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リアルワールドデータで「保障の選択肢」を広げる。現場視点で目指す生命保険の新しいカタチ

「もしもの不安」を抱えながらも、健康上の理由から「保険を諦めた」。そんなご家族やご友人が、あなたの周囲にいませんか?

近年、生命保険業界では「Insurance(保険)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた「インシュアテック(InsurTech)」と呼ばれる新しい潮流が進んでいます。これはAI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの最新技術を活用し、業務効率化やサービス向上を目指す取り組みです。

そうした中、DeNAのヘルスケア事業も「リアルワールドデータ」(以下、RWD)を活用した生命保険業界の業務効率化やサービス向上を目指す取り組みを推進中です。

今回は、生命保険会社向けにRWDを活用した提案に取り組む大里 真紀(おおさと まき)に、業界の動向とDeSCヘルスケアの取り組みについて話を聞きました。

誰もが持つ「もしもの不安」を支える。世界第3位・日本の生保市場の役割

──まずは、生命保険業界の全体像について教えてください。

日本の生命保険市場は、世界的に見ても非常に大きな規模を誇ります。国・地域によって制度が異なることと、為替変動もあるので正確な比較は難しいですが、市場規模は米国、中国に次ぐ世界第3位とされており、世帯加入率(個人年金保険含む)は約90%にも上ります。生命保険会社が将来の支払いを約束している総額である保有契約高は約790兆円、また実際に支払われている保険金総額は年間約19兆円(一日あたり500億円超)と、「万が一」を支える社会インフラとして機能しています(※)

※……出典:「生命保険の動向(2025年版)」「生命保険協会 SR報告書2025」、生命保険文化センター「生命保険を知る・学ぶ

▲DeSCヘルスケアインダストリー統括部RWE推進部 大里 真紀(おおさと まき)
大手や外資系の生命保険会社での営業経験を経て2024年にDeNAに入社。生命保険の営業現場や商品知識に精通。現在はその知見を活かし、生命保険会社の商品開発部や主計部、引受査定部などに対し、リアルワールドデータを活用した商品開発・営業提案を行っている。

──日本の生命保険市場は世界第3位の規模とのことですが、今後の動向や市場のポテンシャルについてはどう考えていますか?

今後の動向として注目すべきことの一つに高齢化の進行があります。生命保険の契約者は60代以降の定年を意識し始める年代の方が多く、人口全体の平均年齢(約50歳)よりも高い水準にあると言えます(※)。今後さらに社会の高齢化が進み医療ニーズ等も増えることから、人口減少下にあっても今後一定期間は生命保険の契約数は伸びることが予想されています。

※……出典:生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計

日本には国民皆保険制度があり、健康保険や年金保険といった公的な保険制度によって誰もが医療費の自己負担を抑えたり、老後における最低限の生活保障の提供を受けています。とはいえ、公的保障だけでは以下のような不足が生じることがあります。

  • 医療費:差額ベッド代や先進医療など、公的医療保険の適用外となる費用の負担がある
  • 死亡・遺族生活:遺族年金は現役時代の収入と比べると少なく、生活水準の維持が難しい場合がある
  • 老後資金:公的年金だけではゆとりのある老後を送るには不十分な場合がある
  • 就労不能:病気やケガで働けなくなった際の収入減に対する備えが不十分な場合がある

民間の生命保険は、こうした「公的保障と実際の生活に必要な資金との差」を埋め、拡充する役割を担っています。生命保険の契約者に対する税制上の優遇(生命保険料控除)が認められているのはこの点に由来します。

生命保険会社は、顧客がニーズを認め保険加入を申し出た際に、生命保険会社は契約の成立可否を改めて判断する一方で、契約を引き受けられるかどうかの審査(引受査定)も行います。「販売すること」と「リスクを見極めること」、この一見背反するような業務を両立させているのが特徴です。

そんな生命保険会社の商品開発などで、DeSCヘルスケアが提供するRWD(実際の健康・医療情報)(※)が大いに役立つと考えています。

※……商品の開発、引受基準の検討、マーケティング等の生損保関連の事業を営む会社の事業活動支援を利用目的として、第三者提供の許諾を受けた行政機関等匿名加工情報を含む匿名加工情報および統計情報を法令に準拠して提供しています。

「保険に入れない」を「入れる」に変える。RWDが実現する顧客と保険会社がWin-Winになる商品開発

──DeNAの事業と生命保険会社、一見すると意外な組み合わせに感じます。大里さんは具体的にどのような活動を行っているのでしょうか。

私の仕事は、一言で言えば「生命保険会社の商品開発や査定基準見直しのご支援」です。DeSCヘルスケアが提供する健康診断結果やレセプトデータなどのRWDを活用することで、これまで生命保険会社が把握しきれなかった詳細なリスク発生確率などを算出・提供しています。

保険料の設定や引受基準の策定において、データは根幹に関わる重要な要素です。私たちは単にデータを提供するだけでなく、「そのデータをどう活用すれば、顧客にとって価値ある革新的な商品をつくれるか」を、各社の商品開発部門の方々と共に知恵を絞っています。

──具体的にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか?

たとえば、医療保険の商品開発において、ある疾患のリスクを見積もるとします。従来の情報だけでは「リスクが高い」と判断され、長期の入院保障などを提供することが難しかった疾患でも、RWDを用いて詳細に分析すると、特定の条件下では「実はそれほどリスクが高くない」ことが判明する場合があります。

RWDによってリスクの解像度が上がることで、これまで保険に入れなかった方が適切な保険に加入できるようになったり、保険料をより公平で適正な価格に抑えられたりする可能性が生まれるのです。これは顧客にとってのメリットであると同時に、生命保険会社にとっても、新しい顧客層へのリーチや商品ラインナップの拡充につながります。

──大里さんは以前生命保険会社で働かれていたそうですね。その経験は今の業務にどう活きていますか?

保険営業の現場にいた経験は非常に活きていると感じます。「こういう商品があれば、現場の営業担当者は販売しやすいのではないか?」といった、商品開発の先にある現場のニーズまでを想像して常に提案しています。

実際過去には「発生確率は低いものの、罹患すると生活に大きな影響を与える重大な疾患」をカバーする保険商品の開発を提案できた事例もあります。本社の商品開発担当者は営業現場との距離があることも多いため、現場目線での話や実務的なトピックを積極的に共有することで、単なるデータ提供者ではなく、パートナーとしての信頼を得ることにつながっていると感じます。

「データがない」で終わらせない。確かな根拠と信頼で生保業界に革新を

──生命保険会社への提案において、難しさを感じる部分はありますか?

生命保険会社は、過去の膨大な契約実績や公的統計などのビッグデータをすでに保有しています。そのため「なぜ今、DeNAのリアルワールドデータが必要なのか」をご理解いただくハードルは決して低くありません。

「こういうデータが欲しい」というご要望に対し、完全に合致するデータがない場合もあります。しかしそこで「ありません」と終わらせるのではなく、「なぜそのデータが必要なのか」という背景まで深くヒアリングし、一緒に考えるプロセスを大切にしています。そうすることで、別のデータでの代替案や、異なる分析手法による解決策が見えてくることも多いです。

──最後に、大里さんが生命保険業界で実現したいこと、抱負をお聞かせください。

生命保険業界は、万が一の支えを提供する社会的な責任を担い、伝統もあるため、新しい取り組みに対しては慎重かつ、着実に進めることが求められます。そうした業界の文化や慣行を深く理解し尊重した上で、DeSCヘルスケアのデータの価値を証明し続けていきたいと考えています。

保険の引受基準が適正化されることで、これまで保険に入れなかった人たちに保障が行き届くようになることは社会にとって大きな意義があります。また、データに基づいたより客観的な査定や商品開発が進むことは、保険会社で働く方々にとってもプラスになるはずです。私自身、生命保険会社で働いていた時代に「保障を届けられなかった悔しい経験」があります。お客様の加入申し込みをお断りせざるを得なかったあの時の経験があるからこそ、この取り組みには大きな意義を感じています。

堅実な生命保険業界の中に、DeNAらしい「フットワーク軽く動く文化」を少しずつ持ち込みながら、商品開発からサービス提供まで、業界の慣行をよりスピーディーかつ柔軟に進化させるお手伝いをしていきたいです。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:清宮 俊彦 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美

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