「AIオールイン」でも“変えない”こと。新卒研修設計の裏側と“伸びる”人材の共通項
2025.06.25


生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)の進化は、AIを活用したビジネスの可能性を劇的に押し広げました。
ゲーム・ライブコミュニティ・スポーツ・ヘルスケアなど多岐にわたる事業とユーザー接点を持つDeNAにとって、新規事業・既存事業の両面でビジネスを拡大させる好機です。DeNAはこの最高の機会に立ち向かうために、新たに「AIエンジニア(LLM・生成AI)」(※)と「AIフルスタックエンジニア」という2つのAIスペシャリスト職を定義しました。
なぜ今この2つの専門領域を新設したのか。新規AIプロダクト開発の最前線で活躍する新卒2名と中堅社員が、変わりゆくDeNAのAI開発の「今」と、この挑戦の先にあるAIエンジニアの「未来」を語ります。
※ DeNAではAIエンジニア職種を技術領域ごとにコンピュータビジョン・強化学習・LLM/生成AIの3つに区分していますが、以下インタビュー中ではLLM/生成AIを担当するAIエンジニアを指す場合には「LLMエンジニア」、各技術領域のAIエンジニアを包括して指す場合には「AIエンジニア」と呼称しています。
目次
──皆さんの具体的な仕事内容について、それぞれ教えてください。
王 遠帆(以下、王):私は2025年にAIスペシャリストとして新卒入社をしたのち、LLMエンジニアとして新規AIサービスの開発に携わっています。初期フェーズのためチームはビジネス、エンジニア、そしてAI担当の私の3名体制で、私はAIパートを基本的にゼロから担当しています。ビジネスサイドの意図を汲み取りながら、サービスの核となるAIロジックに落とし込む役割を担っています。
柿木 幹太(以下、柿木):王さんと同じく2025年新卒入社なのですが、AIスペシャリストではなくソフトウェアエンジニアとしての入社でした。配属の際にAI技術開発部に割り当てられ、現在はAIフルスタックエンジニアとして王さんとはまた別の新規AIサービスの開発を担当しています。当初はAI機能の実装から入りましたが、現在はチーム状況に合わせてバックエンドとインフラ周りをメインにオーナーシップを持って担当しており、AI機能とプロダクトをつなぐ役割として開発を進めています。
森 大輝(以下、森):私は2023年新卒入社で、2人より少し長くAI開発に携わってきました。現在は柿木さんと同じプロジェクトにてAIプロダクトマネージャー兼エンジニアとして、ビジネス的な側面から実際の開発まで一貫して携わっています。チームはビジネス、エンジニア、AIエンジニア、デザイナーを含めた計7名体制で、職種の垣根を超えて連携しながら、新しい価値を届けるために動いています。
──DeNAでのAI開発にはどのような特徴がありますか?
森:AI技術の進化とともに仕事のあり方は変化してきましたが、DeNAではAIをサービス・プロダクトにどう活用するかという事業適用の観点を重視する点で一貫した特徴があります。
ひと口にAI開発と言っても、基盤となるモデルの設計や膨大なデータセットの収集・事前学習から、ファインチューニング、汎用モデルの利活用など様々なレイヤーの技術・作業を指すことができます。
DeNAのAI技術開発部ではそれら技術要素自体に強くフォーカスするのではなく、個々のプロジェクトが「事業の目的達成のためには今どこをやるのが良いのか」を考えて動きます。昔は手軽に利用できるモデルなどなかったため基本的に全て手作りでしたが、昨今のLLM/生成AIの領域では充分以上の性能を持った汎用モデルをAPI利用できるため、スピードを重視する最近の開発スタイルではまず汎用モデルを利用することも多いです。
サービスに磨きをかける上で精度を追求するフェーズだったり特殊用途のモデルが必要になるとデータセット収集・モデル開発から行うこともあります。なので「使う技術を制限しないという特徴がある」と言い変えることもできますね。
──3人が関わっている新規AIプロダクト開発の現場では、これまでのAI開発と比較して「スピード」の早さが特徴だと伺いました。どのような違いがあるのでしょうか?
森:私たちは現在はAIイノベーション事業本部(以下、AIイノベ)という、LLMを中心とした生成AIを活用した新規サービスを開発する部署と連携して、新しい形でのAI開発を行っています。従来のAI開発とのAIイノベでのAI開発での大きな違いは、開発の起点とプロセスの進め方にあると思っています。
従来のAI開発は、AIエンジニアやデータサイエンティストが中心となって、モデル性能の向上を目指す「精度起点」の開発が主流でした。技術的な完成度を高めるまでに時間がかかって、段階的に意思決定が行われる傾向があります。
これに対してAIイノベでのAI開発は、ユーザー体験や市場の反応を起点とした「価値起点」の開発です。そして、この価値起点の開発がスピードを生み出している最大の要因です。価値起点の開発では、ユーザーから得られるデータや検証結果をもとに仮説検証と改善を高速に繰り返して、開発の方向性を柔軟に見直していきます。
──実際にどのくらい早くなったのでしょうか?
森:具体的な数字で言うと、従来のAI開発だとPoC(概念実証)に2〜3ヶ月かけることが多かったんですけど、AIイノベの場合は、PoCは長くて3日というサイクルで回しています。もちろんその分小さなPoCにはするんですけど、それを高速に繰り返していく形です。
「ユーザーに価値を届けられているか」を重視して、データドリブンな意思決定を行う文化と、そのための高速なプロセスこそがスピード感を生み出しているというわけです。
──LLMエンジニアとしての王さんの役割について教えてください。
王:私のチームは3名体制(ビジネス、ソフトウェアエンジニア、LLMエンジニア)ですが、AIに関する部分は基本的に私がゼロから作って全て担当しているという形です。
技術的な部分だけでなく、ビジネスの意図を汲み取ってユーザーにとって何が価値なのかという視点にも介入しながら、それをちゃんとAIロジックに落とし込む作業をしています。そして、このAIロジックの開発が、私がいま取り組んでいる最もチャレンジングな作業です。
具体的には、アプリケーションの核となる部分でAIが機能し、利用するたびにサービスが改善されていくという「データフライホイール」の概念に基づいたコアロジックを開発している最中ですね。
──「データフライホイール」というのは?
王:AIイノベーション事業本部で重要だと考えている概念です。
核となる部分でAIが機能するAIネイティブなプロダクトにおいて、対話など表面的な部分に限らず、可能な限り様々な判断や機能をAI化することで、ユーザーが使うごとにどんどんサービスが良くなっていく仕組みを指しています。ユーザーの利用によって蓄積されるデータが、AIモデルの学習や改善に活用され、それがさらに良いサービス体験を生み出すという好循環を作ることを目指しています。
──そのデータフライホイールに基づくコアロジック開発というのは、具体的にはどのようなことをしていますか?
王:従来のエンジニアリングだとルールベースでやりがちな部分まで含めて、あらゆることに対してAIを使えないかと試行錯誤しながらAgentic Workflowを構築しています。例えばある目的を実現するためにユーザーに問いかけるテーマを考える時、従来だとルールに基づいてテーマを提案するところを、私たちの方法ではその仮説立ての部分にもAIを使います。そしてユーザーのフィードバックの蓄積によって全体としての質を上げていける形を作ります。
また、個々のLLMの応答精度を上げるためにプロンプトのチューニングもします。ベースラインを作ったあと、プロダクトオーナーのフィードバックを受けてプロンプトをバージョンアップするイテレーションを、満足のいく出力ができるまで6回繰り返しました。そのほか、精度と速度のトレードオフが発生した時には、メンターのアドバイスを受けながらLLMの並列化によって解決するということも行いました。
──次にAIフルスタックエンジニアとしての柿木さんの役割について教えてください。
柿木:私は、企画立ち上げのあと社内検証が回り始めたタイミングでアサインされました。王さんのプロジェクトよりもフェーズが進んでいるのでメンバーが比較的多く、LLMエンジニアやソフトウェアエンジニアもいる形です。
本来AIフルスタックエンジニアはAI・バックエンド・クライアントの全てを受け持てる役割ですが、今のプロジェクトでの自分の立ち位置としては、LLMエンジニア・ソフトウェアエンジニアの両方と協調して開発できる「つなぎ」の役割であることが重要だと感じています。
──「つなぎ役」というのはどのようなことをするのでしょうか?
柿木:サービス開発では、価値検証を繰り返すため仕様が変わることが頻繁にあります。例えばバックエンドがAIを呼ぶ形になっている場合、AI側の機能が大きく変わった時にはバックエンドやクライアントも変更しなくてはなりません。このような状況で、AIフルスタックエンジニアである自分がAIエンジニアと密接に繋がることで、開発を高速で回せていると感じています。自分が両方(バックエンドとAI)に手を入れることもありますし、自分が知識と実装を把握しているだけでも、AIエンジニア側からの共有を素早くキャッチアップすることで高速化に役立っています。
──当時の採用の仕組みではソフトウェアエンジニアとして入社された柿木さんがAIフルスタックエンジニアとして働くことについてはどう考えていますか?
柿木:AIフルスタックエンジニアというのは、AI周りの技術力も一定求められつつソフトウェアエンジニアとして強い人を求めているポジションだと考えています。
一昔前は、AIに関わるにはモデリングやチューニングなどにAI自体の高い専門性が不可欠でした。しかし現在はAPIやライブラリの進化により、領域によってはAI機能の実装のハードルは下がっています。一方で、高品質なプロダクトを開発する上では、多様な外部モデル・プロンプトの使い分けや、それらを組み合わせたエージェントやバックエンドの構築・運用などの重要さが増しており、ソフトウェアとしてはより複雑になっている面もあります。そのような変化があって、元々ソフトウェアエンジニアリングに強みのある人が専門性を活かしてAIの領域に参画していける「いいポジション」だと思いますね。
──お二人は新卒でありながら、今ご説明いただいたような重要な役割を任されています。その裁量についてどのように考えていますか?
王: まさかこんなに任せていただけるとは思ってなかった、というのが正直な感想です。マイクロマネジメントされることはありません。抽象的で曖昧な課題を渡され、「これをどうやって解決すればいいのか」から始まります。つまり仕様が具体的ではないため、自分でドキュメントを作成して提出し、「じゃあそれでお願いします」という流れで開発を進めます。意思決定が早く、裁量も大きいので、素早く大胆に動ける環境だと感じています。
柿木: 元々DeNAに対しては若手に裁量を持たせているというイメージがありましたが、実際に入社してみたら想像以上でした。どの会社でも段階的に裁量を持たせてもらえると思うんですけど、DeNAの場合はその段差が大きくストレッチなアサインを組まれるから、他社よりも早く大きな仕事を任せてもらえていると思います。まさかバックエンドやインフラをメインでやってねってこんな早く言われるとは思っていなかったので(笑)。
──ポジティブに受け止められているのでしょうか?
柿木:とてもポジティブに捉えてます。元々の入社理由も、難しい仕事を振ってもらえて成長できると思っていた部分が大きいので。自分がメインでやらなければならないという状況のおかげで、自分中心で調べたり必要なことを聞いたりすることで、技術的成長と1人の人間としての成長を感じています。
王:メンターがいなかったらすごい困ってると思います。新卒1人につき1人メンターをアサインしてもらえるのですが、適切なタイミングで一言テコ入れしてくれるというか、アドバイスやコミュニケーションを取ってもらえるので、この大きな裁量の中で成長しながらうまく進んでいけているという感覚があります。
──AIやLLMという進化の早い領域では、個人と会社の学びの環境も重要です。AI技術開発部ではそれをサポートする仕組みがありますか?
柿木:必要な勉強会は揃ってると思っています。例えば、バックエンドでGoを使うから詳しくなりたいと思ったらGoの勉強会に出られるし、AI周りをもっと詳しくなりたいと思ったらAIの勉強会に出られます。また、もし「この勉強会が足りてないな」と思った人がいたら、新しく勉強会を追加していける文化があります。LLM技術のシェア会みたいに最新技術をキャッチアップして広めてくれる勉強会が新しく出来たりですね。自分が「必要だ」って感じたタイミングで自由に選択して参加できる環境はすごくありがたいなと思います。
森:勉強会以外で大きいなと思うのは、なにか試したいAIプロダクトとかツールがある場合の利用申請が整っていることですね。申請から利用まで即日とか翌日とかには試せるっていうのが、すごく学びやすい環境だと思っています。また、アメリカや中国など海外の動向を定期的にキャッチアップしてくる役割があって、それをチーム内に共有してくれることも学びに繋がっていると思います。
──この数年で技術やビジネスが大きく変わったように今後も大きく変化していくと考えられます。その中でAIエンジニアに求められる力とはなんだと思いますか?
森:生成 AI や LLM、あるいは音声モデルのような技術は、これまでの「研究テーマ」というところから、もう完全に「実用」のフェーズに変わってきています。それに伴ってAI エンジニアの役割も、いわゆる「モデルを作る人」という役割から「活かす人」にまで広がっていくと思います。今後、単に AI を開発したり活用したりするだけじゃなくて、プロダクトの文脈やユーザー体験の設計にしっかり踏み込んで、技術をどう価値につなげていくかを考える力がより一層求められるようになると思っています。自分自身、実際に技術をユーザーに届ける難しさとか面白さの両方を感じてきたんですけど、これからの AI エンジニアは、技術の精度を追求されるだけじゃなくって技術の使われ方とかどんな価値を生むか、そういう設計ができる視点っていうのが重要になってくるんじゃないかな、と考えています。
──最後に、この挑戦に魅力を感じている未来のAIスペシャリストへメッセージをお願いします。
柿木:技術だけでなく、プロダクト開発自体が好きだと思える方に来てほしいですね。研究のためではなく、事業としてのプロダクト開発に熱中できるというマインドセットを持っている方にとって、「AIスペシャリスト」という枠は、すごく適したポジションだと思います。そんな方と一緒に、心からプロダクト開発に熱中できたら嬉しいなと思っています。
王:LLMが生まれる前と後とで、エンジニアリングで解決できる課題っていうのが無限に広がったと思っています。その無限に広がった可能性の中で、世の中にとって何が価値に転換できるのかを深く考えられる人と、LLMのポテンシャルを信じて不確実性を突破する意気込みがある人、そういう人と一緒に働きたいです。
森:AIサービス開発は正解にたどり着きにくい領域です。だからこそ、仮説検証を繰り返して失敗するっていうフェーズがすごく大事になってくると思っています。その挑戦の中で、ユーザーに「Delight(喜びや感動)」を届けられることに対して心からワクワクできる人、そういう熱意を持った方と一緒にプロダクトを世の中に届けていきたいなと思っています。
DeNAのAI技術開発部では、LLM・生成AIの時代に「ユーザーの価値を最速で検証する」という使命のもと、新しいAI開発の形を創り上げています。AIへの専門性で技術的課題の解決を担うAIエンジニア(LLM/生成AI)。そして、幅広い実装で価値提供の加速を担うAIフルスタックエンジニア。キャリアを問わず、難易度の高い課題に大きな裁量を持って挑戦し、優秀な仲間と切磋琢磨することで、これからの時代のAIエンジニアに求められる「技術を価値に繋げる力」を積み上げることが可能です。
この挑戦に魅力を感じDeNAのAIスペシャリストとしてのキャリアに挑戦したい学生の方は、ぜひ以下の新卒採用ページをご確認ください。エントリーを心よりお待ちしています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:秋山 卓也 編集:大山 達也
DeNAでわたしたちと一緒に働きませんか?