DeNA南場智子が語る「AI時代の会社経営と成長戦略」全文書き起こし
2025.02.14
AIが驚異的なスピードで進化を続ける今、「自分はデータアナリストとして、この先も価値を発揮し続けられるだろうか」そんな問いを自身に投げかけたことはないでしょうか。
「AIの台頭によって、自分たちの仕事はどう変わっていくのか」
「次世代のアナリストを、どう育てていけばいいのか」
そんな課題意識を背景に、先日、メルカリ社とDeNAの共催で、データアナリスト向けのイベントが開催されました。このイベントは、未来のデータアナリストの姿を、マネージャー・シニアアナリストで集合し議論することを目的としたものです。今回のイベントでは、2社以外にもスタートアップからメガベンチャー、上場企業など、数社からシニアメンバーが参加していました。
本レポートでは、メルカリ社の大西氏が提示した「5年後のアナリスト像」とDeNA佐々木が実践する「AIネイティブな新人育成術」、そしてそれに続いた議論の様子をお届けします。
目次
最初にマイクを握ったのはメルカリ社でフィンテック領域の新規事業分析を率いる大西氏。「AI時代において、データアナリストの価値はどうなっていくのか」という問いを掲げ、5年後のアナリスト像として2つのタイプを提示しました。
AIが多様な選択肢を提示しても、「どの戦略を選ぶか」「リソースをどこに集中させるか」といった正解のない問いに最終的な判断を下すのは人間の役割です。このタイプは、データだけでなく事業全体を俯瞰する「事業観」を持ち、議論が停滞した際には「やってみないと分かりません。まずやりましょう!」とチームを牽引できる推進力が求められます。事業の成功に直接貢献する、いわば「軍師」のような存在です。
誰もがAIで分析できるようになる時代、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、「AIのアウトプットを鵜呑みにする」といったリスクを防ぎ、組織全体が正しくデータを扱える文化が不可欠です。このタイプは、そのためのガイドラインの整備や仕組みづくりを担い、分析文化を組織に根付かせる役割を担います。組織の分析能力を底上げする「伝道師(エバンジェリスト)」と言えるでしょう。
講演後のQ&Aセッションでは、大西氏が提示した未来のアナリスト像について、闊達な議論が交わされました。事業の意思決定を担う「ウィニングディシジョンアナリスト」と既存のコーポレートプランニング部門との役割の違い、AIの進化がアナリストの価値を陳腐化させる可能性についてなど、アナリストの未来を巡る本質的な議論が繰り広げられました。
続いて登壇したDeNAの佐々木からは、今年5月にチームに加わった新人アナリスト2名のオンボーディングについて、現場の実践録が共有されました。
DeNAの「AIオールイン」という大方針のもと、彼らをいかに「AIネイティブなアナリスト」へと育成するか。1人は企画職から転向した2年目、もう1人は新卒。2人ともプログラミング経験はほとんどない状態からのスタートだったと話します。
佐々木は、育成のポイントとなった「ゴール設定」の独自性について、こう切り出しました。
「研修の初期段階では、あえてSQLを手で書くという基礎的なプロセスを実施しました。そこから実務に入った段階で、GitHub CopilotをはじめとするAIツールの利用を全面的に推奨しました。
彼らの仕事のゴールは、単に依頼された分析をこなすことではありません。その分析プロセスや結果を、『AIに読み込ませるためのドキュメント』にまで昇華させること。これを何よりも重視しました。
具体的には、クエリの概要、処理のポイント、出力結果のカラム定義、そしてその分析がビジネスのどのような意思決定に貢献したのかまでを、未来のチームの資産となるような構造化されたドキュメントとして残していきました。このドキュメント作成の徹底が、DeNAが目指す『集合知』の形成、ひいてはAIの協働を前提とした新たな育成モデルの核心をなしています」。
この育成法について、佐々木は人気漫画のストーリーを例に出しながら、その核心を語ります。
「この取り組みの狙いは、分析業務の属人化を防ぎ、個々人の経験をチーム全体の力に変える『集合知』の形成にあります。
最初は手探りだった新人たちも、1ヶ月もすれば数十個の『クエリとドキュメントのセット』を蓄積できます。そのドキュメントをAIに読み込ませることで、過去の自分が悩んだポイントをAIが補完してくれるようになる。この成功体験が、彼らを『AIと協働するのが当たり前』というマインドセットへと導いていきました。
人気忍者漫画の主人公が影分身をして修行をし、それを解くと経験値が本体に集積される。そしてまた影分身をすると全員にその経験が蓄積された状態でまた次の修行ができる。この仕組みを分析組織内につくり上げたイメージです。
このサイクルは、新人だけでなく、チーム全体にポジティブな連鎖をもたらします。一人ひとりのアナリストが日々の業務で得た知見(=経験値)を、ドキュメントという形で集約していく。その集約した知見が分析チーム全員が使うAIの参考資料となるようにすることで、今まで先輩や同僚に質問して引き出していたノウハウをAIが知ることになります。すると、個人の学びがチーム全体の『集合知』となり、全員のパフォーマンスを飛躍的に向上させるのです。
DeNAが考えるAIプロダクト開発の根本にあるのは、こういった「使うほどに賢く、使いやすくなる」という正のフィードバックが回るUXです。これを現場のアナリストの業務UXにも落としていきました。
正のフィードバックループが回り始めると、驚くべき成果が表れました。新メンバーが従来半日以上はかかると想定された分析を、わずか20分でアウトプットするまでになったのです」。
もちろん、その道のりは平坦ではなく、AIネイティブ世代ならではの、リアルな失敗も数多く経験したと佐々木は続けます。
これらの事象について、一つひとつ具体的に解説しながらも、こういった試行錯誤こそが未来への投資になると。DeNAでは、こうした失敗もオープンに共有し、より良い仕組みづくりに活かしていきたいと締めくくりました。
佐々木の発表を受け、会場からは多くの質問が寄せられました。特に印象的だったのは、AIネイティブの育成法に対する、ある種の“懸念”。長年の経験を持つアナリストたちが抱く、伝統的な育成法への想いと、新しいアプローチへの期待が交差した瞬間です。
参加者A:これは私の“旧世代的な考え方”なのかも知れませんが、分析を一気通貫で自分の手でやり抜くという経験にこそ、深い学びがあると感じています。AIでワープするように成長した新人が、次のレイヤーに進めるのでしょうか?
参加者B:手でやらないと得られない経験がある一方で、AIを活用して初めて見える景色も間違いなく存在するはずです。これまでの経験で培われた価値観は尊重しつつも、未来を見据えてAIネイティブな育成に舵を切る勇気も必要だと感じました。
これらの真摯な問いに対し、佐々木は自身のビジョンを語りました。
佐々木:その論点は、チームのリードアナリストとも深く議論しました。私たちの結論は「基礎体力を上げるために走り込みをしろ」という旧来のトレーニングだけに固執しないということです。つまずきは、個人の資質の問題ではなく、仕組みで乗り越えていきたい。
たとえば今のAIの流れを川だと仮定すると、経験豊富なシニアアナリストは、言わば「確かな一歩を川底を踏みしめて進む」ような安定感があります。一方、AIネイティブな新人は「浮き輪で流れに乗って進む」ドリフト感がある。それぞれに強みがあり、どちらのスタイルも尊重されるべきです。この2つの力を融合させることができれば、チームはもっと強くなれると思っています。
さらに、「経験豊富なアナリストたちが、この変化の時代にどう自らをアップデートしていくか」という、すべての参加者にとって自分ごととなるテーマへと議論は発展しました。
参加者C:AIネイティブ世代が圧倒的なスピードでアウトプットを出す姿を目の当たりにすることが、私たちにとって何よりの刺激になるのかもしれません。互いの働き方から学び合う環境が大切ですね。
佐々木:まさにその通りですね。AIネイティブなメンバーが生み出す価値を正しく評価し、可視化すること。そして、経験豊富なメンバーが持つ深い知見を、AIを通じてチームの集合知へと還元していくこと。その両輪が、組織を前進させるのだと思います。
最後に佐々木は、自身の経験と新人育成の試みを踏まえ、AI時代におけるデータアナリストのキャリアパスについて3つのキャリアパスを提示しました。
DeNAでは、既存事業の生産性を飛躍的に向上させると同時に、社員の半分が新規事業開発に挑戦し、未来のユニコーン企業を生み出すことを目指しています。そして佐々木自身もまた、このイベントの直前にDeNA AI Link(※)が戦略的パートナーシップを結んだAIソフトエンジニア「Devin」のソリューションを提供する事業の事業責任者として、3つ目の道「新たな地図を描く人」に舵を切ったことを明かしました。データアナリストとして培った知見が、AIプロダクトを創出する側でどう活かされるのか。データアナリストもまた、このダイナミックな環境の中で、自らのキャリアを主体的に描き、挑戦していくことが期待されています。
※……AI活用に関するコンサルティングやソリューションの提供を行う、2025年4月に設立した100%出資の子会社
今回のイベントは、シニアアナリストたちが企業の枠を超えて本音で語り合う「クローズドな場」として企画されました。これまでのイベントでは難しかった「シニア層のアナリストが抱える現状や課題を率直に共有し、互いに等身大で向き合いながら、業界全体の未来を共に創り出したい」という、まさに「草の根」から生まれた取り組みです。
実は、メルカリ社とDeNAの関係は10年以上に渡る長い歴史があります。データ分析の事業活用や組織体制、育成方針への関心が高まっていた10年前から、両社は登壇などを通じてお互いのスタンスを確認し合う関係性を築いてきました。その中で、「自分たちの向かっている方向は間違っていない」と確信できるような、まさに「羅針盤」を構築していったのです。
しかし、近年は組織内の人の入れ替わりや、お互いのアナリスト組織が成熟してきたことで、交流が減少傾向にありました。このタイミングで再びイベントをスタートした背景を、共催者の一人であるDeNA/IRIAMの出口に聞いてみました。
「生成AIの登場で、データアナリストの価値の出し方の前提が変わり、私たちも事業への向き合い方の更新を迫られています。今回ほどの大きく早い変化の波を乗り越えるためには、社内に閉じて視野狭窄にならず、志が近い仲間と手を組んで知見を広げることが大切だと考えたんです。そんな中、大西さんから久しぶりに連絡をもらいまして。改めて会話すると、互いに同じタイミングで同じ課題感を抱えていたと分かりました。きっと他にも似たようなことを考えている人がいるだろうと、周囲の数人に声をかけたのが始まりです。
イベント内では『お互いに、本音で語り合う』ことを重視しているため、LTのような形式を設けてはいるものの、一方通行の発表の場にならないよう意識しています。発表に対しての質問やツッコミがむしろ本番で、とことん意見を出し合うスタイルにしたことで、とても熱量が高いです。同じ問いを持った各社で試行錯誤し、得た知見を持ち寄って次に進む。そういう循環を起こす場の必要性と手応えを改めて感じています」。
最後に改めて、佐々木にこの取り組みの目的について聞くと、こんな言葉が返ってきました。
「DeNAが掲げる『AIオールイン』は、自社の成長だけを目的としたものではありません。業界の垣根を越え、社外のパートナーともオープンに連携しながら、未来について本音で語り合える『場』を創り出していく。それこそが、新たな時代を切り拓くための力になります。
日本の、そして世界中のアナリティクスに関わる皆さんへ。私たちは、この『等身大に語れる場』をさらに活性化させ、そこから生まれる「未来の羅針盤」を、今後も発信していきます。この熱量を大切にするため、コミュニティはクローズドな“招待制”です。もしこのレポートを読んで興味を持たれた方は、ぜひお近くの参加メンバーを探してお声がけください。未来を語り合う新たな仲間との出会いを楽しみにしています」。
DeNAでは、私たちと一緒に未来を創っていくデータアナリストの仲間を募集しています。ご興味のある方は、ぜひ採用情報もご覧ください。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
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