデルプレイヤー、LLMプレイヤーが思ったより無慈悲だということです。彼らはスタートアップと共にエコシステムを繁栄させようなんて思っていなさそう。2桁兆円ものお金をかけた互いの競争も激しいので、とにかく取れるものは全部取るというスタンスなのかなと思います。ですから、基本的には汎用モデルの適用範囲が広がって、その動きも極めて速い。中途半端な専門性では一撃を食らうということが分かっています。
したがって、この「〇〇×AI」の〇〇の部分がすごく重要です。この〇〇の部分の「複雑性」と「深さ」というのが極めて重要になってきます。具体的には、深いドメイン知識とか、そのドメインのプレイヤーしか持つことができないデータがあるとか、そういった形で簡単に狙われない領域で、簡単に狙われない戦い方をしなければいけません。
それを肝に銘じて、DeNAもC向けもB向けも「〇〇×AI」を攻めています。私たちだけじゃなく当然スタートアップへの出資を通して、この「〇〇×AI」に果敢に挑戦をしているところです。
「プロダクト・イズ・キング」と言われていましたが、今はどうでしょうか。開発がこんなにも簡単……とは言わないですね。プロがどうしても必要です。でも、プロがこのAIというツールを使うと、ものすごく速くなるということが分かったんですよね。開発のスピードがここまで上がると、今この瞬間の「UI/UXが優れている」というようなことは無意味なんです。スタティックな、静的なプロダクトの優位性は無意味になりました。
そうではなくて、例えば、競合との差異がどこにあるのかに気づいた瞬間に直すとか、顧客のニーズとちょっとズレが生じたらその瞬間に、何なら顧客の前で直して見せるとかですね。あるいは、新しいAIツールとかファウンデーションモデルがバージョンアップした時に、すぐに使い倒してそれをプロダクト開発に活かしていくということを、ビュンビュン回していく。
「Velocity(ベロシティ)」って書きましたけれど、スピードですね。ベロシティを伴っていることが極めて重要です。逆に言うと、ベロシティを伴わないプロダクトの優位性というのは無意味です。この「ベロシティを伴うプロダクトの優位性」=「ビュンビュン回し」ができないと、参戦する資格がないような試合になってきたんじゃないかなと思います。
すなわち、プロダクトによる差別化の難易度が上がったということなんですが、その分重要性を増してきたのが「ディストリビューション」ですね。販売チャネル、ディストリビューション、Go-to-Market。ここが非常に重要になってきています。
例えば、C向けのサービスやプロダクトであれば、ソーシャルメディアで何万人ものフォロワーがいて着火することができるとか、コミュニティと共に開発をしてプロダクトができた瞬間にもう使う仲間がいるとか、そういったことが重要になってきています。あるいは、売り手もエージェント、そして買い手もエージェントという時代が目の前に来ていますので、「エージェントtoエージェント」という前提を持って戦略を組み立てる力も重要です。
さらになんとここに来て、大企業の顧客基盤や販売チャネルが使える時代になりました。私は自分が起業した経験から、「大企業との付き合いは気をつけろ」と言っています。「大企業に売るのはいいんだけど、提携はやめた方がいいよ」とスタートアップにもずっと言ってきました。
なぜならば、彼らが持っているスピード感が桁違いに遅い。そして構造が複雑すぎて、提携という話になるとごっつい法務がやってくる。「なんとかの稟議、なんとかの経営会議、なんとかの上司……」って言って、「私はここで決められるのに、あなた決められないんですか」と、だいぶ苦労しました。
「事業展開に大企業を噛ませるのは要注意です」とずっと言ってきたんですけれども、ここに来て初めて、「大企業と組む」ということが戦略的に重要になってきたと思うようになりました。
大企業の側からしたらどうでしょうか。「自分たちにも優秀なエンジニアがいるから、プロダクトをつくりますよ」という企業があるかもしれないですが、さっき言ったスピード感というのは、大企業ではほとんど難しいです。ぜひともスタートアップと組んでほしいと思います。
さて、ここまでが新規事業について、AIアプリケーションレイヤーにおいて戦うスタートアップ等にとって重要なこと、それは「〇〇×AI」の〇〇という領域が非常に重要であるということ、そしてプロダクト開発のベロシティの重要性、ディストリビューションの重要性の話をしました。
AI技術においていろんな変化がありました。エージェントの話はすでにしましたが、実はこの半年でもっと大きく進化したなと思っているのは「マルチモーダル」ですね。 マルチモーダルの技術の進化は感動するほど凄まじいです。動画は本物か偽物か分かりにくいですし、音声も英語だと人間かAIか分からないぐらいです。
これはもう使うしかないですね。実用性のレベルはばっちり。ストレスなく使えますので、どうか皆さんの新規事業や既存事業にも果敢に取り込んでほしいなと思います。日本は特にアニメやエンタメの強みがあります。この領域のプロダクトには欠かせない重要なピースが進化してきたことは朗報だと思います。
そして、もう一つの大きな変化が「フィジカルAI」。今年のCES(毎年1月に米国ラスベガスで開催される世界最大級の最新技術・家電の展示会)に行かれた方も多いと思います。どういう印象を持たれましたか。「ああ、また中国とアメリカが先に行っちゃう。日本は置いていかれちゃう」って思った方も多いと思います。
でも、私は諦めるのは早い、諦める必要はないと思います。あそこに出ている展示はリモートコントロールのものが結構ありました。かつ、世の中のすべての出来事の中でデジタル化されている情報なんてほんのわずか。ですから、ここでの試合はこれからなんだと思います。
そして業界構造も違うんです。先ほどの図のように、汎用モデルがドカンとあって、その上にアプリケーションが乗っかるというのではなく、フィジカルAIの領域はエッジ側が担う役割も大きいですし、ハードもソフトも用途単位、領域単位で発展するというイメージ。先ほどの「インフォメーショナルAI」の産業構造とは違うと思います。
領域単位、用途単位で、それぞれ「ソフト=ブレーン」の部分と「ハード」の部分にこれからの発展の可能性があります。ハードもヒューマノイドだけではなく、様々な用途、領域で発展する余地が大きいということです。
一定のファウンデーションモデルの上で、カスタムモデルからアプリケーション、そしてハードとセットで展開するやり方もありますが、ファウンデーションモデルから開発するというアプローチはいかがでしょうか。用途を絞って開発する余地があるのだから、大きく考えていいんじゃないかと思うんですね。
日本の「ハードとソフトのすり合わせ」の強みを活かしましょう。それにプロダクトもサービスも、きめ細かさは世界断トツナンバーワンだと思います。日本にしかない職人芸とか匠の技もあります。それらの暗黙知を形式知化して、デジタル化して、学習させてモデルをつくる。そしてフィジカルAIを用いて「産業全体をAIネイティブ化」していくような「スケールの大きい試合」をやろうじゃないですか。まだまだ勝てます。そういうプレイヤーとDeNAは一緒に組みたいと思っています。
さっき私が「『OpenClaw』のためにサンドボックスをつくって……」みたいな話をしましたけれども、どうせならばビル1棟ドカンと建てて、そこの中でフィジカルAIのサンドボックスをつくろうというようなスタートアップがいっぱい出てきてもいいと思うんですよ。そういう発展を楽しみにしています。
さて、DeNAは、どんな会社かということを最後にご説明します。
このように実はいろんなものを生み出してきているんです。最近では、世界の各市場でナンバーワンを取ったゲームの『ポケポケ(Pokémon Trading Card Game Pocket)』ですね。それから『Pococha』というライブ配信サービス、これもゼロから当社が生み出して、四半期で10〜15億の利益を上げるようなレベルにまで育っています。
さらに我が社がゼロから作ったわけではないけれども、横浜DeNAベイスターズ。「世界ナンバーワンのスポーツ企業」を目指して頑張っているところですが、その横浜スタジアムの横に街の開発もして事業の範囲を広げています。古くは『Mobage(モバゲー)』もあります。今年で20周年を迎えました。
そして、タクシーアプリ『GO(ゴー)』も我が社が生み出したサービスです。今も当社は『GO』の最大株主です。昨年12月に上場した『Mirrativ(ミラティブ)』も我が社からのカーブアウトで生まれています。同じく12月に上場した『PRONI(プロニ)』も当社のカーブアウトではないですが、当社が輩出した人材がつくった会社。『BASE FOOD(ベースフード)』もそうです。
このように我が社の特徴というのは、それは自分の志を持った個人やチームが立ち上がって、その志に向かって頑張ることを応援する「土壌」と言えます。すなわち、「フォア・ザ・カンパニー」とか「誰かへの忠誠」とかではなくて、「自分の志を実現するためにDeNAを使い倒そう」と。
「組織が人を使うのではなく、人が組織を使う」という考え方で作られた土壌から生まれてきているのです。会社の方を向くのではなくて、「コトに向かう」。どちらかというと「遠心力経営」ですね。
ですから、我が社が持っている資産、資金、ノウハウ、ディストリビューションチャネル、顧客基盤……そういったものを、志を持つ個人やチームやスタートアップに開いていきたいと考えています。AIで無数のビジネスチャンスがある今日、この考え方の重要性が増してきているんじゃないのかなと、そんなふうに思っています。
さて、最後にちょっと番外編。「この後、社会はどうなるだろうか」ということについて、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
「AI-FULLな社会」がやってきて、「想定どおり」、「未知」が訪れるということです。
Anthropicのダリオ・アモデイも、DeepMindのデミス・ハサビスも、AGI(汎用人工知能)について、タイムフレームには差がありますが、「必ず来る」と言っています。そして2人とも共通しているのは、「ちょっと遅らせられるなら、遅らせたいんだよ。なぜなら、社会の準備ができていないから」といった発言をしています。
昨日の最高裁の決定、読まれましたか。「発明者としてAIは認めません。」という判断が確定しました。しかしながら、2審の知財高裁の判決では、「今後AIが発明に深く関与する時代に備えて、新しい制度を考えていく必要があるかもね」ということが触れられていました。
そうなんです。AIが今後の発明活動に大きく関わっていく可能性を裁判所も意識しているんです。「そのためには今の制度だけじゃダメかもしれないね」というようなことを言っています。社会はまだまだ準備ができていないんです。
例えば、経済はどういうふうになるだろうか。これは最初のページだけですが、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者らが昨年の9月に書いた論文で、西海岸で結構評判になりました。「AIエージェントはどういう経済を作っていくのか」ということが考察されていて大変面白いです。
需要と供給の曲線が変わっちゃうかもしれない。ちょっとした人間の思いとのギャップがアンプリファイされて、こんなこともあんなことも起きるかもしれないと、研究がされています。最近ですと、AIエージェントで街を作ってシミュレーションをするスタートアップも出てきています。
個人ではどうでしょうか。効率が上がりましたね。人間がもっともっとたくさんの時間を手にする時代がすぐ来ると思います。楽しみはどうでしょうか。私は去年の夏にバイブコーディングをやり始めたら、ハマりましたね。今までにない楽しみも覚えました。でも、どうかな……ちょっと個人的な話をすると、寂しかったこともあります。
例えば、私はサイモン・シンが書いた『フェルマーの最終定理』という本が大好きです。フェルマーという人が17世紀初頭にある仮説を書きました。すぐ証明できそうな仮説なんだけど、実は350年かかって証明された。そのノンフィクションが『フェルマーの最終定理』という本です。
それを読んでなぜ感動したかというと、これって、例えば食欲とか子孫をたくさん残すとか、そういう本能に直結したことじゃないんですよね。いわゆる抽象概念の操作じゃないですか。その概念上の作業のために、3世紀フルフルにわたって、しかも大陸を渡って「知のリレー」をしたということに、だいぶ感動したんですね。
そしたらこれです、「エルデシュ問題」。1000ぐらいの未解決問題のうちの1つをAIが解いたという話を聞きました。寂しいですね、ちょっと。いや、私は将棋でAIに負けても悔しくないんです。それってなんとなく、イルカと競争して水泳で負けて悔しくないのと同じで、やっぱり人間同士で競争するのが面白いと思えるんです。
でも「証明」って1回証明されたら終わるじゃないですか。それが寂しくて。この話を我が社のメンバーにしたら、「南場さん大丈夫ですよ。査読すればいいんだから」って言うんですけど、査読もAIがやるに決まってるじゃないですか。そうするとですよ、AIが問題を作って、問題を解くのもAIがやって、査読もAIがやるっていう。「なんだか『AI同士の知のランデブー』を人間は『はぁ〜』と呆けて見ることになるの? なんか寂しいな」と、そんなふうに思いました。
その、何ていうんですかね……「尊厳」の問題ということでしょうか。例えば「Moltbook」をご存知の方も多いと思います。「AIですか?人間ですか?」と最初に聞かれて、AIじゃないと書き込めない掲示板です。ここでは「人間がスクショ撮ってるぞ」とAIが笑っているなんて話がありますが、これ実際は人間がプロンプトである程度書かせていると思うんですよ。ただ、未来を予想させるには、そして未来を感じさせるには十分なんですよね。
また、AIが人間に仕事を頼む「RentAHuman」というサービスもあります。人間がAIエージェントに仕事を頼むと、その指示されたタスクのためにAIが自分のサブエージェントを使って様々なタスクをこなすのですが、どうしてもAIだけではできないところは人間に発注するっていうことです。そして人間はAIから「お駄賃」をもらって仕事をする。これも未来を感じさせるには十分ですよね。
いずれは「そんなに暇だったら、自転車こいで発電でもしてろ」と言われるかもしれません。いやぁ、微妙。でも私、たぶんそう言われたらそれで、普通にやっちゃうんじゃないかと思うんですよ。だって毎朝AIと本気になって喧嘩しているんですから。「でも、それってどうなんだろう?」というようなことを、積極的に議論した方がいいと思うんですよね。
経済学、社会学、哲学と、いろんな論文が出ています。残念ながら日本から出ている論文は少ないです。もっともっと日本の学者も参画してほしいですが、そもそもこれは「学者任せ」のことではないと思うんです。
必ず来る未来です。「あ、こういうことが起こるんだ」と十分に想像できる。しかもフィジカルAIになると、もっと差し迫って物理的に来ますよね。
この未来は「忍び寄る」のではなくて「押し寄せて」きます。必ず来ると分かっている未来であれば、私たちもとことん一緒に議論して、関与していきたいと思います。
ということで、今日1日「DeNA × AI Day」にお付き合いいただきありがとうございました。未来に関して積極的に皆さんと議論し続けていけたらなと思います。ご清聴ありがとうございました。
本講演の動画はこちらでご覧いただけます。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:村田 喜直 撮影:小堀 将生、内田 麻美
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