【新卒エンジニア研修2024】社内に導入された「プロダクト開発」から見るDeNAの人材育成
2024.09.11
今年、新たに50名の新卒社員がDeNAに仲間入り。彼らは4月の入社後、約3週間に渡って職種を問わず全体研修に参加しました。
2月の会長・南場(智子)による「AIオールイン」宣言後に実施された最初の新卒全体研修。「さぞやAIに特化した内容だったのでは?」と担当者に問いかけると、意外な答えが返ってきました。
「AI時代だからこそ、以前から変わらず大事にしてきたことがより大事になりました。それをさらに深堀りして、研修プログラムの軸に据えました」と。
一体どんなプログラムが実施されたのか。オーナーを務めた村上 僚(むらかみ りょう)を迎え、研修プログラム設計の背景から込めた思いまで、詳しく聞きました。
目次
──2025年2月に南場さんが「AIオールイン」宣言をしました。メディアの反響も大きかったと思いますが、新卒全体研修のオーナーとしてどのように受け止めましたか?
新卒社員たちは当然ながら「AIにオールインする会社」に大きな期待を寄せていたと思います。その期待に応えつつ、表面的なテクニック論にとどまらず、どのようなAIに対する接し方や使い方を身につければ、その後の業務につなげられるのかを検討しました。
前提として、AI活用には3段階あると考えているのですが、そのどの段階までを研修に盛り込むかを検討しました。
第1段階は、ChatGPTやGeminiといった生成AIツールを使った壁打ちや議事録作成、翻訳といった使い方。第2段階は、業務プロセスにAIを組み込む使い方。そして、第3段階は、AIをコア機能としたサービスをつくることです。
当初は、第1段階に焦点を当て、生成AIを便利に使うヒントを伝えようとしていましたが、研修担当メンバーで議論した結果、もう1段階レベルを上げてみようということになりました。
──そうすると、やはり今年の新卒研修の鍵は「AI」だったのでしょうか?
南場さんは「AIオールインで既存業務の人員を半減させ、その分、新規事業にあてる」と宣言しました。つまり、それはDeNAに存在するあらゆる業務を見直し、業務量を半分に、生産性を倍にしていくということです。
「AI」も意識しつつ、研修のメインコンテンツを「事業部の業務課題を解決するツールの企画」と定め、表面的なAI利用に終わらずに、より本質的な学びを提供することを意識し、業務や課題の解像度を上げたうえで、そこにどうAIが使えるかを考えるよう促しました。
そしてそのメインコンテンツに新卒社員が取り組むうえで、AIのより本質的な利用方法の勘所が必要になります。ですのでAI活用については、サンプルの業務課題をお題として提供し、その業務を生成AIで効率化するとしたらどのようにするか、という形で「AI活用演習」を実施しました。
──なるほど。では改めて今年の研修コンセプトからお話を聞かせてください。
今年の研修コンセプトは、「『こと』に向かうの真髄を掴む 〜成果につなげるプロアクティブ行動〜」です。
採用戦略部で主に新卒社員のオンボーディングを支援している私にとって、新卒社員がいずれ多様な人材を巻き込み、事業を推進するリーダーとなりうる人材として大きく活躍するための基盤をつくることが目標です。
そこで、「早く立ち上がり活躍できる人材にはどうすればなれるのだろう?」という問いが生まれました。この問いに向き合う中で、活躍人材の特徴を改めて調査して言語化しようと考えました。
──つまり、DeNAにおける活躍人材の特徴、共通点を見つけようとしたと?
はい。社内で新卒5年目までに著しく成長を遂げたメンバー、具体的には5年目の終わりには部長クラスに昇格するスピードで成長している約20人を対象にヒアリングを行いました。そして、その上長やメンターにも。その結果、DeNAで成長し、活躍する人に共通する要素が見えてきました。
──どのような要素が見えてきたのでしょうか?
活躍人材に共通していたのは、「ストレッチアサイン」です。彼らは高い目標を設定し、常にチャレンジングな打席に立ち続ける傾向がありました。そこで次に生まれた問いは、「大きなアサインを繰り返しもらう、あるいは自分で見つけるためにはどうすればいいのか」という問いです。
この問いを掘り下げていくと、活躍人材の共通特性としてはDeNAの行動指針「DeNA Quality」(以下、DQ)の一つである「『こと』に向かう」意識が高く、「プロアクティブ行動」の傾向が強いことがわかりました。そして、この要素を新卒全体研修に取り入れようという動きになったんです。
──プロアクティブ行動というのは、先を見据えて主体的に行動を起こすことでしょうか?
そうです。自ら問題発見のために動いたり、学習したり、必要ならば人を巻き込んだり、フィードバックを求めたりするような一連の動きを指します。プロアクティブ行動によって、大きなアサインを手繰り寄せ、そこで挑戦・成長することで信頼を得て、さらに大きなアサインへとつながっていく。
新卒社員が配属後に速やかに組織に適応し活躍できるよう、必要なマインドセットを新卒研修の3週間で身につけてもらうことを目標として、入社1年目の早い段階からプロアクティブ行動を身につけてほしいという思いでこの研修コンセプトを掲げました。
──活躍人材に共通の傾向として見られる「『こと』に向かう」と「プロアクティブ行動」をどのように研修に組み込んだのでしょうか。
まず、「『こと』に向かう」の定義を分解し、より深く理解することから始めました。
インターン等ですでに仕事を経験したことがある新卒社員も、そうでない社員も、これまでに経験のない規模の取り組みをし、多くの人と関わるようになると、価値観や意見の相違も生じます。そこで、目指す目的や方向性を揃える必要が出てきます。
さらに、自分の領域に閉じこもることなく、隣の領域や他の部署がやっていることにも関心を広げていく意識も重要です。また、まだ誰も気づいていない課題を見つけて新たな「こと」をつくることも求められます。
これらはすべて純粋に成果を出すために「『こと』に向かう」に含まれますが、活躍する人材は、目的を「揃える」「広げる」「つくる」ところまで自然に実践している人が多い印象です。
──「『こと』に向かう」の解釈の違いでパフォーマンスに大きな差が出てくると。
ありがちなのは、この言葉が「人に向かう」ことのアンチテーゼとしてのみ取り扱われてしまうことです。
人に意識が向かいがちだからその逆の作用を働かせる言葉でもありますが、そもそも向かうべき「こと」がわかっていなければ最初の一歩を踏み出すことができません。
特に配属されたばかりの新卒社員は、DeNAが持つサービスの中で自分が何をすればいいのか、何を目標とすればいいのか、どんな課題を見つければいいか迷うこともあると思います。
だからこそ「『こと』に向かう」ためには具体的な目標/成果を定める必要があります。その点を研修内で意識的に伝えるようにしました。
──研修設計はどのように工夫したのでしょうか。
新卒社員が配属後の現場で実際に体験することとの相似形を意識して設計しました。
1年目は、概ね既存のサービスに配属され、先輩社員がプロダクトや事業、組織の課題を切り出して新卒社員に課題として渡します。
多くの現場では、新卒社員がその課題の真意や真因を探り、誰に話を聞けば解像度が上がるかを考え、解決策を提案し、やがて一定の成果を出すことで、さらに大きな課題であったり、より高いレベルの課題に取り組んでみようという流れになります。
新卒研修では、実際に各事業部で切り出してもらった6つの課題を集め、それらを解決するツールを、職種横断の4人で構成された計12チームに企画してもらいました。各課題に対して2チームずつ並列して取り組む形式です。
──どんな課題が出されたのでしょうか。
たとえば、ゲームサービス事業本部のエンジニアが現場で困っているイシュー管理であったり、新卒メンタリングをサポートするAIメンターの企画であったりなど、多岐にわたる課題が出されました。
お題をもらった新卒社員は、まず「誰にヒアリングすべきか」「この人たちの本当の困りごとは何か」「どうすれば本質的な課題解決につながるのか」を深く掘り下げる体験をします。
──新卒社員が目標に向かうために、どのような工夫をされたのでしょうか。
研修中、各チームに3~5人のメンターを配置しました。まず事業本部長クラスのシニアメンターに声をかけ、そのシニアメンターがミドルメンター数名をアサインして入ってもらう形です。多くの新卒社員を指導することになるため、ミドルメンターにとっては、結果的にピープルマネジメントを学ぶ場にもなっています。
私からは、メンター陣が常日頃現場で行っているように「新卒社員が『こと』に向かう意識が持てるように導いてほしい」と伝えました。
──たとえば、どんな場面が想定されますか。
たとえば、メンバー間で言い争いになっている雰囲気があれば、「それぞれが考えていること/認識がずれているんじゃないか」とフィードバックするよう伝えたり、周囲と自分の差を必要以上に意識して消極的になっている人がいたら、「それって『こと』に向かえていないんじゃないか」とフィードバックしてもらうよう促したりしました。
よく陥りがちな「こと」に向かえている状況と向かえていない状況を、できる限りリストアップしてメンター陣と共有しました。
──とても内容の濃い、かつストレッチな3週間を新卒メンバーは過ごしたと思いますが、全体研修を通じて彼らに見られた変化はどのようなものがありますか?
メンター陣からは、「メンバー間で向かう『こと』を揃えて向かおうとする意識が生まれた」「自発的にチームを構築し、お互いの価値観を理解しようと努める様子が見られた」という声が上がっていました。また、発言量が少なくなりがちな人に積極的に発言するマインドが現れ、自分たちで考えてもわからないことは積極的に聞きに行く姿勢も見られ、それに伴う行動の広がりを各所で見ることができました。
まさにプロアクティブ行動の傾向が強くなる、願っていた変化がありました。
──変化の背景にはどのようなフォローやコミュニケーションがあったのでしょう?
大きく分けて2つのパターンがあると思います。
一つめは新卒社員同士による主体的な動きです。心理的安全性を意識して、お互いが発言しやすい状況をつくろうと自ら動いたり、日報で振り返りや経験学習を回したりした結果、チームや個人の変化につながったケースです。
二つめは、メンターとの関係性です。全員がメンターの誰かと1on1を実施していて、各自が「こと」に向かうことができるように、メンターが後押ししてくれたことが大きかったと思います。
あともう一つ、研修の中盤に「『ことに向かえているか』から考える自己理解研修」を実施し、互いに状況を共有する時間を促しました。
──研修に向かう中で、自分自身を振り返る時間があるというのは貴重ですね。やはり、自信や実績のない状態で自分を開くのは、ものすごく勇気のいる行動だと思います。
まさにそれを後押ししたかったというのがあります。
たとえば、優秀な上司とメンターの意見だから従ってしまうとか、失敗したら周囲に迷惑をかけるから提案しないとか、初歩的な質問をしたら申し訳ないとか。正直なところ、私にも経験があります。まずは、自分の傾向を認識して改善することが大事だと伝えました。
──新卒に限らず、多くの社員に通じますね。
人が「プロアクティブ」に向かえない状況の多くは心理的な理由が大きく、自分を守りたい本能でプロアクティブ行動に向かえなくなる状況が発生するのではないでしょうか。本能なので自然なことではありますが、それを乗り越えたときにこそ、行動にも大きな変化が生まれると思います。
自身の状況についてチェックリストを用いてスコアリングし、自己分析を行いチームでシェアした結果として、内省をしつつ、メンバーの相互理解を深めることにもつながったのではないかと考えています。
──新卒全体研修の成果は、エンジニア研修でプロダクトにしていくと聞きました。
はい。2チームが並行して同じ課題に取り組んでいるので、最終日にその同じ課題に対する2つの案をマージ/取捨選択するフェーズを設けました。合意形成がうまくいかなかったり、どちらかのチームの案に軸足を置くことになったりすると、もう片方のチームにとっては悔しさもあると思いますが、そういう状況こそ、「ことに向かう」ためのいい経験になると信じています。
──改めて、新卒研修とはどういうものだと感じていますか?
私の主観になりますが、社会人として、ビジネスパーソンとして生きていく上で、どこかのタイミングで必ず必要になる基礎スキルと基礎マインドセットを伝える場だと考えています。
私自身が新卒育成に関わって3年、社会人として約7年の経験を積む中で、活躍している人が実際にしていることが見えてきました。それを頭と体で理解してもらうことを重視しました。
入社1年目や2年目に、どこかのタイミングで「これ研修でやったな」という場面に出くわしたとき、「メンターや村上が言っていたのはこういう意味だったのか」と研修での学びを思い出し、理解を深めてもらえるような布石を、この3週間でひたすら置いたというイメージです。
──この研修をやり切った新卒の皆さんは、「どんな業務も乗り越えられる」という感覚、自信を持ったのではないでしょうか。
今回の研修に真摯に取り組んでくれた彼らなら、きっとどこへ行っても通用するマインドセットをやがて身につけられると確信しています。
ハードスキルとソフトスキル、適応課題と技術課題という分類がありますが、技術課題に対応するためのハードスキルは、仕事をする上で後天的に身につけざるを得ないものです。今後のAIの進展によって私たちが身につけるスキルも大きく変わるだろうし、何度も学び直しが求められるので、それらは必要に迫られて学習すると思います。
一方で、適応課題に対応するためのソフトスキルは、きっかけがなければ身につけようとする意識は芽生えにくいし、後になればなるほど変えることが難しくなります。だからこそ、DeNAの先輩たちが苦しみながら身につけていったマインドセットの伏線を入社直後に置いていこうと考えました。一人でも多くの人に早く伏線に気づいてほしいと思っています。
──振り返ったときに、「あれはギフトだったんだ」と思う瞬間があるかもしれませんね。
そう思ってもらえる日を、心待ちにしています(笑)。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:さとうともこ 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美
撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア 共用エリア/会議室
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