リアル x オンラインで参加者を繋ぐ。DeNA TechCon 2024の初ハイブリッド開催への挑戦
2024.05.24
「DeNAはAIにオールインします」
2025年2月5日に開催したイベント「DeNA × AI Day || DeNA TechCon 2025」のオープニングでDeNA代表取締役会長 南場 智子(なんば ともこ)はそう高らかに謳い、「1999年に創業したDeNAの第2の創業、チャプター2が始まる」と表明しました。
日々目まぐるしく発展するAIと、DeNAはどう向き合っていくのか。
そしてAIが導く未来に対し「やはり起点は人間である」と語った真意とは。
南場の講演内容をノーカットでお届けします!
※……本講演の動画はこちら【DeNA × AI Day‖DeNA TechCon 2025】Opening Keynote
目次
皆さんこんにちは。ご視聴ありがとうございます。まず私からは、「DeNAがAIとどう向き合っていくのか」についてお話したいと思います。
まず、経営者としてAIをどう見るかなんですけれども、現実、確かなものとして、劇的な経営の効率化があります。いろんな会社が「こうやって生産性をアップした」ということを報道されたり自ら発信もしています。
カスタマーサポート、それからソフトウェアエンジニアリング、マーケティングに加えて、これからはHRや法務、経営企画、経理といったところまで、このAIのインパクト、生産性の劇的な向上のインパクトが行き渡ってくると思います。
皆さんの仕事ももうずいぶんと楽になったり、早くなったり、期間が短くなったりしているのではないでしょうか。私のような経営者も、実はAIの力ですごく楽になっています。私の仕事の特徴は、現場で「ガルル…!」と何かつくりあげるというよりも、ミーティングがやたら多いということ、あと毎週初めての人に会うんですね。また、私自身がギリギリ直前に準備をするという癖があります。
(スクリーンに映っている)この背景が、実は私のGoogleカレンダーの先週かな先々週のスケジュールなんです。AIでどんなふうに楽になったかというと、まず初めて会う人の情報は「Perplexity」で「その方についての必読記事はなんですか」と聞いて、そのURLをすべて「NotebookLM」にアップします。その人がYouTubeでも発信している場合は、最近のものは全部URLをコピーして「NotebookLM」に入れます。Xで発信している場合はテキストで入れることもあります。
そうすると、すぐにその方の最近の考え方とか、どんな活躍をしているかがまとめられ、効率的に分かります。打ち合わせに行くタクシーの中で「NotebookLM」とチャットをしながら「この方はトランプ政権については何か言っていますか」とか、「スタートアップエコシステムについてはどうでしょうか」と聞くと、「この人はこれについてこんな考えを持っているよ」と答えてくれるので、ピンポイントでもいい情報が集まります。
かつ、ミーティングに臨むときに「『Circleback』をオンにしていいですか」と言える相手には許可を取って、そしてミーティングが終わるとすぐに議事録がある状態にしています。これは皆さんもやっていると思いますが、ToDoリストも出てくるので仕事の効率が大幅にアップするんですけれども、同時に質も向上していると思います。投資の判断のときは、「Deep Research」でガツガツ情報を集めてミーティングに臨むということもやっています。
こんなふうに自分自身もすごく楽になって感動しているんですけれども、基本的にはAIのパワーはホワイトカラーすべてにとって、生産性そして仕事の質が上がっていくものだと思います。特にAIエージェントが実用化されると、劇的に変わっていくことでしょう。
さて、「10人でユニコーン企業の立ち上げは現実的か」について、これは現実的な話です。西海岸のとあるスタートアップのCEOは、朝起きるとToDoリストから一つずつToDoを(自律型AIソフトウェアエンジニアの)「Devin」にアサインして、途中で軌道修正なんかをして完成し、ずいぶん楽になったという話があります。この方の会社はソフトウェアをつくっている企業なのですが、7人で3000億円のバリュエーションをつける堂々たるユニコーンに成長しています。
種明かしをすると、この方はスコット・ウーで、コグニションAI、すなわち「Devin」をつくっている会社のCEOです。当然「Devin」使いはうまいだろうなということなのですが、実際に西海岸に行ってさまざまな起業家の話を聞くと、少しのエンジニアリングバックグラウンドがあれば(AIエディタの)「Cursor」などを用いてだいぶプロダクトづくりができているそうです。一般論ですが、採用人数も減っているそうです。また、ベンチャーキャピタルに話を聞いても、最近は資金調達のアーリーステージのロットも小さくなっているそうですし、調達した資金のランウェイが伸びているという話も聞きます。
1人で10人分の仕事ができる時代になっているということで、私もすごく感動しています。懸念は日米のギャップなんですよね。西海岸と東京を行ったり来たりしていると、どうしてもギャップを感じてしまうんです。西海岸では本当に息をするように学生もスタートアップもそしてベンチャーキャピタルも、AIのツールを使いこなしています。かつ、週単位でアップデートされるファンデーションモデルについての情報交換、あるいは新しいツールに関する情報交換など、すさまじい喧噪です。そして公表されていない未来をも読もうとしています。
たとえば、私の友人は、「聞け智子、今度NVIDIAの35歳を採用するんだ」と話します。これはNVIDIAがどのような未来を描いているのかを、35歳の中核人材を雇うことによって、人よりも早く知りたいということなんですよね。実際に人材の流動とともに、情報が流通しています。「ナレッジスピルオーバー」なんていう言葉を使いますけれども、そんなことも実際に起きていて、スタートアップだけじゃなく、ビジネスマンでAIの可能性に興奮していない人はいないという状況です。もちろん日本でもそういう人はいますが、割合が少なくてちょっと危機感を覚えますね。特に大企業の経営者の集まりでは、割合が少ないと感じています。そして、AIの話題が上るときは、どちらかというとリスクの話が多いと感じています。
日本の経営者も「AIをちゃんと勉強しなきゃ」「生産性アップに使わなきゃ」ということで、現場に「これを用いてどう生産性を劇的に改善できるか提案して」なんていうことを言っているようではあります。しかし、私は現場からの改革に関して、こと本件に関しては少し限界があると思っています。
やはり劇的な生産性の向上というのは、AIを中心に業務を組み替えることが必要になります。これ結構大ごとです。そして場合によっては人員の削減につながることもあるし、人材の入れ替えを必要とすることも出てきます。また短期的にはコストが上がることもあります。基本的には痛みを伴う改革で、ドラスティックな改革なんです。
これはやはりトップが引っ張らなきゃいけないのではないでしょうか。しかも「これが大事だからやってね」というのではなく、自らがツールを使い倒して、この可能性に感激して、興奮して、そしてその興奮を改革のエネルギーに変えて全社を引っ張っていくということが必要になると思っています。
ですから、経営者自身が興奮しているかどうかが非常に重要なポイントであると思います。ただ、私は日本の心配をする立場ではありませんので、まずDeNAが今後何をするのかについてお話ししたいと思います。
DeNAはAIにオールインします。経営のAIシフト、まず徹底的に生成AIを用いて生産性の向上に取り組みます。現在の事業は約3000人で運営しています。これを非常にモデストな目標ですけれども、半分、半分で現状維持ではなく、半分の人員で現業を成長させていきます。
そしてその残りの半分で何をするかというと、新規事業をやっていきます。一つの新規事業ではなく、10人1組でユニコーンを量産するというようなイメージで、クレイジーに攻めていきたいと思います。
領域はやはりAIです。(背景の図は)生成AIの産業構造です。一番下がチップで、その上がコンピューティングインフラストラクチャ、そして真ん中にファンデーションモデル、そしてその上に開発ツール、一番上がアプリケーションレイヤーです。私たちはこのアプリケーションレイヤーを狙っていきます。
アプリケーションよりも下のレイヤーは、おそらくファンデーションモデルを中心とした競争が繰り広げられると思います。その結果として、コモディティ化する可能性もあります。
今、兆円単位の投資をして、ファンデーションモデルの開発をしているプレイヤーを中心に縦統合が出てきています。その人たちがアプリケーションレイヤーを攻めてこないかというと、そんなことはないです。おそらく非常に汎用性の高い、すぐに収益化するアプリケーションに関しては、この縦統合の巨人たちも参入してくるでしょう。
しかし、彼らがすべてのニーズを満たすすべてのアプリケーションを展開するということはないと思います。彼らにとっても、エコシステムの繁栄が戦略的に重要になってくるはずです。そして、このアプリケーションレイヤーの最大の強みは、エンドユーザーに直接触れる、エンドユーザーのユースケースやニーズを直接受け止められる唯一のレイヤーということです。
ニーズを直接受け止めて、そしてそれを付加価値に変えていけるというのがこのアプリケーションレイヤーの強みです。AIを用いた世界の改革というのはこれから長く続きます。その続く変化にきめ細かく寄り添いながら、どんどん付加価値を追求していくことができるこのレイヤーでは、数多くの強いニーズに基づくビジネスチャンスが現れてくると思います。そのレイヤーをDeNAは狙って集中して攻めていきたいと思います。
まずB向けは、バーティカルAIエージェントにフォーカスしていきます。半年前までは「何十兆円と生成AIに投資されたのに売上が全然見えてこない」なんて話がされていたんですが、最近は売上が見えてきました。
特にエンタープライズ向け、B向けの事業で少しずつ売上が立ち始めています。Y Combinatorの最新のバッチも8割がAIなんですけれども、そのうちの7割はエンタープライズ向けのプロジェクトになっています。その中でも、AIエージェントのプロジェクトというのは結構出始めています。
ここ(背景の図)に出ているのはY-ComのAIエージェントのプロジェクトです。マーケティングやリーガル、オペレーションプロダクティビティ、セキュリティと機能別に整理していますが、「機能×業界」あるいは「機能×業務」という本当にたくさんのきめ細かなニーズが発生しています。そこをDeNAは攻めていきたい。
特にDeNAが強いスポーツ、それからスポーツの運営施設、そしてヘルスケアとかメディカルは当社の業務知識の強みがあります。そして事業運営の中で培ったアセットがあります。従ってそれらを活用して、まずそれらに近い領域からバーティカルAIエージェントビジネスを立ち上げていこうと思います。遠い領域に関しては、他社さんのつくったものをM&Aして、それを成長させることを考えています。
ではC向けがどうかというと、AIエージェントもおもしろいと思いますが、私たちはここに関しては、没入感というか、エンタメそしてコミュニティや孤独の解消であるとか、あるいはゲームとか、そういったところを攻めてみたいなと思います。こういう領域に関してはアメリカの西海岸だけを見ていても駄目で、中国(の事例)がおもしろいですね。今、一生懸命勉強していますけれども、我々独自の発想でおもしろいサービスを展開できるんじゃないかと思っています。
さて、たくさんの新規事業を立ち上げようと、10人1組でユニコーンを狙うという話をしましたが、我が社の中だけでやるつもりはまったくありません。
デライト・ベンチャーズやその他のVCと連携して、まずM&Aを活発化したいと思います。もう目を皿のようにして、AIのスタートアップを探していきます。そして、「ここいけそうだな」と思うところをどんどんM&Aしていきたいと思います。
そして全部をDeNAの中で抱え込むのではなく、独立も支援したいです。中で0→1で立ち上がった事業、あるいは我が社が1→10をサポートした事業、10→100を成し遂げた事業も、本人たちがIPOしたいなど、希望するならどんどん独立してもらい、それを絶賛支援します。
我々は今までも、たとえばタクシーアプリの「GO」ですとか、AIのALGO ARTIS社とか、当社の中で0→1をやって、しかし、外に出した方が成長する事業は独立してもらっています。株主としては残ってはいますけれども、IPOを狙って頑張る、そういうメカニズム、スタートアップのエコシステムを活用して事業を活性化させるということ、囲い込まないという考え方で運営をしています。「Delightを最大化する場所に置きに行く」ということです。
さて、私たちが経営のAIシフト、すなわち効率アップとそして新規事業の量産という話をしましたが、この変化の本質についてちょっと考えてみたいと思います。
経営のAIシフトに関して言うと、実は2021年に当社が完成完了した、オンプレミスからクラウドへの全シフトに重なるところが大きいのです。
21年のクラウドシフトは「ちょっと遅いかな」と感じる方もいるかもしれませんが、実際我々は一番最初にクラウドに飛びついてはいません。なぜかというと、私たちの巨大なオンプレのシステムは超腕利きのインフラのエンジニアが、もうカリッカリにチューニングをして、クラウドの半分のコストで運営していました。
しかも本当に巨大なシステムで、今ですと1日120億ぐらいのリクエストがありますが、当時でも50億以上のリクエストがありました。かつリアルタイム性が重要なゲームからセキュリティ命のヘルスケアまで、本当に多岐にわたる300くらいのシステムがありまして。それらをインフラ起因の障害ゼロで、しかもさっき言ったようにコスト半分で運営していたので、クラウドシフトは本当に覚悟がいる決断でした。
持ち前の技術力で工夫をして、クラウドを使い倒して、コストも含め、QCD(Quality、Cost、Delivery)は合格点となりました。そのQCD以上に私がこのシフトの本質だと思っているのは、エンジニアの人たちが、創造的な仕事にフォーカスできるようになったということです。
特にインフラエンジニア、やはり何かあったらデータセンターに駆けつけるとか、ラッキングだとか配線だとかサーバーのお守りでたいへんだったんですね。それらから解放され、創造的な仕事、経営にとって重要な仕事にフォーカスすることができるようになった。これが最大の収穫でした。
クラウドシフトはエンジニアだけだったんですけれども、今度のAIシフトは全社員に関係することです。全社員が指示通りにやる仕事からどんどん解放されて、創造的な仕事にフォーカスすることができる。それがAIシフトの一番の本質だと思っています。
事業に関しては、見えている未来と現状のギャップですね。見えている未来というと、数年後、全産業にAIエージェントが行き渡るのは確かな未来です。たとえば小売業、その中のたとえば薬局の5年後10年後は、AIエージェントのパワーを必ず活用しているでしょう。
ところが今AIエージェントの力を活用している薬局はありますかというと、まだほとんどないという状態です。全普及がほぼほぼ未来として確定されているのに、今ほとんどないというこのギャップ、これはいつかの何かに似ていないでしょうか?
そうです。1990年代後半のインターネットです。
この時代、1999年にDeNAは誕生しました。そして、最初からうまくいったわけではありません、いろいろすったもんだがありましたけれども、確かな未来があるんだとこの波に飛び込んだことによって、DeNAはここまで成長することができました。
それと同じことを、AIについてもやろうと思っています。これは大げさではなく、第2の創業、チャプター2が始まるということです。そしてこのチャプター2の扉を開けるにあたって、忘れてはいけないことがあると思います。
コンピュータがどんどん人間に近づいてくる中で、本当の人間の営みに対する渇望というのはどんどん高まってくるだろうと思います。たとえばスポーツはその典型ですね。やはり人間らしさ、そして人々の感動というものに対するセンシティビティは、この時代ますます重要になっていくと思います。このことを忘れずに、第2の創業をやっていかなければいけないというふうに思っています。
もう一つ、これはまだ考察中なんですが人材について、必要な人材のイメージも変わってくると思います。今、西海岸で、エンジニアは不要になるのか、ならないのか、侃々諤々の議論がされているんですけれども、私はそれはノーだと思います。100年後はちょっともう全然違う世界かもしれませんが、見える未来に関してはエンジニアに対する需要は高まると思います。
しかも、すべての産業あるいは個人の生活をAIでアップデートしていくというビジネスオポチュニティ、このおいしい時代に、このビジネスオポチュニティを取り込んで実現するためにはAIの専門家が必要なわけですし、専門家だけじゃなくて、AISavvyとかAIフレンドリーって書きましたけれども、「AIを用いて何かつくってやるぞ」という気持ちのあるエンジニアに対する需要は、高まる一方だと思います。そしてすべてのプロダクトは、AI×業界知識でできていきます。ですから業界に関する専門知識ですとか業務に関する知識、あるいはデータそして顧客基盤へのアクセスを有する人材への需要というのも当然高まっていきます。
そしてAIが指示通りに動いてくれるという未来にも、やはり起点は人間であると思います。物事を起こす意思を持っているということ、夢中になる力、欲求を持つ、欲望を持つ、こういうことがどんどん重要になるんじゃないでしょうか。仕事がどんどん濃くなりますから。薄い仕事は全部コンピュータ任せとなるので、私はこういった意志、「起点力」というものがすごく重要になると思います。
一方で日本の教育を考えると、正解を言い当てる、あるいは一律な環境で一律な内容を学習していくという現状の教育システムがまだ変わっていないので、AI時代に求められる教育に大胆に変えていく必要があるなと思っています。
さて、今はおいしいタイミングだと言いましたが、皆さんへの意味合いはどうでしょう。AIの波というゲームは78兆円投資をする人だけが主役なのではありません。78兆円投資をする人も、これを「皆さんごと」にするために投資をするのだと思います。
日米のギャップは大きいといいましたけれども、今は(図で示した)この位置です。日本も世界もここです。この横軸は、オープンAIのAGIに至る5つのステップ、そしてその先はASI。また、インフォメーショナルAIに加えて、最近はフィジカルAIも現実の可能性として議論されています。
事業機会は幾何級数的に拡大していきます。その中で今入口のここにいるということです。今この波を捉えて入っていこうじゃありませんか。私は大小に関わらず一般の企業すべて、そして一般の個人すべてにこの主役の可能性があると思います。
要は、波をつかむかどうかだと思っています。私個人もですね、実は最近、日本の女性の平均健康寿命はどれくらいかなんて調べちゃって、「あと10数年じゃないか」と。「どうしよう10数年で何ができるんだろう」と焦ったこともありましたけれども、AIエージェントを使い倒して、10倍、あるいはそれ以上ですね、仕事ができる可能性が現実のものとして感じられています。ということは、100年分の仕事ができるぞと思って張り切っています。ご清聴ありがとうございました。
本講演の動画はこちらでご覧いただけます。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生
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