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【DeNA x AI 2025】「AIオールイン」戦略の全貌:3つの柱と未来への道筋

2025.07.07

今年DeNAは最重要テーマとして「AI」を掲げ、全社を挙げてその活用を推進しています。

CEOの岡村 信悟が毎回テーマを設定し、社内のキーパーソンにインタビューする「CEO Talk」。先日開催された全社会(※)では「DeNA × AI」をテーマとして、AI戦略のキーパーソンと熱い議論が交わされました。

※……DeNAグループの全従業員が参加する社員総会。

AIイノベーションを牽引するAIイノベーション事業本部長の住吉 政一郎、そして全社のAI活用推進とその基盤を整備するIT本部長の金子 俊一と共に語られた、DeNAが目指すAI戦略の全体像から具体的な取り組み、そして未来への展望まで、その模様を詳しくお届けします。

全社で挑むAI戦略「AIオールイン」。その3つの柱

岡村 信悟(以下、岡村):今回の「CEO Talk」のテーマは「AI」です。DeNAがAIとどのように向き合い、未来を切り拓いていくのか。AI戦略の最前線を担う住吉さん、金子さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。

まずは、DeNAが掲げるAI戦略「AIオールイン」の全体像から。2025年3月の決算発表でも使用した図を元に、なぜ「全社の生産性向上」「既存事業の競争力強化」「AIによる新規事業の創出とグロース」という3つの戦略に分解して進めるのか、その背景からお願いします。

金子 俊一(以下、金子): 「オールイン」という言葉の通り、「オール(全員)」で取り組むことが非常に重要だと考えています。

新しい挑戦では、とかく新規事業が先行したり、既存事業の強化が個別に語られたりしがちですが、今回は「オール」です。AIによる新規事業の創出、既存事業の競争力強化、そしてそれを支える全従業員のAIネイティブ化と生産性向上。この3つが揃って初めて「オールイン」と言えると考え、戦略を分解しています。

1.全社の生産性向上:目指すは「業務量半減」

金子:最初の柱は、全社の生産性を飛躍的に向上させることです。AIオールインにおいては「業務量を半分に、生産性を倍に」という高い目標を掲げました。正直なところ、最初は「本当に実現可能なのか?」といった疑問を抱かれるのが自然かと思います。ですので、まずは具体的な成功事例を作ることが非常に重要です。

一つの部署で「業務量が半分になった」という成功事例が生まれれば、「自分たちの部署でもできるはずだ」というポジティブな波及効果がDeNA全体に広がっていく。そう信じて、まずはインパクトの大きな成功事例創出に向けて、IT本部が先導を切って実例作りと環境整備を進めています。

2.既存事業の競争力強化:AIによる提供価値の最大化

金子:次に、ゲームやスポーツ、ライブコミュニティ、ヘルスケア・メディカルといった既存事業のバリューアップです。これは既に各事業本部のメンバーとディスカッションを重ねており、彼らが描くAIを活用して「こういうことを実現したい」「こういうことをやろうと思っている」という構想を、私と住吉さんで具体的な設計に落とし込んでいる段階です。

3.AIによる新規事業の創出とグロース:3つのアプローチで未来を拓く

住吉 政一郎(以下、住吉):そして、3つ目の柱が、AIによる新規事業の創出とグロースです。ここも大きく3つの領域で進めています。

1つ目は、AIを核とした「AIネイティブ」なプロダクトを社内で立ち上げること。2つ目は、スタートアップとの連携や投資を積極的に行い、エコシステム全体でAI分野の成長を加速させること。そして3つ目が、先日設立を発表した新会社「DeNA AI Link」です。DeNA自身がAIを導入・活用していく過程で得た知見は、他の企業様にとっても価値あるソリューションになると考えています。

岡村:DeNAがAIにオールインすることで、既存事業の価値をさらに高め、そこで生まれたリソースを新たな価値創造へと投資できる。この好循環が、テックカンパニーとしてのDeNAを次のステージへ進化させる原動力になります。まさにその世界観を表現したのが、この戦略図ということですね。

戦略を駆動する「AIエキスパートチーム」とDeNAならではの強固な基盤

岡村:次に、戦略を推進する体制「AIエキスパートチーム」について詳しく教えてください。

住吉:「AIエキスパートチーム」という名称には、我々のこだわりを込めています。AI活用というと、AIのスペシャリストが全て解決してくれるような期待を抱きがちですが、実際には、AIで何ができるかを深く理解した「AIスペシャリスト」と、事業ドメインの知識を持つ「事業開発メンバー」が一体となった「チーム」で取り組むことが不可欠です。

AIイノベーション本部で新規事業を創出する際も、AIスペシャリストだけでなく、プロダクトマネージャーやデザイナー、エンジニアがAIの特性を深く理解しながら開発を進めています。これは特定の組織図ではなく、DeNAのあらゆる場所でこうしたチームが自律的に立ち上がっていく、という理想の姿を示しています。

岡村:そのチームを支える「基盤」の部分についてはいかがでしょうか。

金子:AIが価値あるアウトプットを生み出すためには、膨大なデータを取り扱い、効率よく学習させることが非常に重要です。また、自社でAIを運用する際には、GPU(大量データの高速処理に特化した半導体チップ)などのシステム基盤をいかに安定的に、かつ低コストで調達するかも鍵となります。これらはまさに、DeNAが長年培ってきた強みが活かせる領域だと考えています。

そして、DeNAの最大の資産は、優秀なエンジニアたちです。この「AIオールイン」戦略を牽引するのは彼ら自身でなくてはなりません。そのために、まずは全エンジニアにAIネイティブになってもらうべく、開発生産性を高めるAIツールを積極的に導入し、半ば強制的にでも使ってもらうようなオペレーションも進めています。

さらに、各エンジニアの生成AI活用レベルを可視化し、目標設定と連動させる「DARS(DeNA AI Readiness Score)(仮称)」という制度も設計中です。こうして、エンジニアが戦略の1から3の全てを力強く牽引していく組織を目指しています。

岡村:まさに、インターネットが普及した時のように、AIが当たり前になる世界の先頭に立つ。AIエキスパートチームが中心となり、現場のメンバーがAIを徹底的に使いこなし、自身の業務効率化や新たな価値創造を「面白がる」。その熱量が、DeNAを新たなステージへと押し上げていく、そんな期待感があります。

生産性向上から未来の働き方まで:DeNAのAI活用 3つの取り組み

岡村:それでは、より具体的な取り組みについて。まずは、身近な業務がAIで劇的に変わるという成功体験が重要だと思いますが、そのあたりの事例を紹介してください。

【取り組み1】年間数十億円のコスト削減へ。品質管理業務を変革するAI活用

金子:直近で大きな成果を目指しているのが、品質管理業務におけるAI活用です。これはAIオールインの三角形でいうと「1. AIによる全社生産性向上」に該当する取り組みです。

品質管理は、DeNAの全てのサービス・プロダクトに共通する業務であり、全社で年間で数十億円規模のコストがかかっています。もしこれを半分にできれば、インパクトは絶大です。そのため、最初の成功事例のターゲットとして品質管理業務を選びました。

まず、品質管理業務を徹底的に分解し、特に工数の大きい「検証業務」と「テスト項目書作成」にターゲットを絞りました。

例えば、ゲームのイベントで変更されるマスターデータが、意図通りに表示されているか。従来は人による実機での目視確認に膨大な時間がかかっていますが、この部分に実機検証だけでなくAIを介在させることで、大幅な工数削減が実現できるのではないかと考えました。また、ゲームの仕様書からテスト項目書を作成する作業をAIに置き換えることで、こちらも大幅な効率化が期待できます。

岡村:現場の反応や、具体的な成果はどうですか?

金子:今回は「かっこよさよりも成果」にこだわり、現実的なアプローチを選択しました。 当初は「ロボットが自動でテストしてくれるのでは?」といった期待もありましたが、まずは愚直に、しかし確実に成果を出せる方法で進めています。 マスターデータ検証やテスト項目書作成など、個別の業務ごとにAI活用の方針を定め、現在鋭意取り組み中です。

現場からは当初、「もっとかっこいいやり方があるのでは?」「ゲームごとにやり方が違うので横展開しづらい」といった声もありました。 しかし、まずは目に見える成果を出すこと、現場メンバーが成果を実感できることを優先し、議論を重ねて現在のプランに振り切りました。 これで成果が出れば、次のフェーズとして、より高度な手法や横展開を進めていけば良いと考えています。

金子:正直にお伝えすると、現状ではまだ人間が作業した方が効率的な部分が多いです。AIの精度がまだ業務レベルに達していないため、業務を細かく分解し、AIと人間のチェックを組み合わせながら進めている段階です。

AIの貢献度を定期的にポイントで評価するようにし、合格ラインを3点としています。現在はまだ1点台ですが、悲観はしていません。AIのチューニングによる改善の余地は大きく、2点台に乗れば人間と遜色ないレベル、3点に達すれば明確な工数削減効果が見えてきます。日々の試行錯誤を数値化し、着実にゴールへ向かっている状況です。

【取り組み2】「DeNA AI Workspaces」構想。AIが業務をシームレスに繋ぐ未来の働き方

岡村:さらに未来を見据えた取り組みも進んでいるそうですね。

金子:はい。従業員が働く中で、AIがごく自然に介在するような就業環境「DeNA AI Workspaces(仮称)」の実現を目指し、ディスカッションや検討を進めています。

現在は、Geminiや社内のチャットAI、各種申請システム、スプレッドシート、Gmail、Zoom、Google Meetといったツールが個別に存在しています。これらが統合され、例えばチャットで「〇〇をしたい」と自然言語で指示するだけで、裏側で必要な申請や処理が自動で完了するような世界を目指しています。

これを実現するためには、ユーザーが触れるクライアント部分、期待されるAIエージェント群、そしてデータが存在するリソース部分をいかにスムーズに連携させるかが重要になります。また、これはDeNAに限らず、多くの企業で求められる仕組みだと考えています。世界的に見てもまだ確立されたソリューションはなく、各社が開発を競っている状況です。

その中で、最適なものを選択・構築し、DeNA全体の就業環境をデザインしていきたい。 短期的に進められるところは迅速に進めつつ、中長期的な理想像も描き、柔軟に修正しながらこの目標に向かっています。 気づいたら業務がスムーズにつながり、格段に楽になっている、そんな状態を1日でも早く皆さんにお届けしたいと考えています。

【取り組み3】プロダクトのコアにAIを。DeNAが目指す「AIネイティブ」なサービス開発とグローバルな視点

岡村:続いて住吉さんに、AIを核とした「AIネイティブ」なプロダクト開発について伺います。

住吉:プロダクト開発は通常、ユーザーにリリースし、その反応を見て改善サイクルを回していきます。 現在、多くのAI活用プロダクトは、既存のプロダクト開発サイクルの中にAIを活用したツールや機能を組み込む形でつくられています。

我々が定義する「AIネイティブ度が高いプロダクト」とは、プロダクトの核となるサイクル自体にAIのフィードバックループを組み込み、それによってユーザー体験価値が継続的に高まっていくプロダクトを指します。現在、このようなプロダクトの創出を目指し、10本ほどのプロダクト開発が進んでいます。

マーケットにはまだ多くの可能性があるため、既存の延長線上にあるAI活用(図の真ん中)と、コアからAIネイティブなプロダクト(図の右側)の両方を見据え、チャレンジしています。金子さんのチームが日々の業務改善で数値を着実に積み上げていくのに対し、我々のチームは、まず仮説をプロダクトで検証し、それが世の中で実現可能かチャレンジしていくチームです。

岡村:この考え方は相当練られていますね。

住吉:はい。現在のAI、特にLLM(Large Language Models-大規模言語モデル)の特性を活かし、DeNAが得意とするtoCサービスにおいて、強力なフィードバックループを構築できる領域はどこか、ということを突き詰めて考えてきました。

岡村:この仮説に基づいたプロダクトが世の中に受け入れられると、確信に変わるというわけですね。

グローバルなAIトレンドとDeNAの戦略

岡村:住吉さんはグローバルのAI動向も注視されていますが、その中で見えてくるものはありますか。

住吉:グローバル、特にアメリカのプレイヤーは、基盤となるモデル自体を自社で開発する動きが活発です。イラスト・動画生成、音声合成など、モデル開発からサービス展開まで一気通貫で行っています。彼らのようなプレイヤーが登場すればするほど、我々のサービスやプロダクト事業の価値が高まるレイヤーはどこか、という視点で市場を見ています。

一方、中国市場では、toCサービスで成功した大手企業が大資本を使って大規模なAIプロダクトを開発するケースが見られます。特に、リアルタイム対話型のゲームとコミュニティサービスの中間のようなプロダクトが次々と登場しており、彼らも日々プロダクトの形を変えながら新しい体験のサイクルを模索しています。

AIネイティブなプロダクトは、ユーザーが使えば使うほど最適化されていくという特徴があります。このような体験が、今後はタイムライン型コンテンツだけでなく、AIキャラクターとの対話など、新たなインターフェースに置き換わっていく可能性があり、日本の市場においても非常に面白い領域だと考えています。

AI時代におけるデータの重要性とDeNAの取り組み

岡村:先述の金子さんの話にもあったように、やはりデータが重要になってきますね。特定の領域のデータを学習させることで、どのような性能やソリューションが生まれるのか。ヘルスケア・メディカル事業やスポーツ事業など、DeNAが持つさまざまな領域で、AIを活用した新しいワークフローやソリューションの形が具体的に見えてくるのではないでしょうか。

金子:おっしゃる通りです。まだAIでワークフローが完全にこう変わる、と具体的に決まっているわけではありませんが、個々のツールを使えば何ができるか、というパーツは見え始めています。 これらのパーツを組み合わせ、事業体としての構造を作っていくことを目指し、さまざまなトライをしています。

岡村:DeNAは元々データ解析に強みがありますが、公開されているオープンデータだけでなく、ヘルスケアやスポーツ領域など、我々が独自に持つ強みとしてのデータをどのように集め、豊かにし、サービスやプロダクトに繋げていくか。これが他社との差別化や競争優位をもたらし、DeNAらしいDelightの提供に繋がるのではないでしょうか。

どの事業領域も、これから活かせる資産データが何なのか、より意識的に取り組むべきだと感じます。

金子:まさにその通りで、その考え方を従業員一人ひとりが実践できる状態がAIネイティブ化であり、AIエキスパートチームが目指す姿です。

AIを使いこなすだけでなく、AI時代において自社の価値を高めるために、どこに注力し、何を強みとして蓄積すべきか。従業員全員が意識的にならないと、出遅れてしまう可能性があります。 宝の山を活かせない状況を避け、AIフレンドリーなデータの形をどうつくっていくかが、これから非常に重要になります。

AIへの挑戦をサステナブルな取り組みへ

岡村:それでは最後に、お二人から改めてメッセージをお願いします。

金子:このAIへの取り組みを一過性のイベントで終わらせず、サステナブルなものへと進化させることが最も重要だと考えています。そのためには「成果」と「チャレンジ」の好循環が欠かせません。

成果とは、数字だけでなく、従業員が「仕事が楽になった」と実感できること。そして、我々の試行錯誤のプロセス自体が、例えばAIエージェントのような形で新たな価値提供に繋がる可能性も意識しています。楽になれば、皆が楽しめるはずです。DeNAの行動規範であるDeNA Quality(DQ)の一つ「みちのりを楽しもう」を体現するような取り組みを進めていきます。

住吉:金子さんがしっかりと足元を固めてくれている中で、私のチームでは「質の高い、速いチャレンジ」を継続することを最優先にしています。質の高いチャレンジを速いサイクルで回し続けることは、実は非常に難易度が高い。一度始めると中々やめられないこともある中で、何が良いチャレンジなのかを見極め、それを積み重ねていくことが事業の成長に繋がります。

先ほどお話しした「記憶管理」の技術のような、チャレンジを支えるミドルウェア基盤の整備も進めながら、チャレンジの質と回転スピードを高めていく。そうして、中長期的に大きなインパクトのある事業を、なるべく早く、しっかりと形にしていきたいと考えています。

岡村:お二人の話を聞き、改めてこの素晴らしい組み合わせで「AIオールイン」の姿を描けると確信しました。

予算も人材も最大限投入し、DeNA全体が本気で変わろうとしています。我々DeNAは、常に技術を信じ、選択したことを正しいものにする熱意でDelightを創造してきました。このAIへの取り組みも、従業員全員が楽しみながら、お祭りのような熱気で日々を送り、その勢いでDeNAが次のステージへと駆け上がる。そんな未来を皆さんと共に実現していきたいと思います。これから次々と生まれる成果にご期待ください。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

編集:川越 ゆき

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