DeNAの新しい事業やサービスの創出において、欠かすことのできない法務の存在。法的論点やリスクをコントロールして会社と従業員を守ることはもちろんですが、DeNAの法務のミッションはそれだけにとどまりません。
法的検討の起点はいつも、どうすればできるか。
よいものを法を活かして送り出すことで、よりよく社会に貢献していく。専門知識で事業部を支え、新しい事業の仕組みづくりに関わりながら、エンタメと社会課題解決で業界のスタンダードとなる仕組みづくりも実現してきました。
DeNAの法務を体現する平岡 孝司(ひらおか こうじ)に、これまでの歩みを振り返ってもらい、その内実とDeNAの法務ならではのおもしろさ、やりがいについて聞きました。
法を活用して一緒に事業をつくる
──早速ですが、DeNA法務部の業務内容からお聞かせください。
DeNAの事業はゲーム、ライブストリーミング、ヘルスケア・メディカル、スポーツなど多岐にわたりますが、各事業で1からサービスをつくる、あるいはすでにあるサービスの機能を拡充していくときなどに、法的な課題や将来的なリスクを分析して、その結果に対してどう対応すればいいかを事業部と相談しながら事業を一緒に組み立てていくことが主な業務です。
もちろんそればかりではなく、契約書の作成、修正などの地道な業務もあります。DeNAはパートナーが多い会社なので、契約の件数も膨大です。
──平岡さんご自身は、DeNAでどのようなキャリアを歩んでこられたのですか。
2015年に入社してからこれまで、ゲーム事業、ヘルスケア事業、ライブストリーミング事業等幅広い事業に法務担当として携わってきました。事業部と一体となって新規事業・サービスを立ち上げた経験も多く、アイデアベースのときから事業部とタッグを組んで、リリースからその後の安定運用まで対応していくということを迅速かつ大量に行ってきました。2020年からはグループマネージャー、現在は部長として法務部のマネジメントに取り組んでいます。
──入社当時は、DeNAがゲームに匹敵する新しい事業の柱をつくろうとしている時期だったと思いますが、それは入社の動機にもなりましたか?
そうですね。前職でスマートフォン向けアプリの開発をする企業で法務をしていたので、その領域で幅を広げていきたいと考えていました。面接でソーシャルゲームが好きだと伝えると、当時の法務部長(現法務コーポレート本部 本部長)から新規事業の拡大に注力していることや、そのため業務量が多いこともオープンに伝えていただき、その上で「成長は約束します」と言っていただいたことが強く印象に残っています。いろいろなことに挑戦できる機会があり、苦労もあるだろうけれど成長できるイメージが湧きました。
──法を活用して新しい事業の仕組みをつくるところで、印象に残っている仕事はありますか?
現在のヘルスケア事業の柱となっている健康・医療情報のビッグデータを医療の発展に活かす事業と仕組みづくりに法務として関わり、新しい事業創出の根幹部分にしっかりコミットできたことが印象に残っています。
──法務として、どのように関わってこられたのか詳しく教えてください。
個人情報保護法が改正されて匿名加工情報制度ができたタイミングで、保健事業で取り扱われる健康診断情報やレセプトデータ等の膨大なデータを、医療・健康増進の発展に活かせないかという検討をしていました。当然個人情報のまま利用するのでは法的観点・プライバシー保護の観点から問題が生じるため、ちょうど創設された匿名加工情報制度を活用して事業を進められないかと事業部と相談を開始しました。当時は行うべき加工の基準等が明確に存在しなかった状況で、特定の個人を識別できないことと、加工後の情報にデータとしての価値を残すこととを両立させるにはどのような加工基準にするのが適切か、事業部とひざ詰めで検討しました。
機微な情報を取り扱う事業ですので、加工基準だけではなく、匿名加工情報の加工や利用を行うセキュリティ環境の精査等、漏洩防止をはじめとする情報セキュリティ対策にも関わりました。とても大変でしたが、プロジェクトメンバーと共に一緒にプロダクトをつくるところに携われたことがとても楽しかったし、役に立てたことが嬉しかったです。事業部のチームの一員として社長賞もいただき励みになりました。
──事業部で新しいことをやろうとするとき、どの段階から法務が入っていくのですか?
担当者のアイデアの段階で法務に声がけをいただいて、この企画にはこういう法的な課題があるかもしれない、というところから相談しながら詰めていきます。企画が固まってから変更するのは結構大変ですが、最初の段階で相談できれば方向転換も比較的容易にできるので、なるべく早く相談してもらえるように事業部とコミュニケーションを取っています。
また、話したことのない法務担当に相談するのもやりにくいだろうと思うので、できる限り口頭でコミュニケーションをとることも心がけています。動きや課題の多い取組みは定例会を設定したり、ZoomやSlackなども使用して、オンオフ環境問わずさまざまな手段で情報収集をしています。事業部にとって、常に相談しやすい存在でありたいと思っています。
法務はチーム。専門性の補完とシナジーで事業を推進
──各事業で法を活用して事業検討していった過程で、法務が主体的に検討した仕様がDeNA発で業界のスタンダードになっているということもあるそうですね。法務が事業の仕組みづくりから関わるのは一般的なのでしょうか。
特殊だと思います。法的な課題やリスクがあるときに別の手法を模索することは法務の重要な仕事ですが、その過程で新しい仕組みが生まれることがあります。「これはできない」で片づけてしまうと、どんなにいい企画でもそこで全てが終わってしまうので、他の手法を一緒に考えていくことは常に心がけています。
──多様な事業を展開するDeNAだからこそ得られる知見や仕事のやり方がありそうですね。
あると思います。たとえばゲームとヘルスケアとは、一見全く別の法律知識が必要に見え、実際そういった部分もありますが、根底の部分ではつながっていたり、別の事業で得た知識・経験があったから対応できたということも多々あります。どの事業分野においても、法の背景を知ったり、その行間にあるものを抽出していくことは必要で、新しいことにチャレンジする機会の多いDeNAはその経験が豊富です。私もそういったノウハウを上司や先輩から学んできました。
──平岡さんはどんなことを考えて、法務の仕事に臨んでこられたのでしょうか。
事業を推進させることが第一です。これは、私個人に限らず、DeNAの法務担当が共通して持っている意識だと思います。
事が起こってからでは遅いので、常に備えておく。普段から法律の知識を勉強しておくことが必要ですが、事業の展開を見据えるとこの法知識が必要になるのではということや、ここでリスクが発生したら何が起きるのかをシミュレーションしておくなど、今見えているものの先の領域まで広げて考えていくということを大事にしています。
というのも、全く知らない分野にアサインされることが入社直後はたくさんあったので、そこでの学びや反省を踏まえてのことです。今日、新しい事業の検討がスタートしたり、紛争やトラブルが発生して即時に対応しなければいけない状況になったりした場合に、その時から勉強し始めても間に合わないので常に備えておくことは大事かなと。幅を持ったものごとへの接し方を心がけています。
──学び続けることが大事だと。
はい。ただ、普段からちゃんとやっているみたいに言いましたが、実際に何か起きたときは自分一人でゴリゴリ解決するよりも、周囲のメンバーを頼りながら解決することも多いです(笑)。
上司に相談して教えてもらったり、メンバーが集めてくれた情報から解決の糸口が見つかったり。チームに支えられながら仕事ができる価値を実感しているので、メンバーにもそう感じられる環境であるようにしたいと考えて動くようにしています。
──マネージャーとしてメンバーを見る立場としても、平岡さんなりの視点がありそうですね。
基本的にメンバーに任せているものも多くありますが、任せているなりにその案件が今どういう状況にあるのかは見ています。検討結果の報告を受けたときは、その理由を聞いて、そんなところまで考えているんだと感心することも多いです。逆にちょっと足りないときは、足りないところへのアプローチの仕方を伝えたり、お互いに補い合いながら仕事をしています。
じつは、入社後に実務未経験のメンバーが入社してきたタイミングで教育担当をさせてもらった経験が私の中では大きくて。そのメンバーがどんどん成長し、逆に自分が助けられるという経験が自然にできたので、そこでチームで仕事をすることの大事さを実感しました。そういう環境にいられたことが、今のマネジメントスタイルにつながっていると思います。
──平岡さんはメンバーを成長させようという意欲があって、コロナ以降のリモートワークでも意識的に人をつないでこられたというふうに聞いています。
メンバーとの意思疎通は、法務部として事業部への回答がブレないようにする意味もありますが、やはり1人でやるよりも2人以上でやる方がクオリティが高いものができ上がると思います。優秀な個人が常に均質なものを提供するよりも、相乗効果でよりいいものができたらおもしろいと思うので。
──組織としてのアウトプットを高くするマネジメントスタイルが窺われますが、2023年10月に部長に昇進されたとのこと。せっかくなので、どういう組織にしたいかお聞かせいただけますか。
前述の延長にはなりますが、事業部から信頼され、一緒に事業推進することを継続していきたいと考えています。そのためには、法的な専門性の観点から会社としてやるべきこと、リスク等についてしっかり情報提供して、常に事業部と一体となって事業を推進していく法務部でありたいです。
当事者意識があるから信頼もされる、これが法務の心意気
──平岡さんの事業に対する当事者意識の高さが伝わってきましたが、やはり事業を世に出したいという思いが強いのですか。
それもありますが、先ほどのヘルスケア事業の例で言うと、健康・医療のビッグデータの利活用ができたらすごく人の役に立つだろうと思いました。
そういった取組みほど事業部の熱意をひしひしと感じて、絶対に実現しなければというプレッシャーもありましたが、私が悩んでいると事業部から「こういうことはどうですか」と意見や提案が次々と上がってきて。事業部が自分たちで個人情報の法律やガイドラインを読み込んで検討している姿を見て、事業部がここまで頑張っているんだから自分も応えたいという思いはありました。
──関わった人たちから仲間として信頼されているから厳しいことも言えて、受け止めてもらえる関係性ができているのでしょうね。関係性づくりにおいて心がけていることもありますか。
法務に相談したら解決に一歩近づくような体験ができることを大事にしています。決して法的に難しいことばかりに意欲的に取り組むのではなく、たとえば、法律の関係しない相談が法務に来ることもよくありますが、そのときに「法務は関係ない」と突き返すのではなく対応部署への橋渡しをする等、「法務に声をかけてみてよかったな」と思ってもらえるような動きを心がけています。
──そうすると、DeNAの法務に求められる資質とは?
まずは勤勉であること。事業を法的な専門知識をもって推進することが役割なので、事業に活かせる知識がしっかりあってこそ頼られるポジションだと思います。法知識は、法改正や世の中の動きによって状況が変われば見方も変わることも多々あるので、常にアップデートしなければなりません。継続的に学んでいくことは難しいと思いますが、それを楽しんでできることが大事だと思います。
責任感も大事です。事業部と違う視点で事業推進にアプローチすることが求められるため、リスクの指摘や方向性を変更する指摘をしなければならない場面は当然訪れます。甘いことを言っていれば事業部には好かれるし円滑にも進むのでしょうが、会社・事業のために厳しいことを言う覚悟を持てる方の方が、DeNAの法務には向いていると思います。
もちろん、前提として本当に事業部のやりたいようにできないかを熟考に熟考を重ねて検討することは必要です。また、多様な場面に横断的に関わる法務の特性を活かして、法的観点以外のリスクに気付いて指摘したり、関連部署間のコミュニケーションのサポートをするといったことも多いです。法務は法律に関して以外には口出しすべきではないという意見もあると思いますが、自分が気づいたこと・役に立てることは当事者意識を持ってコトにあたるということがDeNAの法務らしいあり方だと思います。
──厳しさすらも楽しんでやっている印象を受けますが、法務のおもしろさとは?
新しいことはもちろん、そうではなくても、一定のルールがある中でこそできる創意工夫や出せるおもしろさを追求したサービスの方が、ルールなしで生まれるサービスよりも真にユーザーの皆さんに喜びを届けられるものになります。
DeNAは今世の中にないものをつくるということにもチャレンジしていて、そういった際には関連省庁と法解釈・運用について相談しながら実現するということもあります。どこから手を付ければと迷うところから始めることも多い仕事ですが、実現できたときには、それが人や社会のためになってユーザーの皆さんに喜んでもらえているということをダイレクトに感じられ、そこにおもしろさを感じています。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:さとう ともこ 編集:川越 ゆき 撮影:小堀 将生