なぜ僕らはファンと「共創」するのか?YOASOBI×「オセロニア」プロデューサー対談
2025.10.21


前編で語られた「ファンとの共創」。その後編となる今回は、YOASOBIのプロデューサー・山本氏と『逆転オセロニア』(以下、オセロニア)プロデューサー・けいじぇいの思考の核心に迫ります。
「僕らの仕事は“ふわっと”している」。
両氏が口を揃える意外な共通点の裏には、膨大な選択肢から最善の一手を選び取るための壮絶な思考プロセスがありました。
エンタテインメントの最前線で戦い続ける二人の言葉から、変化の激しい時代を生き抜くヒントが見えてきます。
目次
香城 卓(以下、けいじぇい):プロデュースやプロデューサーといった仕事は、今後どのように変わっていくと思いますか?
山本 秀哉氏(以下、山本):僕自身、特に何をやっているというよりその場に“ふわっと”存在しているという感覚に近いので、プロデュースという仕事について問われると、正直なところよく分からないんですけど(笑)。
けいじぇい:実は、僕も全く同じ感覚なんです。音楽とゲームという違いはありますが、ゲームのプロデュースというと、仕事内容をあまりご存じない方からすれば、ゲームの設計をしたり何かを具体的につくったりしている人、というイメージがあると思います。けれど誤解を恐れずに言えば、僕自身は今ゲームを“つくっている”というより、むしろゲームという手段を介してユーザーさんや世の中とどうつながっていくかという視点で仕事を捉えているので、僕の仕事のほとんどはコミュニケーションになっているんです。
それはゲームを開発するチームに対してもそうですし、僕の中では特にユーザーさん、つまり遊んでくださっている方々に、つくり手としてどうコミュニケーションするかというところが非常に大きくて。単に情報を届けるだけでなく、いかにしてワクワクしてもらえるような見せ方をするか、どのような情報の出し方をすれば喜んでもらえるか、といったことも含めてです。本当に頭の中の7、8割は常にそのことを考えていて、「ゲームづくりをしているな」という感覚はどんどん溶けていっていて、何というか「ふわっとしている」という表現は非常に似た感覚でよく分かります(笑)。
山本:ユーザーさんとの関係もそうですし、ゲームがあって、ユーザーさんがいて、そして開発者の方々もそうですが、関わる人々を上手くつないで全体として良い形のグルーヴを生み出しながら物事を進めていけるように努めるのがプロデューサーの役割と言いますか。概念的に言うとそんな感じですよね。
けいじぇい:はい。開発のような仕事であれば、明日やることや今週のタスクが決まっていると思うのですが、僕の場合は決まっているようで決まっていない。たとえば、SNSを見ていて、タイムラインの意見が昨日と今日で一変したとなれば、当然やるべきことも変えなければと思いますし、予定されているものを予定通りにというのはあまりなくて。
必要であれば軌道修正をしてチームの方向性自体を変えることもありますし、あとはリリースするだけというものでも、もう一度白紙に戻してつくり直しましょう、ということもあります。それを判断するのがプロデューサーの役割なので、誰よりもユーザーさんのことを理解していなければならないし、それは常にSNSをチェックしているということではなくて、実際に会ってお互いに知り合いになることで初めて可能になることでもあると感じています。求められることのレベルが年々激しくなっているという感覚はありますね。
山本:本当にそうですよね。
けいじぇい:そう考えると、先ほどの質問に戻りますが、山本さんがご自身の仕事の神髄を若手に伝えるとしたら、どのような言葉になりますか?
山本:難しいですね。逆にお聞きしたいぐらいです。ただ一つ言えるのは、「常に考えた方がいい」ということでしょうか。
けいじぇい:と言いますと?
山本:「考える」と言いますか、プロデューサーの仕事は「決める」仕事だと思っています。「どっちに行きますか?」と問われた時に、決断を下す仕事。アーティストからも、他の多くの方からも、「どうしますか?右ですか?左ですか?」と判断を求められますが、その時に「では、○○に行きましょう」と決めるのが間に立つ僕の役割だと思っています。
ですからその決断を下す際に、5つの選択肢の中から1つを選ぶのと、200通り考えた中から1つを選ぶのとでは自信の度合いが全く違うと思うんです。5つくらいの中からだと「こっちかな。でも、こういう場合はどうだろう?」と聞かれた時に、「うーん、分からないけど、まあこっちかな」とどこか不安が残る。でも、200の可能性を頭に浮かべた上で「これだ」と進めば、非常に強い自信を持って進めるはずです。たくさん考え、選択肢を思い浮かべた上で道を選んだ方が迷いなく進めるし、その迷いのなさが周りの人たちに「そこに懸けてみよう」と思わせる力になる。だから、そういう風にきちんとジャッジをしなければならないと常に心掛けています。
けいじぇい:なるほど。たくさんの選択肢の中から「これだ」という結論に至るまでには瞬間的な判断ではできないですよね。そうすると、普段の生活からずっと考え続けているというような状態なのでしょうか。
山本:ええ、ずーっと考えています。
けいじぇい:やはり、そうですよね。
山本:ただ道を歩くだけでも、何も考えずに歩くのと、周りを見ながら「ああ、ここにこんな文字が書いてあるな」「これ、おもしろい広告だな」とか、色々なことを考えながら歩くのとでは差が出てくると思うんです。5日や10日といった短い期間では大した差はないかもしれませんが、それを続けた人とそうでない人が10年経った時には、インプットの量としてとてつもない差が開いていると思います。
時が経って振り返った時に「あの時間もったいなかったな」と悔しい気持ちになるのはもったいないので、どんな瞬間も無駄にしないようにできるだけインプットしたり、考え続けたりする時間を大切にしています。
けいじぇい:そうですよね。スケジュールという区切りはあっても、常に頭のどこかで考え続けている。プロデューサーの仕事って本当にその通りです。
山本:切れ目がないですよね。ですから仕事とプライベートの境界線はあまり意識していないです。
けいじぇい:ないですね。プロデューサーという仕事は本当に頭の中で絶えずシミュレーションを繰り返しているのだと思います。
山本:していますね。
けいじぇい:限りなく何度も何度もシミュレーションして、たとえば同じことを5回考えた後、6回目に「ちょっと待てよ」という新しい視点が生まれる。それがまたアイデアを少しだけ良くしてくれる。その繰り返しの作業のような気がします。
山本:それでめちゃくちゃ迷惑かけてしまう時もあります。「時間遅すぎ」って。
けいじぇい:「一体いつになったら結論が出るんだ」とか「昨日と言っていることが違うじゃないか」ということもありますよね。
山本:ええ、「ごめん、ちょっと言ってたこと、全部ひっくり返すけど」みたいな時もありますね。
けいじぇい:でもそれは自分の中では思考が積み上がっていった結果、ということなんですよね。僕も来たるオセロニア10周年の日、2026年2月7日のことをずっとシミュレーションしています。長年応援してくださっているオセロニアン(プレイヤー)の皆さんとの大切な約束の日ですから。
大体こういうことを発表したいとか、こういう形にしたいという構想はかなり固まっているので、それをどういう風に伝えるか「どんな間合いで」「どんな演出で」発表するか、といったことを脳内でずっと繰り返しています。考え続けていると「いやもっと良い案があるんじゃないか。こっちの方が良い」という風に自分の中でアップデートされていくので、物理的に来る締め切りまでにそれを磨き切って、「これでいこうと思うんだ」と自信を持って出したいという思いがあります。
山本:いや、しかし10年続けるというのは本当にすごいです。
けいじぇい:長かったですね。
山本:アーティストが10年続けるのとは少し意味合いが違うなと感じていて。先ほどのお話にもありましたが、ゲームというのはユーザーさんが深くコミットしてくれるものだと思うんです。だからこそ、何本も同時にプレイするのは難しい。たくさんのアーティストを「好き」でいることはできると思いますが、ゲームを何本も並行してやり込むのは大変だと思います。その中で10年間支持され続けているというのは、凄まじい競争を勝ち抜いてきたということだと思います。長く残り続いているゲームがどれくらいあるのかは詳しくは分かりませんが、10年というのは本当に大変なことだろうなと。
けいじぇい:スマホゲームの年間の生存率は3%と言われているので、10年となるとおそらく1%を切っているのではないでしょうか。
山本:それは、本当に稀有ですね。
けいじぇい:でも「あっという間でした」とは言えないくらい濃密な時間でした。自分の人生の中でも10年という歳月は非常に大きなものですから。
山本:10年も経てば年代も変わりますからね。
けいじぇい:いろいろな分岐点もありましたし、違う選択をすることもありましたが、それでも10年という区切りまで逃げずにやってこられた。この事実はきっとこれからの人生においても後悔しないだろうという感覚があります。
少し話は変わりますが、これからの音楽業界はどのようになっていくとお考えですか?
山本:どうなっていくんでしょうね。正直全く読めません。ただ、YOASOBIの活動で海外に行かせてもらう中でも感じますが、日本の音楽は非常に受け入れられる土壌があるし、その土壌はさらに広がってきていると感じる部分が多々あります。日本の音楽にはまだまだチャンスがある。聴きたいと思ってくれている人たちが世界にはたくさんいるんです。
かつてCDバブルの時代(1990年代の音楽CDがミリオンセラーを連発した時代)には、潤沢な資金でクリエイティブをしっかりとつくり込み、今聞いても色褪せない作品が多く生み出されています。そうした時代を経て今があるからこそ、日本の音楽は他国と比べても非常に洗練されていると僕は思います。ですから、もっと自信を持って外に発信していけば受け入れられる素地は十分にあるはずです。たくさんのアーティストで一緒に海外へ展開していくような動きがみんなでできれば、市場はまだまだ広がっていくのではないでしょうか。それが、ここ5年、10年で実現できたらいいなと思っています。
けいじぇい:ゲームに関しては……分からないな(笑)。ただ少し歴史的な背景からお話しすると、ゲームはある意味日本発祥で世界中から愛されるようになったコンテンツで、日本が覇権を握って世界に広まっていった日本を代表する産業の一つだと思います。そして僕たちは、その黎明期を築き上げた偉大な先輩たちのバトンを受け取った世代なのだと。
僕たちがバトンを受け取ったのは、ちょうどインターネットとゲームが融合する時代でした。先輩たちがつくってきた偉大なものを、僕たちが持つインターネットというツールと融合させ、新しい解釈を与えることが一つの役割だったのかもしれません。そして、僕たち世代の欲求としては、先輩たちが成し遂げたような偉業をこのインターネットとゲームの融合によってどう新たに生み出していくか、という挑戦なのだと思います。
世界中の人々が愛している日本のゲームは、その多くがインターネット出現前のものだと思います。僕たち自身の世代から生まれたIPで世界を熱狂させたものはまだないのではないか。先輩たちの偉大な作品をお借りして何かを成し遂げた経験はあっても、自分たちの手でゼロから歴史をつくり上げたとはまだ言えない。それを僕たちが現役でいられるうちにどう実現するか。あるいは次の世代にその夢を託し、何か種を残していけるか。そのために昔はやらなかったようなコミュニティの活用や、インターネットを介してリアルな世界とゲームをより深くつなげることで、新しい体験を創造していく必要があるのかもしれません。今はまだその道を模索している最中という感じです。
ちょうど今日(2025年7月5日)の日経新聞で、業界主要上位9社の時価総額がついに自動車産業とエンタテインメント産業で交錯し始めたという記事がありました。その一端を僕たちも担っているのかもしれないなと。
山本:頑張っていかないとですね。
けいじぇい:頑張りたいですね。
山本:微力ながら、貢献していきたいです。
けいじぇい:今日改めてお話しさせていただいて、やはり共感するところが非常に多いと感じました。
山本:そうですね。プロジェクトを動かしていくという点では、業界が違えど非常に近いマインドで取り組んでいるのかもしれません。他の業界の方とお話しする機会も時々ありますが、大枠の考え方は似ていますし、近いからこそ学べることも非常に多いです。今日も多くの学びがありましたし共通点がたくさんあるなと感じました。
けいじぇい:活動している場所は違いますが、同じエンタテインメントの最前線にいる者としてこれからも一緒に業界を盛り上げていきたいですね。
山本:はい、ぜひ盛り上げていきましょう。
けいじぇい:頑張りましょう。本日はどうもありがとうございました。
山本:ありがとうございました。
「僕らの仕事は“ふわっと”している」という言葉の裏にある計り知れない思考と膨大なシミュレーション。そして、無数の選択肢から未来を「決める」覚悟。
業界の最前線を走る二人の言葉には、エンタテインメントの未来を切り拓く覚悟と情熱が溢れていました。業界は違えど、その根底に流れるマインドは同じ。二人の交流から次なる“一手”が生まれることを期待せずにはいられません。
本記事の内容は、DeNAの公式YouTubeチャンネル「事業家のDNA〜事業家を目指すあなたへ〜」にて動画配信されています。そちらもぜひお楽しみください。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:川越 ゆき 撮影:山下 隼生
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