2017/12/15

オートモーティブからベイスターズまで、あらゆる領域と連携。AI導入成功の秘訣は、事業との“距離感“にあり

IoTやビッグデータ、クラウドといった最新技術は、サービスの機能を向上させ、私たちの生活をより便利にしてくれます。そうした各技術の中でも、近年特に注目を集めているもの。それはAI(人工知能)です。AlphaGoが人間のプロ棋士に勝利したことが示すように、AIの発展は「人間にしかできない」と思われていた領域を塗り替え、大きなイノベーションを起こしつつあります。

 

その先端を担うべく、DeNAではAIを実務に活用するための研究開発を行う「AIシステム部」を発足し、AI領域に力を入れています。各種ゲームやアプリをはじめ、自動運転時代の技術にまで応用されるDeNAのAI技術。最先端のテクノロジーを用い、新たな事業を見据える AIシステム部 部長 山田憲晋が、同部署の目指すビジョンを語ります。

 

インターネットビジネスにAIの力をプラスする

――AIシステム部は、どのような経緯で立ち上がった部署なのでしょうか?

 

憲晋:順を追って話すと、DeNAには創業当時からデータを分析してサービスを改善する文化がありました。例えば、「性別年齢層別にどれくらいの利用者がどのコンテンツを使っているか」「どれくらいの利用者が継続的にサービスを使っているか」といった情報を分析してサービスを改善していたのですが、分析の考え方を根本から見直すきっかけがありました。2009年にリリースした弊社のモバイルゲーム「怪盗ロワイヤル」の大ヒットです。

 

従来のコンソールゲームでは、一度ゲームを開発してリリースしたらおしまい、というのが当たり前でした。しかし、モバイルゲームはそうではありません。ウェブ技術で作られておりゲームの改修が容易に可能であったため、定期的にゲーム内イベントを実施したり、新機能を追加したりしながら、利用者を飽きさせずに長期間ゲームを楽しませることが可能になりました。だからこそ、利用者の行動ログを取得・解析し、より深いレベルで利用者行動を理解して、ゲームを改善していくことが重要になったのです。

 

例えば「怪盗ロワイヤル」では、利用者同士のお宝の取り合いによるドキドキハラハラ感がとても重要なゲームでした。利用者が何個のお宝を持っていてどういうお宝が取り合いになっているかをデータ分析により把握し、白熱したお宝争奪バトルを実現するためにパラメータチューニングなどを実施していました。

 

また、ゲーム内の各種データ分析だけではなく、ゲームプラットフォームである「Mobage」上での新規ゲームのレコメンデーションや、友達のレコメンデーションにおいても、利用者のゲームの嗜好性やプレイスタイルに合わせた機械学習によるレコメンデーション機能を導入してきました。

 

システム&デザイン本部 AIシステム部 部長 山田憲晋(やまだ けんしん)
1995年4月 NECに入社。TCP Offload Engine等の研究開発に従事。2008年7月DeNA入社。Mobageのサービス開発・インフラ運用、ゲーム開発チームのマネージメントを経て、現在は、DeNA全社のディープラーニングを中心としたAI活用事業の研究開発 及び 分析基盤の構築・運用を行うAIシステム部のマネージメントを行っている。

 

――そうしたデータ解析業務の発展型として、AIシステム部が生まれたのですか?

 

憲晋:そうですね。近年、ディープラーニングの技術が世の中に大きな変革を起こしています。人間の精度を超えた画像判別ができるようになったり、AlphaGoが囲碁のトップ棋士に勝利したり。そうした出来事が起きる中で、当社の代表取締役社長兼CEOである守安功が「今後、AI技術力をDeNAの大きな柱としていきたい」という考えを打ち出しました。

 

これまでDeNAは、インターネット上での大規模なシステム構築力・運用力を武器の一つとしていくつものビジネスを成功させてきました。しかし、クラウド技術の進展とともに大規模トラフィックをさばくインターネット技術はコモディティ化が進んでおり、技術的な強みとは言えなくなりつつあります。

 

そこで、DeNAは今後10年でインターネット+AIのコア技術を保有してビジネスを加速させていこうという大方針が定められました。DeNAでは、以前より少数精鋭で機械学習やディープラーニングの取り組みを実施してきましたが、より大規模なAI研究開発の取り組みを加速させるためにAIシステム部を発足しました。

 

幅広いスキルのエンジニアが集まり、強いチームとなる

――AIシステム部には、どういった種類のエンジニアが所属していますか?

 

憲晋:日々最新のAI研究をウォッチしながら実用に向けた機械学習モデルの研究開発を実施しているのがAI研究開発エンジニアです。ただ、良い機械学習モデルのアルゴリズムを開発するだけでは、機械学習を実サービスで動作させることはできません。機械学習に利用するデータの収集、蓄積、加工のためのデータ基盤の構築・運用を行うデータエンジニアや、機械学習アルゴリズムを大規模サービスで分散実装する分散エンジニアがいます。

 

また、データアノテーションにも力を入れています。機械学習ではデータが重要ですが、加えてデータにつけられた「ラベル」がとても重要です。例えば、自動運転では車内から撮影したカメラ映像に対して「レーン」「車」「歩行者」等のラベル付けを行います。AI研究開発エンジニアからの様々なデータアノテーションの要望に応えて、効率的に大量のデータを作成可能にするために、Webエンジニアがデータアノテーションツールの開発を行っています。AI研究開発エンジニアは自らデータアノテーションに頭を悩ませなくても必要なラベル付きデータを集められる体制を構築しています。

 

 

さらに、最近ではデータサイエンティストの採用も積極的に進めており、優秀なKaggle Masterの方を募集しています。AI研究開発エンジニアは専門技術を持ちながらAI研究を日々ウォッチしているのですが、データサイエンティストは様々な機械学習やデータ分析手法を駆使して、泥臭い実問題を楽しみながら取り組める方たちです。

 

例えば、「横浜DeNAベイスターズのチケットがどれぐらい売れるか予想する」という問題があるとします。その場合、天気、対戦チーム、出場選手の状態など数えきれないほどの変数を考慮しつつ、データ解析を繰り返しながら予測モデルを作っていくことになります。膨大なトライアル&エラーのくり返しになるのですが、対象となるビジネスドメインとデータとの試行錯誤のプロセス自体に興味関心を持ち、のめり込める方でないと良いモデルを作ることはできないです。 

 

事業の多様さや、他社とのパートナーシップは、大きな強み

――他企業にあるAI関連の部署と比較して、DeNAのAIシステム部が持つ強みはどういった部分にありますか?

 

憲晋:強みは2つあると考えています。1つ目は、DeNAがさまざまなサービスを持っていること。ゲーム・エンタメ事業やEC事業をはじめとして、最近ではヘルスケア事業、オートモーティブ事業のほか、横浜DeNAベイスターズをはじめとするスポーツ事業などもあります。

 

 

そうした各事業のデータが、DeNAの運用する分析基盤に蓄積されており、日々データ分析に基づく意思決定が行われています。DeNAのAI研究開発エンジニアは、様々な事業に蓄えられた実データに対して、先端のAI技術を適用しながら何ができるのが、どんな問題解決ができるかを肌感をもって体験できます。

 

また、機械学習アルゴリズムの実サービス適用・改善に向けても、事業部のメンバーとスピード感を持って実現することができます。実サービスのデータを触りながらAI研究開発を進める体験はなかなかアカデミックな研究活動では味わうことの難しい醍醐味だと思っています。

 

2つ目は、社会に大きな影響力を持つパートナーとの協業案件を通して、DeNAの力だけでは実現できないようなビジネスにチャレンジできること。

 

例えば、2017年4月からヤマト運輸株式会社と「ロボネコヤマト」という実用実験を神奈川県の藤沢市で行っており、AIシステム部が開発したAI技術が利用されています( https://dena.ai/work1.html )。次世代配送サービスの実現を目指す「ロボネコヤマト」では、柔軟で自由な荷物の受取を実現すべく、配送時間を10分ごとに指定でき、対象エリア内であれば好きな場所で受け取れます。最適ルートの探索や集配のスケジューリングなどにAI技術を利用しています。

 

▲ロボネコヤマトはヤマトホールディングス株式会社の登録商標です。

 

他にもまだ表に出すことのできないいろんな取り組みを仕込んでいます。

 

――大きな可能性を秘めていますね。それ以外に、自社サービスでのAI活用事例についても紹介していただけますか?

 

憲晋:「Mobage」内に、いろいろな人が集まって会話を楽しむ「みんなとチャットβ」というチャットコーナーがあります。チャットルームの中には、盛り上がっているところもあれば、利用者が少なくて閑散としているところもありました。そのため、後者のチャットルームに入った利用者は、すぐに離脱してしまうという課題があったのです。その課題を解決すべく、チャットBOTを導入しました。

 

チャットBOTの構築にあたり、過去にチャットサービス内で交わされた大量の会話データを使ったディープラーニングのモデルを利用しているのですが、場を盛り上げることが得意なペルソナを設計した上で、利用者に愛されるようなキャラクター「しぃな」を投入しました。おかげさまで「しぃな」はとても好評で利用者のリピート率が向上しました。

 

 

他には、「逆転オセロニア」のゲームAI研究開発(https://dena.ai/work3.html)に取り組んでいます。「逆転オセロニア」は、オセロとTCG(Trading Card Game)を組み合わせた対戦ゲームなのですが、キャラクターの持つスキルの強さによってゲームのバランスが保たれているため、これらのパラメータの事前調整は運営上とても重要です。一方で、こうした調整には、非常に多くの工数や見落としリスクがある、という課題もあります。

 

私達のグループでは、この課題に対応するために、キャラクターの運用を自律的に学習できる強化学習技術を用いて、キャラクターのリリース前にスキルの定量評価が出来るような仕組みの研究開発に取り組んでいます。「逆転オセロニア」のように複雑な戦略ゲームにおいて、環境に柔軟に対応できる強いAIが出来れば、これまでは実現できなかった新しいユーザー体験を作れる可能性も見えてきます。

 

 

Atariのブロック崩しやAlphaGO等のゲームを解く強化学習技術は人工知能分野でもっとも進展の激しい分野の1つですが、実ゲームでの適用事例は殆どありません。DeNA内でユーザーデータやゲームのシミュレータを持つことで、こうしたゲームAIの研究開発にチャレンジができる環境は非常に恵まれているなと実感しています。

 

――ベイスターズの各種業務においても、AI導入は進んでいますか?

 

憲晋:機密事項が多くて残念ながら詳細を話すことはできないのですが、スタジアムに来ていただいているお客様の満足度向上、横浜自体のスポーツによる地域活性化などを対象に、AI活用に向けた研究を進めています。

 

▲AIシステム部の一画にある書籍。AIやディープラーニング関連の本が数多く並んでいた。

 

国際学会に年1回無条件で参加可能。アウトプットの機会が成長を促進する

――メンバー育成のため、実施している施策はありますか?

 

憲晋:最新のAI技術に触れた上で、発信する機会を意識的に作っています。例えば、毎週1時間半、AI研究開発エンジニア2人が新しい論文や技術について発表してディスカッションしています。発表された内容で社外への共有可能なものに関しては社外にも公開しています。

 

Generative Adversarial Networks (GAN) の学習方法進展・画像生成・教師なし画像変換 from Koichi Hamada

 

モデルアーキテクチャ観点からのDeep Neural Network高速化 from Yusuke Uchida

 

FeUdal Networks for Hierarchical Reinforcement Learning from yu kono

 

また、社内の情報共有以外に、社外での勉強会や学会への参加・発表も積極的に推進しています。AI技術は北米を中心に新しい技術が生まれてくるので、部のメンバーは国際学会に年に1回無条件で行って良いことにしています。最先端AI研究を生み出している海外の研究者との議論を通して参加メンバーも大きな刺激を受けてきます。帰国後は、学会参加報告として簡単なレポートを作成して発表してもらうことを義務付けています。

 

――インプットだけではなく、アウトプットが伴った方が良いのですね。

 

憲晋:はい。アウトプットをすることで優秀な研究者とのコミュニケーション機会が増え、さらなるインプットにつながります。国際学会の読み会( https://engineer.dena.jp/2017/07/iclr2017.html )を主催したり、社外向けのAIイベントを主催( https://shibuya.ai/ )していたりもします。

 

優秀なAI人材は各社取り合いになっている状況でもあるので、自分たちの技術や業務を外部に発信していくことで、DeNAを理解してもらって人材獲得に繋げられたらと思っています。

 

▲活発に議論し合う、AIシステム部のメンバーたち。

 

Slack情報共有チャンネルを作り、社内コミュニケーションを活性化 

――ほかに、社内コミュニケーションの活性化のために実施していることはありますか?

 

憲晋:ビジネス向けのコミュニケーションツールであるSlackを積極的に活用しています。各種のプロジェクトや技術領域毎にチャネルが作成され、Slackを見ていればほぼ部内の状況がわかると言えるほど活発な情報交換がされています。

 

AIシステム部では多くの社員がリモートワークを活用していますが、Slackがコミュニケーションの中心にあるので、社員同士のコミュニケーションがなかなか活性化しないなどのよくある問題は発生しません。

 

一点重要なのが、秘匿案件以外はAIシステム部内Slackのチャンネルをパブリックチャンネル(※)として運用しています。そうしておくことで、他のメンバーが興味を持って覗きに来たり、ディスカッションに加わったりが自由にできます。情報を部門全体でオープンにすることで、意見交換が活発化しています。

 

※…ワークスペースのメンバー全員に公開したい時に使うチャンネル。このチャンネルに投稿されたメッセージやファイルは、ゲストメンバー以外の全員が閲覧・検索できる。

 

全てのAIエンジニアが、フルスイングできる環境を

――少し話が変わりますが、DeNAの各部署との連携や他社との協業が上手くいっているのは、AIシステム部がどのような特徴を持っているからなのでしょうか?

 

憲晋:AIシステム部の成り立ちに起因しているように思います。冒頭でもお話ししたように、もともと私たちの組織はゲーム事業の一部としてスタートし、事業のニーズから分析組織ができ、そこからAI技術を強化して現在の形になりました。

 

だからこそ、AI研究開発エンジニアが「事業成功のためのAI応用」という目的を大事にしていることが大きいように思います。仮に、事業とは完全に切り離されたところから優秀なAI研究者を連れてきて研究組織を立ち上げようとすると、会社や事業がどう回っているか理解することが難しく、事業部からの信頼関係を勝ち取ることにも時間がかかるので、なかなか上手くいかないと思います。

 

――最後に訊きたいのですが、そのAIシステム部をより良くするため、憲晋さんはマネージャーとしてどんなことを心がけていますか?

 

憲晋:一人ひとりのエンジニアが自分の強みを発揮して、輝いているか。彼らが本当に満足して働けて、かつキャリアアップできているかは常に意識しています。

 

DeNAは今、AI研究開発エンジニアの採用に力を入れていますが、彼らは、これまで採用してきたようなサービス開発系のエンジニアとは異なります。よりアカデミックなバックグラウンドを持って事業会社に入ってくる、今までのDeNAとはタイプの異なる人材です。研究開発もやりたいし、社会貢献や事業貢献もやりたい。そういうマインドを持って来ています。

 

AI先端研究をしっかりキャッチアップしつつも実用につながるアウトプットを出すというのは、口で言うほど簡単ではないと思っています。DeNAが会社として求める事業貢献につながるアウトプットを出してもらいつつも、AI研究開発エンジニアにとってのベストな環境をつくり、彼らの強みが発揮される組織づくりをしていく。それが、私の使命だと思っています。