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横浜DeNAベイスターズ、型破りな観戦体験で満員御礼!25年シーズンは「チームの勝利」に貢献するマーケ戦略!?

2025.02.21

2024年シーズン、横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)はSMBC日本シリーズで日本一に輝くとともに、ビジネス面でも過去最高の売上と観客動員数を記録しました。

その躍進を支えたのは、コロナ禍から観客動員数をV字回復させた型破りなイベント企画の数々と、データを駆使したマーケティング戦略の最適化。「非常識を常識に変える」革新的なアプローチが、熱狂を生み出しました。

これらの成功で見えたのは、チーム勝利への貢献です。2025年シーズンは「勝利に導くマーケティング」へとシフト。リーグ優勝したうえでの日本一を目指し、新たな挑戦が始まりました。そして、既に春キャンプから新しいマーケティング施策が走っています。

「良質な非常識」を生み出す風土と今後のビジネス展望について、横浜DeNAベイスターズ取締役 林 裕幸に聞きました。

※2025年横浜DeNAベイスターズ春季キャンプは、2月1日(土)~2月24日(月)にかけて実施中

▲ 横浜DeNAベイスターズ 取締役 林 裕幸(はやし ひろゆき)
2013年株式会社横浜DeNAベイスターズに入社。2015年からグッズに関する戦略策定、販売業務を統括。2017年より経営・IT戦略部部長に就任、2020年から現職でビジネス全般を統括。事業計画策定、球場改修計画「コミュニティボールパーク化構想」策定や球場外拠点「THE BAYS」などの新規事業推進、マーケティング・顧客戦略策定、などを担当。

日本一で見えた、勝利に貢献するマーケティング

ーー今年のマーケティングは、これまでと一味違うとお伺いしました。

そうなんです。これまでは、ベイスターズが勝っても負けても、横浜スタジアムでの観戦体験を楽しんでもらうことにフォーカスしていました。

会社の組織は大きく、チーム運営、ビジネス、コーポレートの部門で分かれます。その中で我々ビジネスの使命は、斬新なイベントなどで注目を集めて横浜スタジアムを満員にすることで、収益を上げてチームや選手の環境に投資することだと思っていたんです。

逆に言うと、勝ち負けはコントロールできないという前提で、勝っても負けても横浜スタジアムでの観戦体験を楽しんでもらうことにフォーカスしていました。

でも、この10年でベイスターズはクライマックスシリーズに6回進出までになり、目指すべきはもっと上にあると考えるようになりました。売上や観客動員を達成できていて、ベイスターズも弱くはない。であるならば、我々が目指すべきことは何かと自問自答したのが、2024年シーズンでした。

ーー2024年シーズンに意識変化があったのは、ベイスターズが日本一になったことがきっかけでしょうか?

そうです。2024年シーズンの終盤から、優勝を信じてできることをやってみようと、全部署が取り組みました。リーグ3位からの日本シリーズ進出、日本シリーズでの2連敗後の4連勝で、会社全体のマインドが変わりました。各部署の取り組みが勝利にどれだけ影響を与えたかは測れませんが、「これを1年間継続できたらどんなことが起こるだろう」と、期待感が高まったのは確かです。

2025年は、「優勝に全振り」を合言葉に全社をあげてチームの勝利を掴み取るシーズンになります。ビジネス面でも「勝ちと価値の共創」をテーマに掲げ、お客さまを楽しませる球団であることは変わらず、デライトを届けた結果として観客動員数や売上を得ることも達成したうえで、チームを勝たせることを目指す1年がスタートしました。

ーーそのための要素を教えてください。

横浜スタジアムでの声援量や応援には、チャンスを盛り上げたりピンチを支えたりする力があります。そして、応援ムードは我々がつくっていけるものだと思っています。

例えば、初めて横浜スタジアムへ足を運んでくださった方々が声を出しやすいようにする、負けていても声を出せるキッカケをつくる、試合開始前から観客の心に火をつけていく、などの仕掛けを検討しています。

また、平日の場合は満員試合でも席が埋まるのは4回以降であるのが現状ですが、相手チームにプレッシャーをかけるために、ファンの方に早く足を運んでもらえるような企画も考えています。

自分たちは勝敗以外の部分で楽しませようと思っていた状態と比べて、自分たちは勝ちに貢献できると思っている状態では、企画を考えるフィールドが断然広がります。実際に横浜スタジアムへ足を運んでいただいたら、昨年との変化を感じてもらえると思います。

ーー例えばどのような企画を考えていますか。

2022年にホーム17連勝を記録した際は、ホームでは負けないという一体感が選手とファンに生まれていたと思います。2025年シーズンもそのような雰囲気を醸成したいと考えています。

例えば、6回裏終了時に実施している「MAKE SOME NOISE(メイクサムノイズ)」を、試合開始前からおこない声出しのウォーミングアップをするとか。また、応援歌の歌詞がわからない方のために、今シーズンから導入するハマスタ観戦アプリ「BAYSTARS STAR GUIDE」に歌詞を表示するなど、小さな工夫も凝らす予定です。

ほかにも、SNSでは若者の共感を呼ぶようなタテ型ショートドラマの制作を検討しています。野球と恋を絡めたストーリーなど、実際の試合結果と連動させてシーズン中に配信することで、これまで野球に触れてこなかった層にもベイスターズのファンになるキッカケをつくりたいと考えています。

キャンプから全社一丸、勝利を目指す2025年シーズン始動

ーー早速、沖縄の春季キャンプのニュースが盛り上がっていますね。

そうですね。実は、これまではキャンプの観客動員数はあまり重要視していませんでした。しかし、日本一を目指すチームのキャンプが「これでいいのか?」という疑問を持つようになりました。

チーム強化のためには、キャンプ中から「衆人環視」の状態をつくり、多くの人に見てもらうことが選手への良いプレッシャーになるという選手からの声もあり、全社横断プロジェクトを発足させました。

さまざまな部署からの有志で構成された「キャンプ盛り上げプロジェクト」は、エンタメ性とファンサービスを充実させることで来場者数を増やし、チームがより良い環境で練習できるよう取り組んでいます。

ーー具体的にはどんな企画が行われているのですか。

今年からマスコットやチアにもキャンプに参加してもらい、足を運んでいただいたファンに向けて連日ステージをおこなっています。シーサーの絵付け体験付きチケットや、選手との交流ゾーンの設置、ボールの投げ入れ体験やサイン会なども企画しました。また、選手からの提案で、小学生以下限定のサイン会も開催します。

プロジェクト初年度は、エンタメとファンサービスに注力し、検証しながら改善を重ねていく考えです。

ーー全社横断で企画を考え、選手からも意見が出る風土は、どのように醸成されているのでしょうか。

マーケティング戦略や構想は全社にオープンにしています。キャンプなどいくつかのプロジェクトのオーナーを決める場へビジネス以外の部署の人も参加してもらったところ、いろんな人が高い熱量を持つことがわかりました。キャンプ盛り上げプロジェクトは、経歴やスキルを問わず、強い思いを持って自ら手を挙げたメンバーに任せています。

野球の未来をより良いものにしたいという思いは、どの部署のメンバーも同じです。企画を実現するためにお互いが常に意見交換できる環境があることが大きいですね。

24年シーズンは観客動員数が過去最高、集客マーケティング成功の裏側

ーー日本一に輝いた2024年を振り返ると、ビジネス面ではどんなシーズンでしたか。

売上、観客動員数ともに過去最高を記録し、ビジネス的にも非常に良いシーズンでした。
横浜DeNAベイスターズとして13年間、ファンベースを着実に築いてきたことが大きな要因です。特にこの数年で、横浜・神奈川をはじめ全国のファン数が急速に増えていると感じています。

20年シーズンから22年シーズンまではコロナの影響により、無観客試合や声出し応援の制限など大きな制約がありましたが、23年シーズンをコロナ禍からの回復の年と位置づけ、アクセル全開で取り組んできました。その結果、24年シーズンはジャンプアップして1試合あたりの最多観客動員数の記録を更新することができました。

ーーその裏で抱えていた課題はありましたか。

2024年シーズンは企画の球が尽きた状態で迎えました。というのも、2023年シーズンは1998年の優勝から25年の節目にあたり、コロナ禍からのV字回復のためにできる企画を全て投入していたからです。トレバー・バウアー選手の獲得や、コラボ企画『ポケモンボールパーク ヨコハマ』の実現など、大目玉コンテンツがあったのでなおさらでした。

そのため、24年シーズンは細かい粒度の企画をどう積み上げるかという課題を抱えていました。

ーー企画を考えるうえで参考にしていることとは。

神奈川県に住む方々のベイスターズに対する意識や、試合観戦に興味を持つ潜在層の規模と属性、ファンクラブやDeNAアカウントなどの自社システムに基づいたチケットなどの購買動向、横浜スタジアムから遠のいているファンなどをデータで追っています。

各試合の集客予測に合わせたターゲット層の選定から大小さまざまな企画も織り交ぜながら、観客動員数を最大化するマーケティングを目指してきました。

ーー例えば?

2024年シーズンは、筒香 嘉智選手の復帰が球場横浜スタジアムから遠のいている既存ファンが帰ってくるポイントになると期待し、イベントの企画に落とし込みました。一方で、以前の熱狂を知らない新規ファンには、スタジアムイベントをきっかけに推し選手を見つけてもらう企画を考えました。それぞれのアプローチによってどのくらいの人数を動員すれば満員になるのかパズルを解くように考えています。

私たちは、既存ファンだけでなく新規層を取り込む企画も重要だと考えています。SNSやメディアでの拡散力を意識しながら、話題性のあるイベントを企画し、いかに顧客層を超えて多くの人々にベイスターズの魅力を伝えられるかは、チャレンジングな部分です。

一方で、イベントの集客効果は、実際にやってみないとわかりません。分析結果とは反し想像以上の動員を呼び込むこともあります。データ分析を基盤としつつも、時には大胆な決断が必要ですね。

次々と湧き出すアイデア、非常識が昇華する仕組み

ーー日頃から型破りな企画で話題を集めていましたが、23年シーズンの牧選手の影武者企画『牧、集合』は特にインパクトがありました。

文字通りダジャレで、牧 秀悟(まき・しゅうご)にちなんで「牧、集合」と銘打ち、牧選手のそっくりさんを影武者として募集しました。子どもから大人まで17人が集まり、画としてインパクトが強く、事前の情報発信でメディアにも取り上げられ、顧客層を超えて認知が広がったのは大きな成果でした。

素晴らしいことに、その日、牧選手が4打数4安打の大活躍をし、ヒーローインタビューを受ける可能性がありました。そこで、スタンドの一角で応援していた影武者たちを急遽グラウンドに呼び寄せヒーローインタビューに同席していただきました。この現場での柔軟な対応もあって、スポーツニュースでも大きく取り上げられ、「ベイスターズは面白いことをやっている」という認知がさらに広まったのではないでしょうか。全てが噛み合った企画でしたね。

ーー夏恒例の「YOKOHAMA STAR☆NIGHT(以下スターナイト)」で、24年に登場した漢字ユニフォームも斬新でした。

スターナイトは、2012年の球団創設当初から夏の一大イベントとして全社的に大事にしています。毎年スターナイトにちなみ限定ユニフォームを配布していますが、配布ユニフォームの斬新さで話題を作るチャレンジを積み重ねていくと、年々高いハードルを越えなければなりません。その中で、漢字ユニフォームは、選手を強くカッコよく見せたいという考えから、エンタメチームからの発案で生まれました。

面白いことが起こる状態にするために、構想の段階から全社横断で取り組み、企画を募集しています。全社一丸となって特別なことにチャレンジする文化が受け継がれていて、先ほどの「牧、集合」企画も、実はクリエイティブチームからの発案なんですよ。

ーー良いアイデアを量産する秘訣は?

昨年は「知る」ことを大きなテーマにし、“インプット”に重きをおきました。野球以外のイベントも含めて、いろんなエンタメに触れるための投資は惜しみません。短期的な効果を求めるのでなく、自分たちの視野を広げてインプットしていくことで、必ず何かしらのアウトプットにつながると考えています。

もう一つ重要なのは、心理的安全性の確保です。私たちは、「こんなアイデアはダメかも」と発言をためらうような環境では、創造的な企画は生まれないと考えています。どんな意見も受け入れ、自由にアイデアを出し合える環境をとても大事にしています。そんな風土があるからこそ、協力会社さんからも「ベイスターズとなら、こんな企画が叶うかも」と、企画を持ち込んでいただくこともあります。

ーーそうやって集まったアイデアの種を、企画にするまでの仕組みや特徴的なことはありますか。

「創発」を意識しています。アイデアAかBのどちらが面白いかではなく、AとBの良いところを組み合わせてCに昇華させ、より面白いものにするようにしています。1つのアイデアの種に対して、こうしたらもっと面白くなるんじゃないかというコミュニケーションがいろんなところで定着していますね。

ーー最後に、将来像として世界一のスポーツ集団を目指すプロセスをお聞かせください。

コロナで我々の存在価値が問われ、ありたい姿を話し合った時、「100年先に野球をつなぐ」というビジョンを掲げました。そのためには、他者に乗っかるのではなく、自分たちの手で野球という競技自体を盛り上げていく必要があります。チームとしてもビジネスとしても、名実ともに日本一そして世界一を目指して、発言力のある存在になろうと決めました。

「20年後に世界一」という目標を立て、その第一歩として2025年シーズンに日本一を目指しています。昨年、日本シリーズに勝利して日本一を達成したことで、世界一への道筋がより明確になりました。2025年シーズン、ベイスターズはチーム運営、ビジネス、コーポレート全てが一丸となって勝ちにいきます。

※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

執筆:さとう ともこ 編集:難波 静香 撮影:小堀 将生

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