使用するテクノロジーによって少数精鋭のチームを編成、新たなエンタメ事業やサービスを創出するのが、DeNAのデジタルエンターテインメント開発事業部です。
Web3開発グループもそのひとつ。若手社員を中心に、ブロックチェーン領域で新規ビジネスの種を高速に検証する、特に挑戦的なチームです。
2023年4月にはブロックチェーン領域の代表的なハッカソン「ETHGlobal Tokyo」や、6月にカナダで行われた「ETHGlobal Waterloo」でそれぞれSponsor Prizeを獲得するなど、その名を知られ始めています。
グローバルなスタートアップがひしめくWeb3界隈に、なぜDeNAは足を踏み込むのか。DeNAでブロックチェーンを活用した事業を開発する意義、強みとは?
事業開発を担う陶山 拓也(とうやま たくや)と、開発エンジニアの中島 伊吹(なかじま いぶき)に話を聞きました。
設計思想に魅かれ、Web3領域へ
──YouTuberですよね、陶山さんって。
陶山 拓也(以下、陶山):(笑)。『事業家のDNA〜事業家を目指すあなたへ〜』という新卒部のYouTubeチャンネルを手掛けていたので、そのイメージがあるかもしれません。
ただ2023年1月からはデジタルエンターテインメント開発事業部に所属、BizDev兼プロダクトマネージャーとして働いています。
「新しいテクノロジーを活用して、新たなエンターテインメント事業の柱を創出する」のが事業部のミッション。中でもブロックチェーンを専門としたビジネスインキュベーションを担当しています。
──中島さんは、Web3領域に特化したエンジニアなのでしょうか?
中島 伊吹(以下、中島):はい。システム開発部Web3開発グループで、新規事業の企画や検証、開発を手掛けています。
元々は学生の時にインターンでDeNAへ。ヘルスケア事業部と新感覚Vtuberアプリ『IRIAM』でエンジニアをしていたのですが、2022年に新卒入社後、関心のあったWeb3のエンジニアになりました。
当初はR&D(研究開発)部門でエンジニアのみのチーム。2023年に陶山さんがジョインして、事業化に踏み込む体制になった感があります。
──DeNAがこれまでWeb3にどのように関与してきたか教えてもらえますか。
陶山:R&Dの文脈では、数年前から社内エンジニアが実証実験を繰り返してきました。また昨年からは、Web3領域特化型のベンチャーキャピタルファンドへの間接投資を通した市場発展への貢献と情報収集をしてきました。
自社事業としては、横浜DeNAベイスターズの試合の名シーンを、球団公式のNFTと紐づけたデジタルムービーとしてコレクションできる『PLAYBACK9』を2021年に最初にローンチさせてから、『PICKFIVE』や『NFTコレクション』を続けて創出してきました。
そして、2023年からエンジニア組織である中島さんたちの部門で行っていたR&Dの取り組みに私も加わり、本格的に事業創出へ挑戦しようと舵を切りました。
──お二人とも、Web3には以前から興味を?
陶山:そうですね。私がまだ大学生だった2017年頃、「リップル」など新興の暗号資産が登場し、暗号資産バブルが来ていたんですね。「株より暗号資産だ!」と思い、実際に10万円ほど買いました。
すると、3ヶ月後に見事暴落しまして(笑)。
それからはブロックチェーン業界から距離をとっていたのですが、2021年頃にNFTや分散型金融の領域でまたトレンドが盛り返した。大学生の時とは異なり、単なる投機商品としてみるのではなく、ブロックチェーンの特性とそれを活用した事業のポテンシャルにも関心が湧いてきたタイミングで、Coinbaseという暗号資産取引所の元CTOのBalaji Srinivasanが書いた本『THE NETWORK STATE(ネットワーク・ステート)』に、感銘を受けたんです。
──感銘、とは?
陶山:ブロックチェーンとその関連技術によって、物理的な領土に必ずしも制限を受けることなく、共通した目的のもと集う礼節ある人々が、自律的な資本循環と合意統治が可能となることで、これまでよりも持続可能な社会的ネットワークを形成でき得るだろう、というビジョンに共感したんです。
原体験もありました。福島の田舎で育った学生の頃、狭い物理空間のコミュニティに息苦しさを感じて、ネットの掲示板に入り浸っていた時期があって。とても居心地がよく、世界がこのようになればいいと思いました。ただ、ネット上にコミュニティは生まれても、運営主が価値観やルールを一方的に決めることで抑えきれぬ反感を買ったり、大多数のユーザーが財産を搾取されてしまう構造になることで、持続困難なコミュニティになりがちでした。
そんな自分の問題意識に、単なる暗号資産の域を超えた本質がバチッとハマったんです。
──なるほど。では、中島さんがブロックチェーンに魅かれた理由は?
中島:中学時代から作曲を通してクリエイター活動をしていたのもあり、アテンションエコノミーの問題点を感じていて、その解決策としてブロックチェーンを応用する方法はないかというところから興味を持ち始めました。
そこから調べていくうちに、個人の才能や価値が資本の規模を問わず、最大限かつサステナブルに発揮できるシステムが構築できるかもしれないという期待が膨らみ、Web3の思想に魅かれました。
余談ですが、インターンで『IRIAM』にジョインしたのも、イラストレーターやライバーの方々などに近いクリエイターエコノミーのユーザー経験が活かせると考えたからでした。
──エンジニアとしては技術的にも魅力を感じるものですか?
中島:はい。クラウド技術を専攻していたので、分散自立型システムとしてのブロックチェーン技術にも強く魅かれました。Ethereumは「ワールドコンピュータ」とも呼ばれており、世界中のコンピュータをつなげて動く仕組みは、美しさを感じます。
そうした理由から、入社してからは社外で暗号資産での給与支払いのCo-Founderとしてプロダクトをつくっていたり、他のWeb3スタートアップを手伝っていました。今はDeNAにフルコミットしていますが。
──まさにそこが聞きたいところです。Web3の関連事業は思想的にもタイミング的にも、若いスタートアップ企業が切磋琢磨しています。メガベンチャーであるDeNAに身をおいて参戦するのは、デメリットが多いのでは、と思ってしまうのですが……。
陶山:結論から言うと、メリットのほうが圧倒的に多いと思います。
だからこそ、一度はWeb3系スタートアップへのチャレンジを考えたのですが、DeNAにとどまることを選んだのです。
Web3「冬の時代」こそ活きる、DeNAの底力
──DeNAでWeb3を手掛ける魅力とは?
陶山:一言で言えば、「Web3のプロダクトづくりに専念できる」ことですね。
Web3市場は、いま何度目かの「冬の時代」を迎えています。去年の11月頃に某海外取引所の資金流出の事件が起きたこと、世界的なインフレの影響もあります。
ダウントレンドの中で、Web3関連でポテンシャルも高く結果も出していたのに、事業をクローズさせたスタートアップも少なくありません。
中島:グローバルで見ても、資金温存のためにアクティブなマーケティングを控え、開発に集中するところが増えてきているように思います。
Web3領域で事業をつくることの難しさを日々感じますが、DeNAの優秀なメンバーの協力が手厚いからこそ、プロダクトづくりへ集中できているとも感じています。
──多岐な領域で売上・利益を出している強みですね。
陶山:資金力ももちろんですが、それ以上に大きいのは、経営陣やマネージャーが、明確にWeb3に対する期待を明言し、支援的でいてくれていることでしょうね。
Mobage、ゲーム事業、ライブ配信事業などの創出からも明らかなように、DeNAには、新たなプラットフォームや新しい技術が現れたとき、いち早くその領域に挑んで成果を出してきた成功体験があります。
その成功体験が文化として組織に浸透していることから、Web3へも中長期的な視点で投資をするに至っている。
──他の事業で積み上げたノウハウやナレッジが活きる面もあるのでしょうか?
陶山:ありますね。とくにこれからは大きな優位性になると感じています。
これまでWeb3はインフラレイヤーでの開発や投資が主流でしたが、グローバルで主要なプレイヤーが出揃ったことで、そのフェーズは終わりつつあると見ています。これからはむしろユーザーさんに実益をもたらす「アプリケーション」レイヤー。ブロックチェーンの特性を活かし、次の10億人にDelightを届けるゲームやソーシャルサービスをいかに生み出すか?が主題となるでしょう。
DeNAにはまさにエンターテインメント領域で培ってきた経験と実績があります。サービス設計、コミュニティ運営も含めて「いかにすればユーザーの方々に楽しんでもらえるか」の豊富なナレッジ、またデライト・ベンチャーズの持つ知見も、大いに助かっています。
──グループのVCが、どのような強みに?
陶山:デライト・ベンチャーズには「Venture Builder」という制度があって、事業の立案からPMF後の調達に至るまで、適切なプロセスに分解しながら事業の不確実性を下げる仕組みが構築されています。本業が別にある潜在起業家を対象に効率的に事業を推進できるよう工夫がなされており、DeNA社員が一人で複数の事業仮説を検証する我々の状況にもマッチする部分が多くあります。
これを参考にさせてもらい、技術的な不確実性の高さといったWeb3特有の観点を加味して、プロセスをさらにアップデートしています。その他にも、相談にいけば、執行役員や事業部長をはじめ、DeNA社内にある新規プロダクトの立ち上げの勘所や落とし穴に関する暗黙知をシェアしてもらうなど、本当に手助けをいただいている。プロダクトを世にリリースするに値するのかといった評価をシビアにしてもらえるのも、単に資金力のある大きな企業とは違う強みだと感じています。
──「ETHGlobal Tokyo」などWeb3関連のハッカソンにも積極的にエントリーし、結果も残されています。メガベンチャーでありながらスタートアップ的なフットワークの軽さと現場感がありますよね。
陶山:ハッカソンは「あれ、出るの?」「スポンサー側じゃなくて?」と驚かれることもありましたね(笑)。
ただWeb3は本当に変化が激しい領域。肌感覚で現場の空気、情報をつかむ必要があります。そのためにハッカソンで実際に開発することを通して技術検証を高速化することは有効ですし、国内外の業界をリードしているチームや組織とつながりができるメリットも大きいです。
※「ETHGlobal Tokyo」でつくったプロダクトについてはこちら
https://engineering.dena.com/blog/2023/05/ethglobal-tokyo/
超スピード開発を支える、「住む」チーム
──Web3開発チームの体制、特徴を教えてください。
陶山:兼務のメンバーを含めると11名のチームです。エンジニアが8名、そこに企画部の私ともう1名、そしてマネージャーですね。
中島:年齢的には20代の若手が半分以上ですね。Web3の専門性が高いのはもちろんですが、幅広いスキルを持っている人材が多いのが特徴です。
学生時代からコンサルタントとブロックチェーンエンジニアを経験してきた新卒1年目のエンジニアや、某SNSの成長期を支えたマネージャー、起業家でありながらDeNAで働くAIスペシャリストなど、テクノロジー×ビジネスのクロスファンクショナルな人材が多いです。
──その精鋭たちのチーム運営で意識されていることは?
陶山:大きく2つあるかなと思っています。
1つは、「プロダクトづくりのサイクルを極限まで短く」していることです。
通常、プロダクトの開発は3ヶ月~半年くらいがスタンダードですが、我々のチームは「30~40日」のスパンでマーケットリサーチから、検証、デモ、実装まで終わらせて、結果を振り返ってプロジェクトと発展させるか軌道修正するかまでやりきります。
こうして意思決定をすばやくし続けることで、学習量を増やしている。先述通り不確実性が高く難しいWeb3業界で挑戦する意味でも、チームと個の強さを磨き上げていく意味でも適したスタイルだと感じています。
そしてもう1つは、「一緒に住んで開発する」ことですね。
──えっ、「住む」ですか?
陶山:はい(笑)。ハッカソンに参加する前や、プロダクトの作業が大詰めになったとき、一軒家を借りて、そこに集って生活しながら開発する機会をつくっています。
DeNA全体ではリモートワークを推奨していますが、事業のフェーズにもよると思っていて、我々のような初期フェーズでは対面の方がやりやすい。リアルに膝を突き合わせたコミュニケーションの情報量は圧倒的です。
非同期で濃密なコミュニケーションを取ってつくりあげることで、プロダクトの可能性に狂気的な確信を養成し、多大なコミットメントを引き出すことができます。何より、同じ屋根の下で互いの思考や嗜好を理解していき、気心が知れていくことは、高速でお互いの理解を促すので、普段の業務やコミュニケーションの遠慮を下げることにもつながります。
中島:全然違いますよね。やはり集中できますし、手も頭も早く動いている実感があります。
──そのような「住む」スタイルは、どのようなきっかけでスタートを?
陶山:今年4月のハッカソンのときに「試しにみんなで泊まってみよう」と一週間ほど家を借りて、一気にプロダクトをつくるという試みをしたんです。
正直しんどかったのですが、しんどさより「楽しさ」が勝っていた。短期間、同じ目的で同じ方向を向き続けるチームビルディングの強みを皆が実感できたので、自然発生的に繰り返すようになった感じですね。
──本当にスタートアップというか、ガレージベンチャーのような感じですね。
陶山:そうですね。しかも、DeNAクオリティを持った意識とスキルの高いメンバーが泥臭いベンチャーのスタイルで日々邁進している。それは誇りです。
「なぜあえてDeNAでWeb3開発を手掛けるのか?」の問いに答えるならば、「このメンバーだから」に尽きる。代替できない時間と魅力と価値が、ここにはあるんです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。
執筆:箱田 高樹 編集:川越 ゆき 撮影:内田 麻美